V045「愛は君のよう」 サルヴァトール・アダモ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.少し不安定な第3音から始まり、低い主音回りも使いながら、少しずつ上行して、高い主音回りで歌い上げる愛の讃歌です。テンポやリズムもそうですが、一つ一つの音符の長さも、奇をてらったりせず、自然な落ち着いた長さで、曲想を後押ししています。

 

2.サルヴァトール・アダモは、1960年代に「雪が降る」などで日本でも大ヒットした男性歌手です。この曲では、まるで女性ヴォーカリストかと勘違いするような仕上がりになっています。まず、曲の音域が、女性がミックスを使って普通に出す高音から、女性の低音と同じ辺りを、強い地声にせずに息混じりで優しく出しています。そのせいで、まるで低音域の得意な女性が、優しく歌っているように聞こえるからでしょう。高音域の得意な男性なら、高音から低音まで、立派な艶のある地声で出せる音域を、全て息混じりで出していて、きっと女性シンガーと勘違いさせようという意図が有ったとしか思えません。また、「インシャラー」などとは違い、曲想のせいか、ちりめんヴィブラートはあるのですが、表立って目立ってはいません。

 

3.ミックスの得意な男性や、ミックスを練習したい男性は、ぜひ、アダモを真似してみるとよいでしょう。女性は、日本人女性シンガーなどもカヴァーしているので、そちらを参考にしてみましょう。(♭Ξ)

 

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1.語りの要素が強い曲という印象です。シャンソンらしい愛を語る歌ですがメロディが美しいのでメロディラインを崩さず語る要素をいれていくという意味ではおもしろい曲です。リズムをたてるような曲ではないと思います。

 

2.声にざらつきがあり、芯のある声というよりは、その歌い回しで勝負する歌手です。芯のある強さや輝きではないところに表現力の強みがある歌手だと思いました。

 

3.この録音を聞いて声の基礎力という部分ではもっと聞くべき歌手がいるなという印象です。しかし、言葉のさばき、息遣い、脱力や声の甘さという部分を考えると表現力という部分では参考になる部分が多い歌手なので、その点を抜き取ってトレーニングしてみてはいかがでしょう。この曲のいろんな歌手を聞き比べしてどんな表現をする歌手がいるのか。同じフレーズでどんな表現があるのかを実験的に学んでみるのもよいと思います。

(♭Σ)

 

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1.前半は短いフレーズが続き、サビに向かって段々とフレーズが長めになることで気持ちの盛り上がりをうまく表現していると思います。また、歌い出しの歌詞とサビに入った始めの歌詞がまったく同じなのも特徴的です。歌い出しは静かに語るように歌うのに対し、サビではフレーズの感じから想いが溢れるような表現に自然となります。演奏する際に歌い手の気持ちが乗せやすい曲になっていると思います。

 

2.曲作りや表現者としてのアダモは素晴らしいですが、声では決して美声とは言えません。サビでしっかり声を張るときはよいのですが、それ以外では歌声に掠れ音が聞こえてきます。日常的に声の掠れがある中で、それも個性の一部分として活動していたのでしょう。

 

3.前半部分とサビのメリハリをつけて歌うことで、この曲の表現がよりダイナミックになります。サビに向かって少しずつクレッシェンドしていくさまは、アダモの演奏を参考にしてみるのも勉強になります。前半部分はフレーズが短く休符も多めですが、ゆとりがある場所ほど遅れが生じやすいものです。ちゃんと拍感を持ち、フレーズの音入りや歌詞の発音に意識を向けてください。

(♯α)

 

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1.「愛は君に似ている」という内容であらゆる比喩で例えながら歌っています。

 

2.冒頭の部分などは女声の低い声のようにも聞こえるかもしれません。声としては決して美声というわけではなく、冒頭はやや吐息交じりが多いように感じます。表現から来ているものだと思いますが、ことばの出し引き(ことばの頭は出すが、語尾は引くような歌い方)が目立つように感じます。このように言うとネガティブな印象を与えてしまうかもしれませんが、人々を魅了する理由のひとつは、語り方を含めた表現方法なのかもしれません。

 

3.アダモの歌い方や語り方は、参考にしつつ、それをただマネをするのではなく、歌う人それぞれの感性と語り方によって表現できるようになるとよいですね。声の温度感、甘さや緩急など、いろいろ工夫してみるとよいでしょう。冒頭の部分は、音域的に低めだと思いますので、声をがんばりすぎないで、甘く語るくらいが、ちょうどよいかもしれません。歌い上げる部分は朗々と歌えるとよいでしょう。(♭Я)

 

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1. Aメロ、Bメロ、サビ 、インスト間奏、Aメロ、Bメロ、サビ、コーダの構成で成り立っています。オーケストラは、オーボエのオブリガードが美しく重なり、ハープやピアノのアルペジオの刻みが効果的に感動を盛り立てます。

 

2. ハスキーな声でありながら、力強く伸びやかにサビから最後にかけて歌いあげています。音と音の移行をしっかり支えられた声で移動させており、よく息が流れています。特にラストの声の伸びが素晴らしいです。伸びきったフレーズ終わりの音と、次の始まりのフレーズにほぼ間がないのも息の長さのなせる業です。冒頭は息から声、言葉にしていく特徴がありますが、息の音はスピーカーによって聞きづらいかもしれないです。

 

3. 息の長さを重点的に練習しましょう。1小節単位の音楽にならないよう、せめてAメロは一つの流れでフレージングできるようにし、それを次のBメロやサビへとつなげていってください。フランス語の語感、単語の色合いを感じないとただのカタカナの羅列になってしまうので、しっかり歌詞を読み、この歌手が行っているような息から言葉を紡いでいくように練習してみましょう。(♯β)

 

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1.先入観なくこの曲を聞いてみてください。爽やかでソフトなイントロに美しいメロディ。何の変哲もない軽い曲だと思うでしょう。歌い始め「toi」の声の置き方、つや。歌のうまさに感動しながらも、何かただのムード音楽のように感じると思います。ところがサビに入るあたりから、やけに熱っぽく歌っているな、とお気づきになると思います。それもそのはず、これ以上ないほど情熱的な歌詞なのです。興味がある人は調べてみてください。3拍子系のリズムにも特徴があります。よく聞いてみましょう。

 

2.音域がそんなに広いわけでも高いわけでもないのに、すごく音域の広く高いキーの曲のように聞こえると思います。実際、音域はオクターブと少し。一番高い音は1度当てるだけの「ソ」です。これがアダモの凄さです。

 

3.歌いだしの「toi」をフレーズコピーしましょう。自分で10パターンほど作ってみましょう。母音の長さ、声の強さ。語る要素が強いものから、息の力が強いもの、弱いもの、など。また、3拍子系のリズムに慣れるためにも使えます。伴奏のリズムに合わせて手を叩いてみましょう。(♭∴)

 

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1.男性から女性へのあこがれを歌った歌。「トルバドゥール(吟遊詩人)」という言葉が歌詞に出てきます。中世のフランスやドイツを中心に流行した「ミンネ」という概念があります。騎士が見返りを求めることなく貴婦人に賛美を捧げるのがカッコイイとされた文化のことです。そういった騎士道的恋愛を歌ったのがトルヴァドールです。「愛は君のよう」からはミンネの香りがします。

 

2.アダモの歌唱は自然体で、楽に素直に話す声がそのまま歌になったかのようです。がんばらなくても素敵な歌が歌えるというのは実に羨ましい境地です。鼻腔によく響く声で、しかし殊更、響かせようとはしていないと感じました。

 

3.重くならないように歌いましょう。難易度はさほど高くないと思いますので、まっすぐ歌えるように練習するのにうってつけの曲です。(♯∂)