V043「ガラスの部屋」 ペピーノ・ガリアルディ

1.歌詞と曲と演奏など
(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)
2.歌手のこと
(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)
3.歌い方、練習へのアドバイス

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1.短調なので、基本的には悲しい曲ですが、歌手によってかなり表現が違います。主音がメロディの高めの位置にあるため、歌い上げる感じにしやすいというのもあるでしょう。また、低い第2音から高い第4音までの音域なのももちろんですが、始まりが、上から3割ほどの高さの主音から始まる上行型の強い山型で、メロディの開始音は下がって行くものの、同じ上行型を踏襲していくということも、大きく関係しているでしょう。さらに、曲の終わりも、もちろん中央より高い主音で終わるので、どうしても、暗く低く落ち込む感じにはなりにくい構造です。それでも、やはり悲しみを前面に出して歌いたいという歌手も少なくないようです。

2.ペピーノ・ガリアルディは、イタリア人らしい明るく強い声なので、無理に強く明るく歌っているわけではないのに、歌詞や曲の内容にうまく合っていて、悲しみ一辺倒ではない微妙な感情を、うまく表現しています。

3.日本人歌手も、多くカバーしているようなので、自分の好きな表現をしている歌手を選んで、真似をするのもよいと思います。(♭Ξ)

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1.イタリアンポップスによくある失恋の歌の代表曲です。
甘い言葉と甘いメロディで最初から最後までいきます。また、一度聞いたら耳からはなれないオーケストラもとても秀逸な曲です。

2.美声というよりも語り方がとても甘いといった印象です。クリアなイタリア語とレガートがその甘さをより引き立てています。本来なら息漏れというのは基礎発声では推奨しませんが、息漏れがこの甘さを引き出しているともいえます。これがレガートで歌えているのですからすごいです。

3.イタリア語の基礎的なさばき方がとても重要な曲です。単語と単語をつなぐ子音の連結がとても難しい。前の母音の口形を崩さず舌の動きだけで単語をつなぐというのは言葉でみたり、頭で理解するよりもずっと難しいです。しかし、これがイタリア語のレガートであり、ここにベルカントの基礎があります。(♭Σ)

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1.歌詞の内容は別れた恋人への想いを歌っており、短調でゆったりとしたテンポですが、静かな歌い出しではありません。出だしから「Che voule questa musica stasera」と曲名で始まり、旋律から見てもしっかりとした歌い出しが求められます。前奏のときから拍感を持ち、第一声の1拍前で1拍分の時間をかけてブレスをするよう準備をすると出だしから落ち着いて演奏できます。

2.ガリアルディの歌い方は息がよく流れて声が前に出ているので歌詞がとても聞き取りやすいです。また歌詞を歌うというより、言葉を喋っているように(アクセントのある音節はやや長めに)発音しているので、旋律の大きな動きはあるのにまるで語っているようにも聞こえます。そういった歌い方や彼の声質も含めてこの曲をとてもうまく表現していると感じました。

3.母音が2つ以上続くような発音では、歌唱時になると後ろの母音が聞こえにくくなる傾向があります。例えば、che vuole(ケ ヴ"オ"ーレ)、del tuo amor(デル トゥ"オ" アモール)、se nei miei (セ ネ"イ" ミエ"イ")などです。曲のテンポはゆっくりめであっても、発音が込み入っている箇所では機敏に発音を進めていかないと時間が間に合いません。歌いにくさを感じる人は、是非リズム読み(音程をつけずにリズムに合わせて歌詞の発音をする)を行い、子音・母音の入れるタイミングをていねいに確認してください。(♯α)

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1.一言でいえば、失恋ソングです。もう終わってしまった恋人に対する自分の気持ちを、情熱的に語っています。この曲は音域的にそこまで幅広くないので、語るような声の音域を中心に歌えると思います。

2.決して美しいような声という感じはありませんが、語り方など、表現が伝わりやすいように感じます。悲哀に満ちた語り方や切々と訴えるような歌い方の参考にしてみるといいかもしれません。

3.基本的には言葉をブツブツ切らずにレガートに語れる要素を大事に歌いたいですね。表現としては、日本人的なコンパクトで内向きな悲哀に満ちた歌い方はつまらないので、イタリア人のように、ときに切なくときに情熱的に失恋の気持ちを訴えかけるような歌い方ができると演奏効果が高くなると思います。仮に内向きに語りたい部分でも、それを魅せるような外へ向けた工夫が必要です。情熱的に歌う部分でも、あくまでもレガートなラインを切らずに、滑らかに言葉さばきができているうえで、聞き手に情熱的に聞こえるように工夫してみてください。(♭Я)

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1.a、a、b(サビ)、a、間奏+b’、a’の進行で構成されています。簡易的な楽譜だと4拍子で記譜されているため、4拍子の曲なのかと思いきや、ドラムやピアノのリズムを聞くと完全に12/8拍子のリズムの曲です。

2. イタリア語が明確に聞こえる歌唱です。そもそもイタリア語は母音が優勢な言語なので、音と言葉が両立して聞こえやすいため、歌に適している言葉だと言われる所以なのです。台詞を聞いているかのように聞こえてくる歌唱なので、離れた恋人を思う寂しげな歌詞の内容がダイレクトに伝わってきて、切なさを歌い上げています。

3. ドラムが刻んでいる3連符のリズムに乗って歌いましょう。そうすると楽譜通りの均等なリズム感では歌えないと思います。少し言葉の間を伸び縮みさせるかのように意識すると、イタリア語らしく聞こえ、それをやらないと日本語的な歌唱になります。高い音は喉で押さずに、伸びやかに歌えるよう、しっかり息を流して身体で支える訓練をしてください。(♯β)

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1.前奏を聞いているといきなり入ってくる歌です。間奏からの歌の入りも唐突な印象です。だから音楽と歌が絡まりあって一体感として聞こえるという点はあると思います。テンポもゆっくりめだし、フレーズが長い。Aメロ、Aメロ、サビ、Aメロ、間奏(サビ)、Aメロ、のシンプルな構成で、コードも通常よく使われる進行になっています。

2. 叫んでいるかと思うと、優しくささやいたり、声のヴァリエーションがたくさんあります。かすれた声、喉にかかる声も含めて、使い方が考え抜かれていると思います。サビが長く、音形が下がってくるので、多くの日本人は盛り下がって歌っているように聞こえますが(そう習うのか)、さすがに盛り上がりをキープしていますね。この「下がる音形で盛り上がりをキープ」は日本人は苦手なのでよく聞いてみてください。参考になります。

3.ゆっくりの曲は難しいです。声はじっくり聞かれるし、フレーズが長くて持たないし、そもそも息が「もたない」です。歌ってみると「もたない」ことを実感できると思います。この曲で一箇所練習に使うなら、最後の「un poco di te」をおすすめします。この1フレーズにいろいろな声色を聞き取り、フレーズコピーしてみてください。
(♭∴)

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1.感傷的な失恋の歌。Aパートは、長い休符に耐えられないかのように歌い始めるリズムパターンが特徴的です。順次進行の単純なメロディラインにもかかわらず、切羽詰まった心情を如実に現わしています。

2.ガリアルディの歌は言葉が明瞭で、一度聞くだけで歌詞が全て書き取れるほどです。声に迷いがありません。

3.メロディはほぼ上がったり下がったりの順次進行だけで書かれていますので、奇を衒わず素直にメロディに声を添わせてみましょう。それだけで音楽になるはずです。(♯∂)