V021「ソモスノビオス」(「It's Impossible」) クリスティーナ・アギレラ/ 夏川りみ(デュエット:アンドレア・ボチェッリ)/ペリーコモ(ソロ)

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

--------------------------------------------------

 

1.「It's Impossible」と「ソモスノビオス」は、同じメロディですが、ソロとデュエットということで、英語とスペイン語の歌詞ですが、歌詞の内容も少し違うようです。日本語訳から見ると、ソロは恋人に寄せる歌、デュエットは恋人同士の歌になっています。どちらも、優しく語りかけるような、歌い上げない歌い方が、一般的なようです。

 

2.ペリーコモは、張らない声で歌っていますが、自然な艶が随所に感じられ、そこを抑えているのが、魅力的です。

オペラ歌手のボチェッリは、ほとんどポップス用のソフトな声で、ペリーコモのようにソフトに歌っているのが、やはり物足りなく感じてしまいます。

夏川は、通常よりかなりソフトに、声の艶や輝きは、3割程度に抑えて、歌っているところが、声の技術を感じさせます。同時に、彼女の声のファンにとっては、物足りなさを感じてしまうかもしれません。

アギレラも、持ち味の激しい歌い口と強い声は、片鱗くらいしか見られず、やはり意外性を、求められているようです。

 

3.めいっぱい張って歌う曲ではありませんが、まずは抜かない、しっかりした声で、歌ってみましょう。初めから抜いて歌ってしまうと、曲の構成や、発声のポイントを、見つけにくくなってしまいます。また、メロディも、いい加減な音程とリズムになりがちなので、しっかり歌って、体に染み込ませましょう。軽く歌うのは、それからです。(♭Ξ)

 

 

1.スペイン語はイタリア語と語感がとても似ているので甘く歌うこのような曲はとても美しく聞こえてきます。長い音符が多用されていて、そこにことばのアクセントがきているので自然な口調でレガートが形成されています。そこにさらに甘いメロディがきているので愛の歌という印象がとても強いです。

 

  1. ボチェッリは、とても美声という印象です。なによりも喉がよく開いていて口腔がとても広い印象です。それに比べるとですが、夏川の声は、舌根や喉の位置が高くどこか子供っぽさが残ってしまう印象です。アギレラと比べてもその印象が強いですね。日本人の子供っぽい声というのは支えと舌根、軟口蓋の位置などが関係しています。響きを意識すると口の中で狭くつくってしまうことがあるのですが、そのような印象を夏川からはうけます。しかし、彼女の声は息漏れがしないので、クリアな声を保ったままスローテンポのバラードを歌えていて見事です。

近年の日本のポップスはスローテンポやバラードで息を大量に混ぜて歌うことが多く、これは声にとても悪影響を及ぼします。一見ソフトな感じに聞こえるのですが、息漏れというのは、声にもっとも悪い影響を与えます。今はそれでよくても、歌手としての寿命はとても短くなりがちです。

夏川の声は息漏れがなくしっかりと声門閉鎖が行われていて、今後も素敵な歌を歌われていくのだろうなという印象を与えてくれます。

アギレラは、比べると低い喉、よく開いた喉、低音から高音までパワフルに歌っていて、発声の基礎力の高さがうかがえます。比較するとどうしてもアギレラの方が大人っぽく聞こえてしまいます。また、アギレラが喉があいて、低い喉頭で歌えているのでボチェッリの声とよく合っています。

夏川の表現や声は日本人的には甘い恋人同士の歌のように聞こえますが、より大人っぽく聞こえるのがアギレラであり、二人の声のパフォーマンスも近いものがあると思います。

ペリーコモは、息の使い方が魅力的な歌手という印象です。声を鳴らすことと息でもっていく箇所をうまく混ぜています。

 

3.スローテンポの曲は難しいですが、体を鍛える上ではとても重要なのでトレーニングとしてもとてもよい曲だと思います。横隔膜とお腹の支えを意識してトレーニングすることも当然ですが、曲を歌う前に母音でゆっくりとロングトーンの訓練などもやってみるといいでしょう。メトロノームなどもアプリがあるので、それらを使って最初は♩=60くらいで4拍母音で伸ばしてみましょう。なれてきたら♩=48くらいまでを伸ばしてある程度の音域がのばせるといいですね。(♭Σ)

 

 

  1. 邦題は「私たちは恋人同士」で、あなたの愛なしではいられないといった内容の歌詞で甘い愛の歌です。デュエットで歌うにあたり、女性パートの方がより技術力を問われるような音の構成になっているといえます。演奏においては、ソロで歌う部分はしっかり表現し、二人で歌う部分では表現はもちろんのこと相手の声を聞いて全体のバランスも取っていくことが必要です。

 

2.夏川は、技術力が高く、歌詞の子音もうまく表現に取り入れている感じで、フレーズの輪郭がより明瞭に感じられます。個人的には夏川の方が魅力的で聞きいってしまうのですが、それぞれのよさがあるので、魅力的に感じるのも聞き手側の好みによるものが大きいです。

アギレラは、声を張ると喉を頑張っている感じが出るのですが、ボチェッリとユニゾンで歌う部分では相手の声によく耳を傾けていると感じます。声質の違いもありますが、アギレラが相手の声に寄り添っているので、二人の声の重なり具合が夏川以上にしっくりときます。

ペリーコモは、英語なので、その時点で「ソモスノビオス」とはかなり違う印象を受けます。子音を立てたスペイン語での歌唱とは対照的に、ペリーコモは歌詞の発音も音の運びもよい意味で流れるような歌唱だということが大きな違いとして感じます。歌詞の内容も違うので、夏川・アギレラは情熱的に感じ、ペリーコモは包み込むような温かさを感じるのは、それぞれにその歌詞を表現しているからだと思います。

 

3.スペイン語は母音も子音もはっきりと発音するので、日本人には取り組みやすい方の言語です。ただし歌うとなると、音程やリズムに気を取られて歌詞が発音しにくい(または相手が聞き取りにくい)ということは起きやすいと思います。ある程度メロディや歌詞の発音に馴染んだ後でいいので、歌詞の「リズム読み」をしてみましょう。粗削りな発音を磨いていくことができます。リズム読みとは、音程をつけずに、曲のリズム・音符の長さに合わせて歌詞を発音するという練習です。音程はないので声はフラットに(棒読みのように)出します。必要な子音はしっかりと発音し、母音も音符の長さに合わせて歌詞を発音すると、いざ音程をつけて歌ったときに声の進みがかなりスムーズになります。(♯α)

 

 

1.原語はスペイン語になります。恋人同士が自分たちの「愛のかたち」について、甘いことばを紡ぎながら歌っています。ラテン系の民族ならではの、愛を甘く語り合う表現がとっても大事な要素となると思います。

 

2.アギレラは、会話しているような比較的落ち着いたところの声を使いつつ、幅広いレンジをカバーしている印象を受けます。楽器と歌い方の乖離が少ない印象です。その結果、夏川の歌いかたと比較すると聞きやすいように感じます。

夏川は、日本人としては表面的にはきれいな発音に聞こえますが、声のポジションが比較的高めに感じますので、ボチェッリとデュエットすると、やや声が浮きすぎて角が立ちすぎるような印象を受けます。ことば悪くいうと「キンキン声」に近いような印象を受けてしまいます。もう少し落ち着いたところで歌う方が、丸みというか落ち着きというか、そういったものを感じられると思います。

ペリーコモは、英語の歌詞で歌われています。柔らかく丁寧で、甘く語るような印象を受けます。

 

3.よい声で歌ってほしいと思いますが、それよりもこの曲の持つ「甘き語り合い」をことばとして表現できることが最優先だと思います。ことばとしての甘美さ、どのような語り口を持つかが、この曲を歌う歌い手の資質として問われると思います。音楽をつけて歌う前に、色鮮やかにうっとりするくらい甘く語ること。ことばの出し引きや甘さなど、いろいろ研究してみるとよいと思います。(♭Я)

 

 

1.構成を簡単に見ておきましょう。大まかには、1番を男声が歌い、2番は、はじめは女声で途中からデュエットになります。3番は、始めは楽器で途中からデュエットになります。4番がコーダで、全音上に移調してずっとデュエットです。(ペリーコモは男声ソロ)

1つの「番」を細かく見ると、Aメロが2回とサビ、と考えられます。サビに進むにつれて音域が低くなるので、盛り下がらないように注意が必要です。

 

2.夏川は、透明感のある声です。迫力というより優しさ。

アギレラは、内に秘められたパワーがすごく野性的なのに、それを秘めて繊細に音をおいていっている気がします。

ペリーコモは、淡々と歌っているように思えますが、よく聞いてみると表現を全部変えています。歌い始めてすぐ、impossibleと3回歌いますが、すべて母音のおき方、子音のスピードを変えています。

 

3.歌いだし「ソモスノビオス」をフレーズコピーしてみましょう。男声は男声の歌いだしで、女声は女声の歌いだしのほうで挑戦してみましょう。深い息で支えて、フレーズを作って、響かせる。かなり体すべてを使う必要があります。できるようになってきたら、少しずつ長くしていきましょう。

またデュエットについて、あまり取り組む機会がないかもしれませんが、聞きあうことが大切です。聞かないで歌うほうが、テンポも遅くならず、音程もよいのです。お互いに聞くと、遅れるし音もずれやすくなります。それでも、よく聞き、聞くことに慣れながら、音程、テンポを気をつけてスムーズに音楽が流れるようにしてください。「ハモる」快感は格別です。(♭∴)

 

 

  1. メキシコのアルマンド・マンサネーロが作曲・歌唱したものが原曲なので、ここに挙げる三者は全てカバーです。全てのバージョンについて少しずつ紹介します。

原詩はスペイン語で「私たちは恋人同士」の意。分かち難い幸せな結びつきを歌ったナンバー。この内容から英語版では「It's impossible」、つまり(離れることは)不可能です、というタイトルになっています。

最も古いペリーコモ版は英語。ストリングス+ピアノが中心の、古きよきイージーリスニングといった雰囲気のオーケストレーション

アギレラ&ボチェッリ版はスペイン語。デュエットとなっており、イージーリスニングの色を残しつつ、クロマティック進行のメリスマや華麗なギターソロが加わりエキゾチックなテイスト。

夏川&ボチェッリ版もスペイン語で、アレンジはアギレラ版とほぼ同じだが、夏川パートは彼女の技量を反映して広い音域となっています。

 

  1. ペリーコモは、まるで近所でカラオケに興じるかのような、何の気負いもない歌い方。

アギレラは、おそらく普段の彼女とは違う声の使い方をしており、ロックとクラシックの中間を追求したと思われます。鋭さと伸びやかさの融合。

夏川は、ソノラスで曇りのない声で心地いい。息の流れがそのままメリスマに変化したような美しいパッセージに心奪われます。惜しむらくはスペイン語があまりにもカタカナな点。

特筆すべきはアギレラ、夏川のデュエット相手を共に務めたボチェッリの歌唱。どこにも余計な力が入っていない開かれた声。

 

3.スペイン語で歌うのでしたら、ボチェッリの歌い方を研究するといいと思います。すべての母音が数珠つなぎになり角がない感じは、歌詞をゆっくり朗読してつかみましょう。(♯∂)