V007「ヴォラーレ」ドメニコ・モドゥーニョ  

1.歌詞と曲と演奏

ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど

2.この歌手自身の声、歌い方、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと(VS比較歌手)

 

2.どちらかというと低音歌手(バリトン)ですが、あまり低音は得意ではないようで、この音源では、最も出しやすく立派な声が出せるやや中高音域だけが、録音されています。声種は低音ですが、太く分厚い声ではなく、細く軽い声にして、フットワークの軽さが出せるようにしているので、細かい音符もサラサラと、もたつくことなく歌いこなせています。それでも低音歌手なので、テノールよりはずっと深い声になるので、女性には真似のできない声というところが、人気の一つになるでしょう。(テノールの声は、女性・アルトの声で真似することができたりします。)また、このように軽い声の場合には、高音域のロングトーンがあまり立派ではないことも少なくないのですが、艶も深さも適度にあり、ほとんど無理なく何回も繰り返せていて、立派です。また、この声の艶は、頻繁に出てくる三連符などの細かい動きの部分でも、はがれることなくしっかり維持されているので、聴いていて小気味よく、6度程度の音域の中だけですが、それでもなかなか難しいことです。(♭Ξ)

 

  1. 飛ぶという意味のvolareと歌うという意味のcantareを繰り返しサビにもってくる曲ですから、基本的に生き生きと歌う曲だと思います。多くのカンツォーネと呼ばれる曲がナポリの言葉を使っているのに対し、この曲は、標準イタリア語を使っていますし、あまり難しい文法も使っていないのでイタリア語の学習としても使いやすいイメージです。

 

2.歌手というよりも俳優が歌を歌っているという印象でしょうか。歌のリズムではなく、言葉を重視して歌っています。また、とても美しいイタリア語で聴き取りやすいです。イタリア語が美しいので結果的に響きも高く、とても輝かしい声です。

イタリアのポップスも日本と同じように、以前よりも声が薄くなってきています。息交じりの表現も多いですし、ファルセットの表現も多くなってきています。しかし、オーディション番組などを見ると、素晴らしい力強い輝かしい声で歌うポップス歌手などもたくさんいます。どちらもが共存し始めているといってもいいです。この曲を聴く限り、今のイタリアポップスよりも少し古い表現に聞こえますが、声の素晴らしさが伝わる録音だと思います。(♭Σ)

 

  1. 曲の歌い出しが、曲名である「volare」から始まるので、第一声の印象は大きいです。さらに、この歌手のオリジナルでは、前奏もなく本当の意味で歌の第一声から曲が始まるので重要な部分です。そして歌詞の内容からも、三連符ではリズムが重くなる、テンポが停滞する(ように聴こえる)傾向にならないように、全体のテンポ感も含めて音楽作りをしています。

 

  1. 発音やリズムの取り方がより明確(より鋭い、より軽快)だという印象で、そうすると曲の流れも前に進みやすくなるので、同じ曲なのに他の歌手が歌っているそれよりも軽快さが伴って聴こえます。もし「volare(飛ぶ)」この曲名の意味も、歌詞の内容も分からなかったとしても、その内容に近いものを聴き手に感じさせるとき、どのジャンルであっても表現の卓越した歌手だと思わされます。(♯α)

 

  1. かつてCMなどで使われていた曲(歌い手やバリエーションは違うが)ということもあり、一度聞いたことのある人もいるのではないかと思います。サビの部分をメインにしており、印象に残りやすく、繰り返しが多く、比較的わかりやすい言葉を用いていると思いますので、レッスンや練習曲として取り入れてみると良いと思います。その際、いきなり音と言葉を合わせるというよりは、言葉が多い部分はイタリア語のしゃべる雰囲気に慣れることが重要だと思います。いきなり音楽優先にしてしまうと、カタコトの歌詞に聞こえ、非常に不自然になると思います。アクセントの位置などに気をつけながら、事前に何度もしゃべる訓練を行ってから歌うのがいいのではないでしょうか。

 

2.イタリア語がよく聞こえる歌い方をされていると感じました。歌声と話し声の乖離が少ないのが理由だと思います。イタリア語のしゃべり声の延長に音がついているという印象を受けました。若干のタメや伸び縮みがありますが、それがイタリア語の言葉のしゃべり方からくるように聞こえるので、結果的には比較的自然に聞こえます。(♭Я)

 

・8小節×2の冒頭部ののちに、サビが12小節、8小節のつなぎののちに、サビが12小節という構成です。日本人の歌手にも多く歌われていますが、イタリア人が歌うのと大きく異なる点は、母音に表現がないということです。ベターっとどの母音も同じ価値で歌われてしまっています。イタリア人が歌うのを聞くと、長い母音、短い母音、弾むような母音、沈むような母音と、いろいろなカラーがあることに気付きます。イタリア人の歌唱の中で比較しても、パバロッティが歌う歌唱は、格段に母音がクリアに聞こえます。すべての単語が聞き取れるほどクリアです。その他の歌手は、声がきちんと支えられてないゆえに、語尾が不明瞭だったり、ウなのかあいまい母音のエなのか明確に聞こえないときがあります。母音の長さも長く歌っているのも聞き取りやすいポイントかもしれません。(♯β)

 

1.まずはアカペラで響く初めのフェルマータ。「volare」の「vo」をよく聞いてみましょう。はじめ低いところから入って一瞬で少し上げます。そして伴奏が入るほんの少し前に「la」に移って、音程が少し下がって伴奏とぴったりにあたります。この響きと深さをコピーできたら、初めの数年の教材としては十分ではないでしょうか。そして次の「cantare」のtのタイミングの見事さ。かなり待ってから入ります。このリズム感のセンスの良さ。レッスンでいつも一流のヴォーカルは一流のリズム感を持っていると伝えていますが、これ以上遅いと破綻するぎりぎりのところですっと「ta」をいれます。

このサビの部分が終わってAメロに入ります。中音域とほとばしるイタリア語が、伴奏とドンピシャできます。ど頭の崩し方からは想像できないほど端正で正確な歌唱。ここでバランスをとって帳尻を合わせているのでしょう。サビに戻る少し前「per me」でリズムをだいぶ崩すので、どのように2回目のサビを歌うのか期待が高まります。2回目は1回目と同じ路線ですが1回目ほど大げさにはしません。ここでバックコーラスが一瞬入り、Aメロは再び端正ですが、よりリズムに対して鋭く入ってきているように感じます。もっと聞きたいなというところでフェイドアウトして終わります。(♭∴)

 

1.volareは「飛んで行く」という意味。夢の中で見た「青く塗られた青の中」=紺碧の空の中を飛ぶ情景が、疾走感のあるリズムに乗せて爽快に歌われる。語りの部分は三連符の連続で、独特の引っ掛かりのある言葉の連なりが楽しい。サビの部分は高く低く空を飛ぶようなメロディが、一度聞くと忘れられないほど気持ちいい。

 

2.本当に歌うことが楽しくて仕方ない、という風に歌うドメニコ・モドゥーニョ。特別な美声の持ち主というわけでもないが、ここまで楽しそうに歌っているのを聞くと、聞く側まで幸せな気持ちになる。

世界的テノール歌手のルチアーノ・パヴァロッティによるカヴァーは、さすがの美声で、声そのものが軽々と空を飛び回り、駆け上がる。

日本が誇るテノール歌手の五郎部俊朗さんは、蒼穹に溶けていくようなけがれのない声で、他の歌手とは全く違う空の飛び方を聞かせてくれる。(♯∂)