V008「愛の讃歌」 エディット・ピアフ    

2.口の中をあまり開けず、ナチュラルな話し声に近い発声で、中高音域をメインに、輝かしい声を聞かせていて、特に、高音域は、アニメ声にはならず、しっかり低い位置から出ていて、とても立派です。口の中をあまり開けていないことと、チリメンビブラートを随所に使っていることは、我々オペラ歌手から見れば、それだけで発声的にアウトに近いですが、オペラを歌うわけではないのに、むしろ他のジャンルで、ここまでよい発声を手に入れていることは、称賛に値し、一世を風靡し、今なお愛されている大歌手として、なるほどとうなづかされます。彼女の発声が、低い位置を基本にできているのは、母親がイタリア系で、しかもカフェのシンガーだったこととも、関係しているのでしょう。これに対して、この曲をカバーしているミルバは、口の中も適度に開いていて、歌い出しは、ドラマティックテノールかと間違えるほど立派な中低音ですが、そのことも災いして、発声的には、全く問題のない高音域なのですが、ピアフのようには攻めきれていないために、テクニック的にもとてもうまいのは判りますが、感動は半減してしまいます。(♭Ξ)

 

2.台詞の力が必要な作品だと考えています。シャンソンを歌う際によく指導される「語るように」「喋るように」ということを考えてみなけれななりません。

日本人がこの曲を歌う時、息交じりでぼそぼそ聞こえることが多いのですがピアフの歌うこの曲を聴くと決してそのようなことはないということがわかります。体から発せられた台詞であり、その音程で台詞をしゃべっているという雰囲気さえあります。息もれがありません。お腹を使い声門閉鎖がしっかりと行われた声は金属的な印象さえあります。この金属的な声というのは、欧米の声の文化ではとても重要です。

日本人は柔らかく、明るい声がよしとされることがありますが、海外に行くと個性がない薄い声といわれることがあります。声のレッスンで最初に響きや共鳴に重点を置かれすぎるとそうなることがあります。単純にお腹で呼吸を支え、喉で声を密閉することがどれほど日本人にとって難しいか。息もれのしない声というのは、結果的に自分を守ります。

歌うことを学ぶまえに、ピアフの言葉の支えや息もれのない歌詞の扱いを勉強することも重要かもしれません。(♭Σ)

 

  1. 曲の始めに、核となる主題が提示されており、そのメロディの盛り上がりから、曲頭からインパクトを与えている楽曲であると言えます。主題Aー中間部ー主題A'という構成の中で、主題Aで聴き手への印象を決める部分であり、中間部での表現を工夫し、主題A’はさらに盛り上がる演奏にもっていく必要があります。出だしや中間部で力尽きないように、曲全体の流れを歌い手自身の体感、表現に落とし込んでから演奏するのがよいです。

 

2.歌手クミコさん:その伴奏(バックミュージック)はベースが軽快にテンポを刻んでおり、他の楽器の音が装飾されているのも相まって、他の歌手たちの「ゆったり」というイメージとは対照的で、聴き手に与える印象も一味違ったものになります。軽快なテンポなのに、ゆとりのあるクミコさんの歌い方がよくマッチしているがゆえに、曲全体が決して慌しくならないのだと思います。

 歌い方も曲の印象も(エディット ピアフとは)全く対照的で、好みも分かれるところですが、オリジナリティがあることは確かでしょう。(♯α)

 

  1. 日本でもよく知られているシャンソンの一曲であり、様々なアーティストがカバーして歌われているのですが、エディット・ピアフの歌うものが、やはり元祖として、よりしっくりくるものがあると思います。作詞者が本人であること、そして本人の体験したことをもとに作詞されていることからも、より深い内容がうかがえます。

 

  1. 声に関しては、声楽を基準に考えると、「揺れ」や「ちりめんビブラート」といわれるような状態なので、声そのものを参考にするということは別として(シャンソンですし)、歌詞の内容の伝わりやすさといった表現方法や、音楽の持っていき方などは非常にダイナミックであり、小さくまとまりがちな日本人が参考にすると良い部分なのではないかと思います。先にも述べた通り、作詞者自身であるエディット・ピアフ愛の讃歌は、多くの人に愛されている曲だと思います。それだけ多くの人の心をひきつけるものは何なのかという部分を参考にすると良いのではないでしょうか。表面だけの薄い音楽にならずに、内容が人の心に響くような、エモーショナルな演奏を心がける人に参考にしてほしいと思います。(♭Я)

 

  1. 曲はAメロ Bメロ Aメロ エンディングという構成で歌われています。

 エディットピアフの発声は、頭声のような上からのアプローチというより、話し声のような声をしっかり張った地声の要素の強い響きで歌っています。なかなか日本人が真似するのは大変かもしれません。シャンソンを歌う方にはとても参考になると思いますし、日本人の歌手でも声をしっかり張って歌う美空ひばりや、高橋真梨子、演歌などを歌う方に参考になるかと思います。

 ピアフの歌唱の発音に着目してみると、とても言葉を明確に発音しています。現在のシャンソン歌手は[r]をはっきりと巻き舌にはしませんが、ピアフはオペラ歌手のレベルで発音しています。これも古き良き時代の歌い方が残っているのかもしれませんね。母音に関しても最近の歌手の表現にありがちな、音を抜いて表現するというようなことは、一音たりともないようです。(♯β)

 

1.まずはフランス語の美しさを味わってください。(同じ曲をミルバがイタリア語で録音していますので聴き比べると面白いと思います。ミルバのほうがゆっくり目で、イタリア語の味わいが出ています。)構成はABAの三部形式とここでは考えましょう。一般的に三部形式のBの部分はやや速いテンポで演奏するのが通例ですが、この曲でもその通りになっています。というのもBの部分の歌詞は「あなたに愛されている限り、地の果てにもついていく、月でももぎ取る」と動的な内容で、一方Aの部分の歌詞は「私は何があろうと平気、あなたの愛があれば」と静的な内容になっているので、つじつまが合っています。

次にアレンジについて述べます。生のオーケストラでしょうか。はじめのヴァイオリンの旋律が印象的です、Aメロそのものでなくいきなりオクターブ跳躍するところが泣けます。次にAメロ二回目の時にオーボエ(?)のソロが裏旋律で入ってきます。何ともさみしい音色。そして最後のコーダの時には管楽器が和音を三連符で奏して音楽を盛り上げ、男性のバックコーラスが入ってきます。最後の一フレーズの歌の直前、ティンパニが字余りのようにタタタンと叩き切るところがやや前時代的ですが迫力を添えます。

 

2.歌唱について述べます。普通歌いだしは静かに始めるものですが、この歌唱ははじめから全力で来ている印象を受けます。それはこの広がりのある声色を生かすためでもあるでしょうし、劇的な歌詞「空が落ちようと大地が裂けようと」の表現のためでもあるでしょう。次にこの長い長いAメロがなんとうまく1つのフレーズとして聞こえることでしょう!(それがどれほど大変かはやってみればわかるでしょう。)そのコツは私が聞き取る限り2点あります。一点目はものすごいリズム感です。伸ばしてる声の中に「スイング」している感覚が、鋭敏なリズム感を感じさせます。二点目は休符に対する感覚です。凡人は休符の時に休んでしまうものですが、フレーズの感覚が休まず、フルで「空焚き」しているのがわかります。(♭∴)

 

  1. 「空が落ちてこようが、大地が裂けようが、故郷を捨てようが、友を裏切ろうが構わない。ただあなたに愛されているなら」と、強い愛を高らかに謳った名曲です。日本語版は「あなたの燃える手で私を抱きしめて」という、原詩よりマイルドな歌詞がよく知られており、結婚披露宴でもよく歌われますが、実はピアフが最愛の恋人を亡くした時に書かれた曲と言われています。オーケストレーションは壮大な弦楽器群に木管が哀愁を添えています。いきなり印象的なサビからスタートし、中間部は短調に乗せる語り、再びサビに戻るという構造です。

 

2.ピアフの歌声は、どこか自分自身を突き放すような冷たさと、思いの熱さを兼ね備えているように感じます。そして彼女の歌は言葉が非常に明快です。「フランス語は曖昧に歌うべし」と思い込んでいる全ての人に聞いてもらいたいです。越路吹雪はピアフより遥かに繊細に女心を歌いますが、生涯ピアフには勝てないと感じていたそうです。美輪明宏はスケールの大きな歌唱で海のように深い愛を歌います。美空ひばりの歌は別な切り口で、愛の麻薬に酔ったように甘ったるく退廃的です。(♯∂)

 

1.AABAA形式。AメロとBメロが対照的で、ドラマティックな展開になっています。

 

2.胸声を豊かに鳴らし、野性的に力強く歌いあげています。(温かく柔らかい声のミルバと比べると際立つ野性味が魅力です)Bメロでは台詞のように立体的な歌唱が印象的です。また、独特のビブラートが声の音色に調和しています。(♯ё)