1.歌詞と曲と演奏など
(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)
2.歌手のこと
(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)
3.歌い方、練習へのアドバイス
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1.「愛遥かに」は、ミルバの他の楽曲に比べると、息混じりの弱めの声を多用していて、抑えた表現が中心になっている点で、ミルバの声を聞きたいファンには、少し物足りなさを感じさせるものではと、思ってしまいます。
2.ミルバは、太めで艶のある、無理のない立派な声を基本にして、マイクを活かした息混じりの声もうまく使いこなしていますが、やはり、その声を存分に活かした「タンゴ・イタリアーノ」や「カンツォーネ」・「さらば恋人よ」などで、その声の美しさとパワーを味わうのが、「声」を聞くものとしてはお勧めです。
「リコルダ」あたりからは、息混じりの声も、3~4割ほど使うようになっています。
おもしろいのは、「ウナ・セラ・ディ東京」では、弱く小さな声も、極力艶をなくさないように歌っていることです。
3.ミルバを真似することは、悪くありませんが、自分の声域に無理をしないように、気をつけましょう。(♭Ξ)
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1.イタリアンポップスの代表的な曲ですが低音から高音まで幅広くロングトーンも多いので声の技術が見えやすい曲だなという印象です。リズムやメロディそのものは特に難しいとは思いませんが、歌いこなすのは難しい印象です。
2.私がイタリアで勉強するときによくテレビ番組などで聞いていたポップスの歌手達よりも、もっと個性的な声と表現で歌っている印象です。あえて唸るような声の使い方やか細く歌う表現など表現の幅がダイナミックで、より土の香りがするような歌手の印象です。
3.胸に当てる声から頭声への移行がとてもスムーズです。しかし基本的には胸の音の強さが凄いので胸の一番高い骨に声をあてるようなイメージの訓練が必要です。
勝手な印象では、この曲とミルバの声がとてもよくあっています。あまり真似しようと思わず自分の声で歌うようトレーニングしてください。(♭Σ)
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1.別れた恋人への心情を語った女性目線による内容の歌詞で、原語はイタリア語です。曲の旋律自体は、ほぼA-B-Aという構成ですが、同じ言葉の繰り返しではなく状況や心情を次々と語っていくような歌詞になっています。演奏にあたってはしっかりと歌詞の内容やその背景を把握することが必要です。
2.ミルバは女性としては、やや低めの声だと思いますが、自身の歌いやすい音域で伸び伸びと歌っているという印象を受けました。中間部で音域が上がって旋律が盛り上がる際も、ただ張り上げて歌うような感じの強い声ではなく、歌詞の内容から感情が高ぶって自ずと声量が上がったというような自然な歌声に聞こえます。
3.歌詞や旋律の構成からも、サビ以外は語っているような歌い方になると思います。ただし、最初からミルバのような歌い方をすると息の流れが停滞しかねません。息が停滞したままサビに入るとフレーズの盛り上がりで息が足りなくなり、喉まわりが力んでしまいます。まず譜読みの段階では、出だしからしっかりとした声で練習し、音程やリズムに慣れてきた後で歌詞やフレーズの表現に入ってください。(♯α)
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1.本当は愛しているのに、うまくいかなくなってしまった。その気持ちを整理したいのか、相手に訴えかけつつ終わりにしようとしているような、哀愁漂う歌ですね。
2.イタリア語の発音・発語がわりと的確に行われているように聞こえ、イタリア語の発語によって、表現を効果的に活かしながら歌えている印象を受けます。全体的な滑らかな言葉裁き、二重子音の明瞭さ、アクセントの的確な歌い方など、参考になる部分が多いと思います。声そのものは、低音域をやや押し気味に聞こえます。
3.ミルバの歌い方を参考にしてみるとわかりやすいかと思いますが、アクセントの位置や二重子音などを的確に発音することによって、表現も活かしやすくなると思います。イタリア語ならではの滑らかな言葉裁きはレガートに歌うことにつながりますし、相反するようですが、二重子音の明瞭さも重要な要素です。それらを意識して語り、その要素を活かして歌うように心がけていくと効果的に歌えるようになるのではないでしょうか。(♭Я)
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1.A メロ、Aメロ、 サビ、Aメロ、サビ(インストゥルメンタル)、Aメロ、サビ(インストゥルメンタル)という構成です。劇的な余韻を持たせる効果を狙ってか、インストゥルメンタルのメロディで終わりを迎えます。
2.ミルバは、30年前くらいに日本でもNHKや、コンサートでよく歌っていました。ピアソラとの共演も好評を博しました。少しハスキーな声と、圧倒的な表現力、言葉のさばき方が絶妙で、クラシック歌手がその表現方法を学びに行くほど、幅広く感動を与えた歌手です。言葉の入り方、抑揚、語り方、息交じりだったり、息のスピードなど参考にできるのではないでしょうか。一見暗い声のように聞こえますが、よく聞くと明るさも混じっていて、これがイタリアの声の魅力で、人々を引きつけている要素ではないかと思います。迫力のある声ではありますが、低い声も高い声も頭声で、決して胸声を張っているわけではありません。見た目も赤毛のロングヘア―を振りながら歌うので、インパクトが大きいうえに、ものすごい集中力で一曲を表現をするため、聴衆も曲が始まったら、終始、目が離せません。
3.ぜひミルバの演奏から、言葉の表現を盗んでみましょう。日本人が歌うとどうしてもカタカナの羅列のようになってしまいかねません。どのように抑揚がついているのか、どこで抜いているのかなど参考にしてみましょう。冒頭ですとtrascuro(uの母音) questo(ueのしならせ方) anch'io(iの流れ方) quasi(aの高音の抜き方) colpa(aの終わらせ方の息) sei tu(uの終わらせ方の息) son(o母音) cambiate(a ia の母音) perche(上向する高音の抜き方) contro te(上向する高音の抜き方) tu sei forte(上向する高音の抜き方) io (iの流れ方)vorrei(上向する高音の抜き方) fatto(上向する高音の抜き方) l'impossibile(上向する高音の抜き方)
「上向する高音の抜き方」で表現しているようなやり方は、バッハやモーツアルトを歌うときにもよく用いる手法で、とてもクラシカルな表現ではありますが、万人が心地よく受け取るものなのでしょう。棒歌いにならない方法でもあります。彼女の歌唱は、どの母音も、同じではないことがわかると思います。
歌唱時とても大きな口を開けるのも彼女の特徴的です。身体からエネルギーを放出せんばかりの歌唱です。おなかから「ア~」と叫ぶつもりで(喉をつぶしてはいけません)歌ってみてください。(♯β)
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1.印象的なアカペラで始まります。アコースティックな伴奏なので声と息がよく聞こえてきます。不安定なコードに注目して下さい。はじめのコードはセブンスです。その後ずっと続く不安定さは1回目のAメロが終わったときにやっといったん安定します。この「不安定な感覚」は歌詞の内容によるものです。何と直接的で情熱的な歌詞でしょう。「外出もしなくなったし、何を食べてもおいしくない。あなたのせいなの。」日本の歌でこんな情熱的な歌詞を歌えるでしょうか。テクニック的には、上への跳躍音型が多いです。簡単そうに聞こえますが、抜いているようで身体から離さないで歌うことが必要です。難しい技術が要求されます。
2.息がよく聞こえるアレンジなので、まずはよく聞いてみてください。声の強さに応じてさまざまな息が聞こえるでしょう。歌いだしの「Da troppo tempo」母音の置き方、ストレスのかけ方をよく聞いてみてください。また、同じ歌詞ですが、サビからAメロに戻るところの息も絶え絶えの「Da troppo tempo」の歌い方です。声の使い方、感情移入、すべてがこの一言に入っています。
3.「Da troppo tempo」歌いだしと、サビの後。この2か所をフレーズコピーしてみましょう。歌いだしはあまり弱く歌いすぎると(アカペラでもあるし)かすれてしまいます。ミルバもほんの少しアクセントを置いています。サビの後は、感情移入の練習に使ってください。まずは極端に。その後でコントロールを学んでください。(♭∴)
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1.かつての情熱が冷めてしまった二人の歌。主にギターによる静かな伴奏による諦念のAメロ、6度の跳躍が印象的なメロディックなサビ。
2.ミルバの歌は低音まで色彩豊かでしっとりとした艶を湛えています。大声を張り上げるわけでもないのに、きっと生で聞いたら会場の隅々まで染み渡る声であろうことが想像に難くありません。ファドを思わせるような繊細な襞が美しい声です。
高音へ向かっての跳躍で後ろをスッと抜くように歌うのは非常に高い技術です。どこを切り取っても陰翳に満ちており、それが押しつけがましくないので、いつまでも聞いていたいと思わせる歌です。
3.Aメロは歌おうと思わず、語りを少し揺らすという発想で練習するといいと思います。サビはレガートで歌えるように母音唱などでよく練習してから歌詞で歌うといいでしょう。半音階の進行は和声をよく味わって感情の揺らぎを表現しましょう。(♯∂)
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「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/)
14.ミルバ 「愛遥かに」「タンゴ・イタリア―ノ」
ミルバは、私が最後に会ったときのステージを、感謝を込めた詩をサイト※に載せています。歌としてもヴォイトレとしても、私に最大の影響を与えたアーティストの一人です。
「タンゴ・イタリア―ノ」には、3つのリズムが入っています。「タララ、ラーラララー」のフレーズだけで、私はその才能に驚いてしまったのです。
カンツォーネで学ぶ意味は、これまでも述べてきました。メロディの美しさ、構成、展開の確かさ、歌でなく、歌唱、いえ声での演奏なのです。
二流で終わる人は、技術ばかりを求めてきますが、一流になるには、精神を、そして、一流の作品の紹介や聞き方、学び方を得ていくことです。
「愛遥かに」
カンツォーネの女王、日本の歌は、「ウナ・セラ・ディ東京」に「昴」、「夜明けのスキャット」など多数。
来日するごとにテーマを変えたステージを、「エル・タンゴ」ピアソラの「リベル・タンゴ」ほか、「カルーソ」「泣かないでアルジェンティーナ」ピアフの曲をイタリア語でカバー。
「ミルバ日本を歌う」
「谷村新司を歌う」
「新カルメン」「リリー・マルレーン」
「エンニオ・モリコーネを歌う」
「ミルバ・カンタ・ブレヒト」
「ナポリターナを歌う」
あらゆる歌を、いろんな言語で歌っています。
ミルバについては、聞きこむしかありません。聞くだけなら、ミーナの方が楽しいでしょう。
[参考]
オルネラ・ヴァノーニ
オルネラ・ヴァノーニにスケールの大きさを学びましょう。「素敵なあなた」「生命をかけて」「カーザ・ビアンカ」「チェルカミ」(「逢いびき」は、2004年「オーシャンズ12」にも使用)
「ローマよ今夜はふざけないで」「アモーレ・ミオ」
「強く抱きしめて」「リトルネライ」
「エ・ヴェーロ」最初のエ・ヴェーロの6回くり返しのところです。
似たフレーズで、アリダ・ケッティの「死ぬほど愛して」(1960)のところ、「アモーレ・ミオ」最初のアモーレの4回のくり返し「…アモーレ・ミオ、やさし君に…」、「生命をかけて」のサビ。
※https://www.bvt.co.jp/prof1-1/