V023「アモール・モナムール・マイ・ラブ」 クラウディオ・ビルラ/岸洋子

1.歌詞と曲と演奏など
(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)
2.歌手のこと
(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)
3.歌い方、練習へのアドバイス

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1.曲の前半のStrofaという部分が省略され、後半部分のRitornello、ロングトーンの多い、ゆったりとした後半のRitornelloだけが、歌われています。

2.クラウディオ・ビルラは、前半は無理のない声で、優しく歌っていますが、後半は持ち前の張りのある強く美しい声で歌い上げる部分も多く、曲の内容を忘れてしまいそうになります。特に最後は、圧巻の締めくくりで、その声の張りと強さと美しさとその技術を、これでもかと、披露していて、別の感動を与えてくれます。
一方、岸洋子は、ミックスと裏声を多用し、ウイスパーボイスも使って、女性らしい優しい歌い方で、無理なく構成しています。高音域などでも、決して頑張って張った声を使わず、曲想に合わせて優しく歌っています。その端々に張りのある声も充分に出せそうな声の技術を感じさせます。

3.ビルラの歌い方は、日本人の感性からは、この曲としては、少し違和感がありますが、真似ができるなら、ぜひ真似をして、声の技術を上げていくという目的には、よいと思います。
岸洋子の歌い方は、この曲の内容にも合っていて、発声としても無理がないので、女性ならば真似してよいでしょう。(♭Ξ)


1. スローテンポの曲調でありながら声をしっかりと聞かせるような高音もある、声の基礎力が必要な曲です。特にレガートの技術と高音に向かっての支えの技術が必要です。メロディやリズムは特別難しくはないですが、息漏れではない支えられたレガートが重要な曲という印象です。

2. ビルラの声は、とても素晴らしいと思います。第一にとても甘い声質でありながら決める音域ではしっかりと喉が開いて支えられた高音を聞かせてくるのは基礎力が高い証だと思います。また、高音域での顎がよく開いているであろう音がとても素敵だなと思いました。日本人は顎が固い人が多いので顎が柔らかく開きづらいのが問題になることが多いので参考にするとよい歌手です。
岸の声は、とても柔らかいのですが、声門閉鎖がしっかりとされていて声がぬけないので言葉がとても鮮明だなという印象です。地声と頭声のバランスが素晴らしく、発声という面での基礎力の高さが聞こえてきます。地声と頭声の移行の美しさは参考にすべき点が多いでしょう。

3.この歌はまずはレガートで歌うことを意識してトレーニングすることをおすすめします。自分が得意な母音のみでメロディをていねいに訓練してもいいかもしれません。その際、支えをしっかりと意識しましょう。支えの意識が難しい人は片足立ちで歌ってみて下さい。高音域ではあごがしっかりと開くようなアプローチをしてみるとよいでしょう。(♭Σ)


1. イタリア語・フランス語・英語で「私の恋人」が曲名になっています。曲全体としてはイタリア語での歌唱になります。歌詞の内容も曲名の通りで、恋人へ向けた愛をシンプルな言葉で歌っています。ゆったりめのテンポで、メロディも複雑さがなく歌いやすい曲です。頑張って歌う、声を張りあげて歌うという曲ではないので、曲の雰囲気を理解し声のボリュームをコントロールして演奏してください。

2. ビルラは、独自の歌い方を確立している感じで、一拍目を(半拍よりは短く)少しずらして入るというのが多々あり、それがつかみどころのないような、なにか漂っているような、聞いているとそんな感覚になり(私自身はちょっと気になるのですが)それが魅力でもあるのかもしれません。出だしは優しく歌い始め、中盤で音量を上げる感じは聞き手の気持ちも自然と盛り上がるので、さすがだと感じます。
男性目線の歌詞ですが、岸は、女性として違和感もなく上手くこの曲をカバーしており、ビルラ同様に甘く優しい雰囲気を出していると感じます。声の温かみや柔軟性(硬さがない)が、ゆったりとしたテンポや音の運びにマッチしているのかもしれません。

3.オリジナル歌手の音源を参考にするのはよいですし、真似てみるのも勉強の一つではあります。ですがビルラの歌い癖というものがあり、それに合わせてしまうとこの曲はとても歌いにくさを感じると思うので、歌い方をそのままコピーするのは避けた方がよさそうです。
アでもラでもいいので、拍を取りながら音程のみを歌う練習をして、まずは旋律の骨組みをしっかりと感じ取りましょう。その骨組みに歌詞を当てはめていく、つまり拍感を損なわずに歌詞の子音母音を入れていくのです。
歌詞の発音が緩慢になりやすい人は、曲のテンポが速い遅いに関係なく発音が遅れます。この方法ではしっくりこないという人は、いったん音程を省き、イタリア語歌詞だけでリズム読み(リズム、音の長さに合わせて発音する)をすると効果的です。(♯α)


1. 愛をささやくような甘い曲ですね。甘美に語る部分、そして情熱的に思いを伝える部分など、1曲の中でも色彩豊かな表現が求められると思います。原語のイタリア語でも、日本語の訳詞でも、どのように語り伝えるかということを、表現方法の課題として研究していくとよいでしょう。

2. ビルラは、甘く語るような歌い方と、しっかり声を使って情熱的に歌う部分を巧みに組み合わせて豊かに歌っているのが印象的です。
岸は、女性としてはかなり低い声を持っています。ていねいに語るような歌い方が特徴です。語り方で豊かに表現を変化させているのが特徴だと思います。日本語で歌う際の表現方法として研究してみてはいかがでしょうか。

3.愛する気持ちを歌っている曲ですから、ていねいに、甘く、そしてときに情熱的に、それぞれ豊かに表現できると理想だと思います。歌詞をどのように語りたいのかを基本的な設計図として、語り方を研究し、そのうえで音楽と結びつけていくとよいでしょう。この曲は、言葉からくる「揺れ」や「溜め」などが音楽的に活かせるようになると、演奏効果が高まっていくのではないかと思います。インテンポになりすぎるとつまらない曲になってしまいますから、注意しましょう。(♭Я)


1.この歌は、同じコードが長く続く、ゆったりとした曲調がポイントです。イントロが2つのアレンジで違うのがおもしろいです。ビルラのアレンジは始めのコードこそ主調の和音ですが、2個目のコードがすでにおどろおどろしい不協和音であり、見通しの悪いイントロです。そのため歌が始まってからのシンプルさとのギャップが面白いです。岸はシンプルでわかりやすいイントロで、歌とマッチします。

2.ビルラは、声の統一があり、朗々と響いています。1つの人格が一貫して愛を歌っています。
岸は、いろんな人格が出てきます。歌いだし、アモールのアでかなり深く響かせます。モナムールは軽く、マイラヴは、照れるように少女のように歌いわけています。さらに、「それはあなただけ」けだるく遅れがちに歌い、「この世にただ1人の望みの人よ」畳みかけるように、前目に歌っています。そうすることで全体のフレーズのまとまりが取れています。

3.歌いだし、「アモール・モナムール・マイラヴ」は、イタリア語、フランス語、英語で「恋人よ」と呼びかけています。まずはこれを1つのフレーズに、ブツ切りにならないように作ってみましょう。それができるようになったら、これを全然違うように、3カ国語に聞こえるように、まったく別の3人が歌っているように表現してみましょう。コードも同じなので「別人になりきって表現する」のが難しいと思います。表現のトレーニングに活用してみましょう。(♭∴)


1. 詞はイタリア語。「ただあなただけが世界の全てで、あなたの為だけに私は生きる」といった糖度高めの内容。イタリア語、フランス語、英語で恋人に呼びかける言葉がそのままタイトルとなっています。ゆったりした8ビートに乗せて、ハワイアンを彷彿とさせるけだるいコーラスを従えて歌われる。尖ったところが全くなく、終始安心して聞けるナンバー。

2. ビルラは、低~中音域の鼻にかかったメロウな声色や、甘やかなmの子音の入り方が心地よい。高音域では一転、雄々しいハリと深みのある声を聞かせてくれます。
岸は、教科書通りの発声で、終始一色の絵具で塗られたような印象。母音の位置(特にu)が日本語と同じ浅い場所であったり、余計な母音が多々挟まることに違和感があります。

3.長いフレーズの着地点まで見据えて息の配分を考えましょう。ロングトーンの中でクレッシェンドやデクレシェンドがキレイにできる状態をよく練習してから、この曲に挑むとよいと思います。(♯∂)