V037「人生よありがとう」メルセデス・ソーサ 

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.タイトルどおり人生への感謝の歌詞ですが、人生謳歌というよりは、喜びだけでなく、しみじみと悲しみや苦しみも含めて人生を抽象的に思い返す歌詞です。そのためか、短調で書かれていますが、自然短音階も使われていて、悲しさ一辺倒ではないメロディです。

最初のフレーズの出だしの音が、ほぼ最高音の第五音で、次のフレーズは第四音から、次は第三音からと、下降しながら始まり、メロディ全体が下向が多く、上向がかえって目立つ作りになっています。

音域はやや狭く、低い第七音から第六音までの1オクターブに満たないのが基本なので、歌手によっては、何とか高めの音を追加して迫力を出そうとして、メロディーラインの美しさを損ないかねません。

1節はそれほど長い作りではなく、歌詞は6節まで有ります。

 

2.メルセデス・ソーサは、口の中が無理なく開いていて少し太目の声で楽に声を使っている様子です。この曲に限っては、ほとんど強く張った声を使っていません。他の曲では強く張った声も使っていますが、ロングトーンでは、ほとんど使っていないのです。フレーズのところどころに前打音的な、控えめで小さなこぶしが入るのも魅力的なのでしょう。

また、あえて高い音をつけ加えていないので、メロディ本来の美しさが引き立っています。

外国人の我々がなんとなく聞いてしまうと、淡々と繰り返されているように聞こえる曲ですが、各節それぞれの歌詞に合わせて声の表情を変え、ネイティブの人々には、たまらない表現力なのでしょう。

 

3.メルセデス・ソーサを、お手本にするのは、お勧めです。ただ、他の歌手は、けっこう張った声も使って、曲を盛り上げようと努力しているので、試してみるのも悪くないでしょう。また、5節、あるいは6節を、単語の意味なども調べて、歌詞を噛みしめながら歌いわける練習は、是非、トライしましょう。(♭Ξ)

 

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1.ギターの伴奏と声がメインの音楽がシンプルがゆえに声の魅力をより一層引き立ててくれる印象です。歌手の力量がとても高くないと成立しない世界観のようにも思えます。タンゴのようにもシャンソンのようにも聞こえ、しかしスペイン語特有の明るさがより声の世界を堪能させてくれます。

 

2.声の深さと発語の明るさ、そして喉、顎などの脱力感が見事の素晴らしい歌手です。私は今回初めてこの歌手を知り、声を聞きましたがナチュラルな部分のすごさを感じさせてくれる歌手です。

 

3.この歌手を聞いてしまうとまずは声の魅力がとても重要だと思ってしまいます。まずはお腹を使って支えられた声をトレーニングしましょう。しかし、支えを感じようとして胸、喉、顎などが力んではいけません。深さと脱力というのはリンクしづらいものですが、それをトレーニングしていくとうまく歌える曲だと思います。

(♭Σ)

 

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1.スペイン語の歌詞で歌われており、同じ旋律に歌詞が6節まであるという構成です。歌詞の内容が物語として続いていくのではなく、1節ごとにそれぞれ内容を提示しています。演奏にあたっては、6節とも歌詞の始めにある「Gracias a la vida(人生よありがとう)」をどのような表現で歌うのかが問われます。また旋律もリズムもシンプルな音の流れであるがゆえに、そこをどう表現するのかも含めて歌い手自身が歌詞としっかり向き合うことが必要です。

 

2.ソーサの歌い方は、まるで語っているかようで歌詞の運びも滑らかで、語る中でも強調したい部分は(わざとらしさがなく)自然と音量が上がるという感じなので、聞き手の耳にスッと歌詞が入ってきやすいのだと思います。また、曲が進み後半に行くにつれて感情が高ぶっていくさまも、そこから彼女の生まれ持った感性や素質のようなものを感じました。

 

3.音取りとスペイン語の発音はわけて練習した方が効率がいいです。ただ単に発音だけマスターするのではなく、ちゃんと歌詞内容や単語それぞれの意味をわかった上で歌うのは大前提です。またせっかく音程は取れていても、発音が口馴染んでいないと息の流れを妨げてしまうので、まずは音程をつけずに、歌詞のリズム読みで発音練習することをお勧めします。(♯α)

 

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1.ギターと歌のみの演奏です。何度も同じメロディを繰り返す中で、歌詞の変化や歌唱の盛り上がりに伴って、ギターのアレンジが細かい音符になってリズムを刻んだり、音量を上げたり弱めるなどして繰り返すメロディに変化を与えています。人生で、たくさんのものをもらったと、感謝を歌い上げる曲。

 

2.スペイン語で歌っています。スペイン語の歌といえばフラメンコの歌がありますが、そこでありがちな地声で喉に力を入れたような歌い方ではなく、頭声を主としています。声楽的な発声アプローチで、とてもよくコントロールされた発声で歌っています。喉に変な力みをいれることなく、歌詞をていねいに心を込めて歌唱しているのが伝わります。

 

3.人生の壮大なテーマを歌い上げる曲なので、声も表現も小さく収まることなく朗々と歌えるといいですね。同じメロディが何回も続きますが、キーワードになる言葉「目」「耳」「足」「心」などを中心に、各連に込められた思いをしっかり歌っていただきたいです。ただ漫然と歌ってしまっては、同じメロディの連続でマンネリになってしまいますが、それぞれの連の歌詞を、その都度しっかり表現することで、マンネリを免れることができるでしょう。(♯β)

 

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1.人生の末期を悟って語っているような内容です。自分の命・人生に対して感謝を語る一方、音楽自体は短調で書かれています。これが何を意味しているのか興味深いところです。

 

2.叙情的に語るように歌うことができる人という印象を受けます。スペイン語の言葉の持つ抑揚を巧みに利用しているように感じます。濃淡や温度など色彩が鮮やかに聞こえるので表現豊かに感じます。声自体は美声というわけではありませんが、発音や語り方が美しいように感じます。

 

3.歌い方よりも語り方をどうするか。詩の内容から自分なりに解釈した叙情的な語り方を活かすことを大事にしてみるとよいと思います。その際、「歌詞では人生への感謝を語っている。しかし、音楽は短調で書かれている」という内容から、明確に書かれていない部分で何を感じるかはとても大事になると思います。この歌詞と音楽からどのようなドラマを展開できるかが、歌い手としての資質を問われる部分だと思います。聞き手を満足させられるよう工夫して歌ってみてください。(♭Я)

 

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1.シンプルなアレンジで聞きやすい。コードが意外に進むところが多く、飽きない。後半のリズムパターンも複雑で、アレンジの伴奏をよく聞くだけでもリズムのトレーニングになると思います。完成度の高さから聞いていると忘れそうになるが、どうやらこれはライブ録音のようなので、その掛け合いの楽しさ、凄さを感じられるとよいでしょう。

 

2.伸びやかな声、息の混じり方がちょうどよい。脂の乗ったようなつややかな声、しかし嫌味ではない。アレンジが興奮してくるにつれ少しずつ、前に話し、投げかけるような歌い方になっていきます。下降音形の処理がうまく、下がるにつれて、歌いこんで深く盛り上がっていきます。日本人にこのような歌い方ができる人は少ないのではないでしょうか。ヴァイオリンの低い弦のような振動です。

 

3.歌いだしをよく聞いてみましょう。よく息の動きを追ってみましょう。gracias a la vida 最後の伸ばし方に注目。フレーズコピーして歌ってみましょう。いかに自分の声がスカスカで貧弱だということに気がつくと思います。そういう場合は、思い切って大きい声で前に向かって歌ってみましょう。一般に歌いだしのフレーズコピーは弱い声になりがちなのですが、大きくとらえて大きく出しましょう。(♭∴)

 

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1.ものを見る目、音を聞く耳、言葉、歌など、さまざまなものを与えてくれた人生に感謝するという内容。アルゼンチンのフォルクローレに分類される音楽で、ギターとボンボ(打楽器)によって伴奏されています。短調で書かれた音楽は内容に反して陰鬱な雰囲気を醸し出しますが、単純な西洋音楽長調=明るい、短調=暗いという枠組みには収まりきらない性質の歌でもあります。

 

2.メルセデス・ソーサの持ち声は、おそらく相当強靭なものだと思われます。それをフルでは使わず、時折、上唇~鼻腔にかけての一歩引いた共鳴を使いながら繊細に歌い上げるあたり、余裕綽々です。ピアニシモで歌っても一切ブレない声。

細かく震わせるような装飾は、ポルトガルのファドにも通じると感じました。

 

3.この曲は是非とも原語のスペイン語でチャレンジしていただきたいです。このくすぐるような繊細さは日本語にはないからです。試していただきたい練習法は、うがいをする位置で喋ったり歌ったりしてみることです。冒頭の「Gracias」で実験してみてください。(♯∂)