V003「アドロ」(日本語)グラシェラ・スサーナ   

1.歌詞と曲と演奏 ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど

2.この歌手自身の声、歌い方、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと(VS比較歌手)

 

2.歌詞は日本語の部分がメインですが、アルゼンチンのタンゴ歌手ということもあって、口の中がやや広めに開いています。外人らしく低めの落ち着いた声で、サビに入るまでは、柔らかい声やソットヴォーチェ(ひそひそ話のときに使う声)、息混じりの声も多用されていて、サビの部分の芯と艶のある声を、効果的に演出しています。サビに入るまでの伴奏が、ギターなどで薄く奏でられていることが、これを可能にしていますが、もちろん、マイクがあるからできることです。

基本的な発声は、低音歌手の発声法になっていますが、低音域を強く強調するものではなく、むしろ低音域を、柔らかく落ち着いた暖かい声をメインにしていて、ところどころで低音の強さをうまく活用して表現に活かしています。サビの部分の高音部でも、無理に低音歌手らしく太く力強い声にはせず、ほどほどの太さで愛らしさを出しているようです。後半1/3余りは、スペイン語のみで歌われますが、それまでの日本語の歌詞の部分の、情熱的な完成された?表現とはほんの少し違って、こちらが彼女の本来表現したいスタイルなのかもしれないと思わせます。(♭Ξ)

 

1.カンツォーネなどにも通じるメロディだと思います。声をしっかりと聴かせることのができるメロディだと思います。リズムが重視される現代のポップスと比べるとメロディと声を聴かせる歌という印象なので、まず声の力がある歌手が必要な曲ですね。リズムたメロディは特に難しいとは思いません。それゆえに歌手の力量が問われる曲ですね。

 

2.日本人とはやはり違うなという印象で。最初に日本語で歌っていますが明らかに日本人が歌う日本語よりも子音が短いです。子音が強いのが日本人なので明らかに違うなと思いました。またウ母音などが外国人のウ母音です。日本語の浅いウとは違います。スペイン語になってからはさらに母音の流れがとても滑らかになるので、心地よいです。しゃべるようにメロディを歌い、言葉と表現がずれないので聞きやすいです。また、歌手に力があるので言葉とメロディがリンクするのでとても熱いラブソングに聞こえます。

ラブソングの言葉と美しいメロディだけではない、それを説得力ある音楽にかえることができる歌手だと感じました。(♭Σ)

 

1.何度も「アドロ」と呼びかけがあり、それに続く歌詞の内容で「アドロ」の表現も変わってくるので、演奏者の解釈によってそれぞれに曲の表情が出てくるでしょう。どの曲を歌っても同じ感じに聴こえる、表現力が足りないなどの課題をお持ちの人には、このような比較的わかりやすい構成の曲でその課題に取り組むのはよい練習になると思います。

 

2.高音域は張りのある伸びやかな声で、また聴きごたえのある声量でありながらゆとりもあり、その負担のない発声が個人的には聴きやすいと感じます。ただ、日本語歌詞のときに子音Nの発音が少し気になりました。例えば「あなた」があにゃた「ほのお」がほにょおに聴こえそうです。単語を強調するときの歌い手ご自身の癖か、またはスペイン語圏の人に出やすい特徴なのか、どちらにしても外国語の歌詞で歌うときには、何人であっても何語であっても発音の精査は共通の課題であると言えます。(♯α)

 

1.この曲は、楽譜通りに歌うというよりは、言葉がわかるように歌うことのほうが大事だと思います。歌詞の内容が聞いている人にわかるように、前半の部分は、どちらかというと歌うというよりは語る・喋るイメージのほうが強くていいのではないでしょうか。後半の歌い上げる部分は、歌詞の雰囲気、言葉がわかることを大事にしながら、たっぷり歌っていくとよいと思います。どのように言葉を発するとその内容が伝わりやすくなるのかという部分を研究材料にしてみるといいと思います。

 

2.曲の内容がわかりやすい歌い方をしていると思います。一言でいうと、気持ち・感情が伝わりやすく歌っていると思います。繊細な部分も、しっかり歌い上げる部分も差があって、演奏効果が高いと思います。声や発声も大事ですが、演奏するにあたっては、このような表現や内容が伝わりやすいものであると、聞き手に伝わりやすくなるのではないかと思います。繊細な部分の言葉の柔らかさ、色合い、温度、そして、しっかり伝えたい部分の歌いこみ方、気持ちの込め方などは一つの参考にしてみるといいのではないでしょうか。(♭Я)

 

1.1番が日本語で、2番がスペイン語で歌われます。静かな語りのようなAメロから始まり、もういちどAメロを重ね、サビ、Aメロ、スペイン語でサビ、スペイン語でAメロ、そしてコーダまでずっとスペイン語で歌われます。情熱的な恋人への愛情を、詩的な表現とともに歌いあげています

 

2.スペイン語の部分を聞いて顕著なことに、母音がとても前に出ています。ものすごく勢いよく息を吐いたり言葉を発音したりしているのだと思います。また、母音のレガートもよく聞こえます。日本語にはこのような言葉の勢いがなく、息のスピードも必要ないため、このような歌い方になりにくいです。けして喉を詰めずに、裏声のポジションで、声を前に張り出すように歌っているので、一見地声のように聞こえますが、頭声発声と地声をうまく混ぜているように聞こえるのだと思います。ミルバの歌い方と似ています。(♯β)

 

1.8/12拍子です。日本語とスペイン語の歌詞から静かに始まり、後半に向けて盛り上がりが高まるにつれ、歌詞がスペイン語になり情熱的な側面が強調されています。

 

2.囁くような前半の歌い方と情熱的に感情を吐露する後半の歌い方の対比が特徴的です。

ややハスキーな音色がスペイン語の響きを美しく際立たせています。(♯ё)

 

2.非常に親密、情熱的、肉感的な歌詞なので、この短い2小節の前奏でこの世界に浸れるかがまずはポイントです。こういう歌詞のときは、ものすごく徹底的にこってり入り込むバージョンと、ものすごくシンプルなバージョンをどちらも作りこんだ後に、自分にちょうどよいところを探すとよいでしょう。

ヘ短調で「運命による必然的な悲しさ」を感じ、独特のリズム(大きな4拍子で、大きな1拍目だけ「タンタカタン」他の拍は均等な三つ割「タタタ」)に乗ることが必要です。

コード進行はいたって単純でワンフレーズでちょうどゼクエンツになっています。(Fm→B♭mからはじまり、この4度上行が全音ずつ下がっていくということ。クラシック音楽の和声記号で言うとI→IV、VII→III、VI→II、V→Iです。)ということはフレーズ感覚を長くとり、音楽を停滞しないようにする必要があります。

この歌手の特徴は、もちろん外国人で女性であることです。発音の癖が「u」が日本語としては深すぎること、「の」が少し「にょ」に近く、外国人であることはよく聞けばすぐわかります。しかしその少し舌足らずな日本語で切々と歌うことが日本人の胸に響きます。高音でのヴィブラートの幅が広いです。(♭∴)

 

1.「adoro」は「私は憧れる」「私は熱望する」といった意味。単に好きだという感情よりもはるかに強烈な思慕の念です。

情熱的な行きずりの恋を描いた歌で、精神的な愛よりもマテリアルな愛を色濃く匂わせる内容。前半はギターの分散和音に乗せて日本語で囁くように語られ、後半はスペイン語で「私の命よ!」と扇情的に歌い上げられます。オーケストラにもさまざまな楽器が加わり、大きく盛り上がります。

調性は嬰へ短調ですが、時折、第2音のgisが半音下のgに変化しており、ラテン音楽特有のフリギア旋法(ミファソラシドレミの音階)に近づきます。これがラテンの匂いの秘密のひとつです。そして最後にピカルディ終始と呼ばれる明るい和音で終わることで、光り輝くようなラストを迎えます。

 

2.少しハスキーな声と、日本語話者でない人特有のくっきりした発音の仕方が、エキゾチックな魅力を醸し出しています。彼女はアルゼンチン出身の歌手兼ギタリストだそうですが、前半の瞬発力がありなおかつサッと減衰していく喋り方は、さすが撥弦楽器奏者だなと感嘆いたします。日本人歌手のカバーも聞きましたが、残念ながらここまで強烈な魅力は感じられませんでした。(♯∂)