V038「心遥かに」  イヴァ・ザニッキ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

--------------------------------------------------

 

1.日本語のタイトルだと、少し分かりにくいですが、失恋の曲です。

イタリア語では、頑固な私、かたくなな私、というタイトルで、失恋はしたけれど思い出はまだ消えないでほしい、という切ない曲です。

曲の前半はイ短調、後半は同主調イ長調の曲です。

高い主音から順次進行で高い第三音(この曲の最高音)に、いきなり上がるフレーズで、とてもドラマチックな始まりです。

二つ目のフレーズは、低い第四音から跳躍して、高い第二音からの下向の順次進行になりますが、最初のフレーズのように、途中で導音に進みながらの、ためらいがちな下向型から始まります。

三つ目のメロディは、低い第五音から跳躍して、また最高音の高い第三音からの順次進行の下向型で、最初のメロディとまったく同じように、途中何度も導音に進みながらの、ためらいがちな下向型です。これに続けて、主音と低い主音の1オクターブの間でフレーズが歌われます。上向は順次進行で、下向は分散和音で、感情の揺れを現すかのようです。

曲の後半は、同主調へ転調しています。

低い第三音から、第五音、高い第二音へと分散和音的に上向して、続く下向は曲頭の短調のように、ためらいながらの下向順次進行です。二つ目のフレーズは、音域が一つ上がって、低い第四音から分散和音的に、曲の最高音の第三音に上がってからの、ためらいがちの下向順次進行です。続いて、後半頭と同じフレーズに間髪入れず3連続の山型のフレーズで、たたみかけるように曲が終わります。

 

2.イヴァ・ザニッキは、無理のない発声で歌いあげていて、曲のよさも、もちろんありますが、彼女が歌ったことで、ヒットしたのだろうと思います。

 

3.ぜひ、イヴァ・ザニッキの真似をしましょうと言いたいところですが、キーがやや高いかもしれません。歌いやすいキーに下げて、チャレンジしましょう。(♭Ξ)

 

--------------------------------------------------

 

1.単純なリズムと広すぎない音域なので、多くの方に歌いやすい曲ではないだろうかという印象です。イタリア語を聞いていると「follie per la mia gelosia(嫉妬で変になる)」のように、直接的でわかりやすい言葉が多発しています。感情表現としても熱いものがあるのでしょう。

 

2.第一声の「non so mai perche」から声の素晴らしさを堪能できます。決して高い音域ではないのですが、力強い声と明瞭な発音、しゃべるように歌えるので感情表現がとてもダイレクトです。イタリアの発声法に「Recitar cantando」という考え方があります。演じるように歌う。語るように歌う、歌うように語るといった意味合いでしょうか。まさにそれを体現している歌手という印象です。

ザニッキの声の特徴はその深さにあると思います。胸に押さえつけすぎてはいないが、胸の音がないわけでもなく、音だけなのですが、顎の脱力と開きがよく聞こえてきます。顎の開きと喉の開きがよくリンクしている歌手という印象。

 

3.メロディ、リズムはとても単純です。それゆえにイタリア語の特徴である母音が伸びることをとても意識して歌う必要があります。まずはイタリア語をしっかりと喋って、その声が身体から遠くへ飛ばせるくらいの明瞭さと支えが必要です。歌う前にこのしゃべるレベルを上げることを理解しトレーニングすると歌いやすくなると思います。喉で怒鳴るのではなく、深いポジションを意識して遠くへ飛ばすイメージです。(♭Σ)

 

--------------------------------------------------

 

1.歌詞は3節までありそれぞれ前半は短調、後半は長調へと転調します。内容は女性目線での歌詞で伊語で歌われています。「私の孤独は貴方だ」と言いながらも、旋律のダイナミックな動きや転調する中で歌詞を聞くと、今もなお相手への愛がほとばしる、そのさまがよく表現されているように感じられてきます。

 

2.ザニッキの声は、少しハスキーに感じることがありますが、歌い方に癖もなく伸び伸びとした歌声はとても聞きやすいと感じました。また歌詞の発音や音の捉え方が情熱的なのも彼女の魅力なのだと思います。

 

3.この曲は音の飛躍がかなりあります。1オクターブまではなくても「ドミシラ」「レファドシ」という音の飛躍が何度も出てきます。音幅が広い部分は遅れが生じやすいので、音だけの練習・リズム読みの練習に分けてていねいに取り組んでください。リズム読みで子音の入れ方を整えておくと、音程をつけても歌詞の運びがスムーズになります。(♯α)

 

--------------------------------------------------

 

1.Aパート、Bパート(サビ)の繰り返しの構成の曲です。Aパートは短調、Bパートは長調に変化します。邦題は「心遥かに」ですがイタリア語では「私は頑固者」で、なぜイエスと言ってしまうんだろう、なぜあなたのことを聞いてしまうんだろう。馬鹿なあなたのことを思ってしまう、嫉妬から。あなたは私の孤独、あなたは私の怒り。なぜなどと問わないで、と歌っています。日本人的なしんみりした感情で歌うより、怒りに任せた感情表現で歌えるのではないでしょうか。

 

2.声を聞いた感じでは、大変よく身体から声が出ているなという印象です。息もしっかり吐けていて、その息に声がのって、大変伸びやかな声です。ですが、イタリア人がイタリア語で歌っているということは、彼女の普段からの話し声も、このように大きなよく響く声なのでしょう。表現も大きく、感情豊かに、ときには怒りを表現して劇的に歌っています。

 

3.まず歌詞の内容、単語の意味を正確にとらえないと、この曲を真に迫る表現で歌うことはできません。「嫉妬、地獄に落としてやりたい、私の孤独、怒り、それはあなた。」とても熱情的な言葉がたくさん出てきます。そして声は、口と横隔膜がつながっているかのように感じてみてください。口の上部は目のあたり、口の下部は横隔膜のあたり、そこまで口が開くかのようなイメージで、出す声はおなかとつながっていると思って歌ってみましょう。(♯β)

 

--------------------------------------------------

 

1.平たく言えば失恋の曲です。自分の心が相手から離れていってしまうことを、相手に対して、ときに情熱的に、ときに悲しげに歌うような曲だと思います。気持ちをぶつける部分や、悲哀に満ちつつも消極的に聞こえないで歌えるような表現が必要になるかと思います。

 

2.情熱的に歌い上げる部分や、悲しげに歌う部分の差を表現できているのが特徴的だと思います。そのため、感情の起伏が分かりやすいと思います。やや声を張りすぎているように聞こえる部分もありますが、母音がはっきり聞こえて情熱的に聞こえるという意味では、表現がつまらなく歌ってしまうような人にとっては参考になるかもしれません。あくまでも力み方ではなく、発語方法という観点で見てみるとよいかもしれません。

 

3.この手の感情表現は、どこか生ぬるい歌い方になってしまったり、ただわめき散らすような歌い方になってしまったりと、日本人としては苦手な人が多いかもしれません。声は叫ばずに、表現として相手に気持ちをぶつけるような歌い方であったり、悲しくても内にこもった消極的な表現にせず、聞き手に悲しさが伝わるような歌い方が必要になると思います。(♭Я)

 

--------------------------------------------------

 

1.悲しげなイントロ。「なぜあなたにいつも『はい』と言ってしまうのか」と切々たる自分への怒りで始まる歌。急に転調して明るくなり、落ち着く。憂いは怒りは希望になり始めたのだろうか、これは和解したのか、他人とあるいは自分と。過去の回想なのか、未来への希望なのか。もとは映画の主題歌のようですが、やや抽象的な歌詞とともにいくらでも解釈の可能性がある歌のように思います。

 

2.歌いだしの絶叫。やや食い気味に入る。感情が爆発したかのようだ。それなのになんと説得力があるのだろう。ハスキーで、身体から離れていず、怒りと悲しみが表現しつくされている。途中で長調に変わるところも見事だ。ピタッと一流のバレエダンサーのように、伴奏と一体に動く。歌いだしとはうってかわって、低い声で切々と語る。低い声の深さと、パワーのあるシャウトが両立できているのがこの歌い手のすごさだ。

 

3.歌いだしをフレーズコピーしてみましょう。はじめの一言だけでよいです。照れずに、自分の感情を前に出しましょう。まずはそこから始まります。自分の感情を爆発させること。そしてそれを、他者に対する説得力を持たせること。途中、長調に転調するところの深い声もとってみましょう。どれだけ、支える深い息が必要か、感じてみましょう。(♭∴)

 

--------------------------------------------------

 

1.終わりかけた恋の歌。相手のワガママに、つい「うん」と答えてしまうものの、虚しさや怒りを感じている。しかしまだ気持ちが残っているから辛い思いもする。そんな女心の機微を歌っています。4ビートのゆったりしたリズムで、前半は短調の下降、後半は長調で上行と下降を繰り返します。

 

2.ザニッキは特別な美声や個性的な声の持ち主ではないと感じます。若干息の混じった、極めて普通の声です。すごく歌がうまいとも思いません。でも聞いていて、楽な、ちょうどいい感じの歌手です。最近日本ではそういう歌手が多いですが、ザニッキは気楽に聞ける歌手というジャンルの先駆者のように思いました。

 

3.フレーズを大きく捉えてレガートで歌うとよいと思います。言葉は大きなフレーズの上下を妨げないように、でもはっきりと喋るようにしましょう。前半と後半の色彩の違いが表現できるとよいです。(♯∂)

 

--------------------------------------------------

 

「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

1.イヴァ・ザニッキ 「心遙かに」

 

 カンツォーネの曲には、「はるか」がつくものには「愛遥かに」「瞳はるかに」「心遥かに」と3つありますが、なぜ、一つだけ、「はるかに」とひらがななのでしょう。今では、「遥かに」とは、あまり使わなくなりましたね。

 

さて、出だしの「冷たいことば聞いても」のところを原語Non so mai perche ti dico sempre si で繰り返しましょう。ここだけで2年、学べるものがあります。イタリア語で言い切って、そのままメロディをつけるのです。

サビのLa mia solitudine sei tu  la Mia rabbis Vera sei sempre tuも、同じく日本人の音程感覚と違い、芯のある声で音質をまっかく変えずに声で処理しています。あなたが歌うと高いところは、細く薄くなりませんか。ギリギリ、キーを下げて練習してください。

この二つのフレーズは、私が音楽的展開の条件として、フレーズを「メロディ処理」することと名付けたことのもっともわかりやすい実例です。1オクターブほどのメロディで、まったく声質が変わらないことを学んでください。

そこは、日本のポップス歌手と大きく違うところです。歌わされてはいけない、言葉をいうように処理するという感覚です。

そこから、日本語で入れてみるのにも、徹底して時間をかけてください。

「冷たい」を「tumetai」のように音楽的に処理したうえで、日本語らしく切り替えていくのです。このプロセスでの二重性が、日本語の歌を音楽的かつ言葉としても伝わるようにする難しさですが、解決策でもあります。高低アクセントにとらわれず、強弱アクセントでグルーブ処理するということです。

 

参考曲として、ザニッキは、「愛の別れ」をクラウディオ・ビルラと張り合って歌っていますが、正面で争わず、彼女なりのもっていき方をしています。スキャットの「ラララー」あたりも、ビルラとは違う形です。本当の歌い方というのを教えてくれた一人です。