V048「そして今は」 ジルベール・ベコー

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

--------------------------------------------------

 

1.大失恋の曲です。クラシック好きなら、「ボレロ」に伴奏が似ていると感じますが、意図的にそのような作りにしたようです。

 

2.ジルベール・ベコーは、他の曲では、なかなかツヤのあるよい声をしていますが、この曲に限っては、気持ちを込め過ぎてツヤをなくした声を使っています。他の録音では、それでも少し控えめに使っていますが、特にこの録音では、多く使っているようです。普段のベコーをよく知っている者には、むしろ同情や感銘を与えるかもしれませんが、声を犠牲にした表現は、少しもったいないと思います。歌詞に思いを込めるあまり、とても子音が強く発音されているのも、聞く者の、声そのものへの意識が薄くなる原因でしょう。結局、熱唱するあまり、力が入り過ぎて、声にブレーキをかけることになっているようです。

この曲をカバーして大ヒットしたシャーリー・バッシーは、堂々と、声の力でこの曲を歌いあげています。

 

3.この曲のオリジナルのベコーに影響されて、力んでしまうカバーが多いですが、シャーリー・バッシーなどを参考にして、力み過ぎないように気をつけて練習しましょう。(♭Ξ)

 

--------------------------------------------------

 

1.ボレロを連想させるような打楽器のリズムとその上で歌われる、フランス語。規則的なリズムと会話のような歌の調和が楽しい一曲。

 

2.カンツォーネのように歌いあげるわけでもないのに、シャンソンでありがちな息漏れが少ないのが特徴だなと感じました。せりふに音程がついていて、そのせりふがよくなる声で素晴らしい。

 

3.まずは歌詞をしっかりと胸でとらえられるように喋るといいと思います。胸で言葉をとらえられると基礎力があがっていきます。(♭Σ)

 

--------------------------------------------------

 

1.歌詞はフランス語で、恋人と別れてしまった後の喪失感や切実な心境を歌っています。ですが短調で悲しみにくれた感じではなく、長調でむしろ切実さを強く訴えているような印象を受ける曲です。旋律は短めで休符も多く、想いを語り始めるといった歌い出しではありますが、ボレロのリズムがあることで心は穏やかではないと感じさせます。

 

2.ベコーの声は伸びもよく聞きやすい声ですが、それ以上に表現力がとても豊かであることが聴衆を惹きつけるのだろうと感じました。仮にフランス語がわからない人がこの曲を聞いたとしても、何か切実な思いを訴えているという感情の動きはちゃんと伝わると思います。大げさかもしれませんが、曲を聞き進めるうちにまるでベコーと曲が一体化しているような感覚になりました。

 

3.全体的に短い旋律が続くので、表現や気持ちの部分が途切れ途切れにならないように気をつけたいです。いったん音程を外して、歌詞だけの発音練習をしておくと効果的です。詩の朗読のような感じで滑らかに発音ができるようにしておきましょう。歌詞を全体的に把握しておくと、音程をつけた際にも休符で流れが止まることなく(音楽的に途切れることなく)先を捉えて歌い進めていけます。(♯α)

 

--------------------------------------------------

 

1.愛する人を失った気持ちを、単なる喪失感というよりも、熱く悶々と歌い上げるような曲に仕立てられていると思います。オケのリズム感などは、ラヴェル作曲のボレロによく似ており、このリズムを鼓動や熱き血潮に見立てているのかもしれません。

 

2.ベコーの歌い方は、悶々とした気持ちを表現するような歌い方が印象的ですが、やや攻撃的な表現が勝っている印象を受けます。ことばを立てる際に子音を固く立て、顎も固くしているような印象です。これはこれでひとつの形なのだと思いますが、歌い癖を参考として真似するというのは、あまり歓迎できるものではないかもしれません。

 

3.子音を立てたり、感情をむき出しに歌うような印象を受けましたが、必ずしもそれだけが正解の歌い方とは思えません。ほかにも歌い方はあると思いますし、歌い手が変われば、十人十色の歌い方があってよいのではないかと思います。この曲はフランス語で歌われていますが、ことばのアクセントの位置や母音をもう少し重視してもよいのではないかと思います。朗々と歌うなかに怒りや悶々とした気持ちがあると、ただ怖いだけではなく、もっと奥深さが表現できるようになるのではないかと思いますし、声そのものも無駄に消耗せず演奏に効果的に活かせるのではないかと思います。(♭Я)

 

--------------------------------------------------

 

1.ボレロのリズムが終始一貫して力強く流れている伴奏です。さらに、力強い声に呼応するかのように、鋭い刻みの音型で合いの手のようなリズムを入れているため、とても迫力のある激しさ表現することにつながっています。AABB’AABB’Aという構成で成り立っていますが、最後のコーラスAの部分では、半音上に転調して、そのままアッチェレランドで終わるというアレンジで締めくくります。

 

2.息のスピードが速く、そのスピードに乗せて発音しているため、言葉の立ち上がりがとても鋭く、聞く者を魅了し、力強い表現が可能になっています。叫んでいる感覚で声を出しているようにさえも思えます。そのため、フランス語がとても明確に発音されていて、とても聞き取りやすく、日本人の歌うシャンソンと明らかな違いがあります。時々シャウトの声を入れながら表現しているので、非常に切実な訴えが表現されています。

言葉の頭に着目してみると、[p]は破裂音なので言わずもがなですが、[m]や母音までが破裂しているかのような音に聞こえるほど、発音も爆発的に歌っています。

 

3.この曲を練習する際には、この歌手の息のスピードや、語頭の子音や母音の爆発力を意識して真似てみましょう。このような爆発的な発音や息の流し方は、日本語にはないので、日本人には得にくい感覚かもしれません。しかし、このようなスピード感のある音の立ち上がりを訓練することで、表現の幅が広がり、お客様に訴える強さを培うとてもよい練習になると思います。(♯β)

 

--------------------------------------------------

 

1.勢いのあるアレンジです。ボレロのリズムパターンが単調に聞こえるかもしれませんが、よく聞くといろいろな工夫があります。イントロのハーモニーにも意外性があるし、憂いのあるヴァイオリンのメロディも聞こえます。それに、ユーモラスな金管、太鼓の音。とても「大げさ」で「楽し気」ですよね。そして、歌手も本当に一生懸命歌っている。情熱的に、何かを伝えようとしている。この裏に、何とも悲しい歌詞があり、ストーリーがあるのです。それがこの曲の魅力です。

 

2.言葉を一つずつ投げるような、一見乱暴な歌い方に聞こえます。しかし、よく聞くと、言葉が何個かでフレーズになっています。説明しているところと、感情が正面に出ているところに大きくわかれるようです。感情の中でも「怒り」と「悲しみ」を表現し分けているように感じます。歌詞がよくわからなくても、何度か聞いて、感情を考えてみましょう。

 

3.冒頭のEt maintenantをまずは練習してみましょう。フランス語はふにゃふにゃ、ぼそぼそ話すと誤解している日本人が多いですが、このベコーの歌唱をよく聞いてみましょう。歯切れよく、大きくはつらつと発音します。(イタリア語と同じラテン語系です)冒頭を何度か練習したら、単語ごとに聞こえやすいので、曲すべてを歌詞を見ながら片言でも構いませんので、フランス人に(ベコーに)なり切った気持ちで、曲を通して、録音と一緒に歌ってみましょう。(♭∴)

 

--------------------------------------------------

 

1.大切な人が去っていき、ひとり残された徒労感や無力感を嘆く詞とは裏腹に、音楽は行進曲のように強引に前進していきます。この音楽(4拍子)がラヴェルボレロ(3拍子)を下敷きにしていることは、和声進行や、けたたましい管楽器の使い方からも明らかです。自暴自棄なのか、空元気なのか、このちぐはぐさが皮肉で面白いと感じました。

 

2.ベコーは「神の思いのままに」などをしっとり真摯に歌い上げるときの声とは全く異なる声でこの曲を歌っています。瞬発的な力強さで吐き捨てるように、棘のある歌い方でやるせない怒りを表現しているようです。殊にpourqui? pourquoi? (誰のために?何のために?)などといった場所の刺々しい言い方にはドキッとさせられます。終始話すように、あるいは文句を言い続けているようで、「歌っている」という感じはしません。それでも音楽になっているのが凄いところです。

 

3.とにかくしゃべる練習が95%だと思います。歌おうという意識は捨て、いかに言葉をバシッと言い切れるかが鍵です。(♯∂)