V029「ラスト・ワルツ」 エンゲルベルト・フンパーディンク

1.歌詞と曲と演奏など
(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)
2.歌手のこと
(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)
3.歌い方、練習へのアドバイス

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1.出会いから別れまでの、せつない恋の歌ですが、軽快でおしゃれな感じで、恋が破れた深い悲しみ感は、表には出てきません。曲の始めの4つのフレーズでは、全ての開始にある、やや低めの2音の上下の繰り返しが、裏拍から始まるスキップのリズムの連続に乗せて、揺れ動く気分を醸し出し、それに続く高音への跳躍からの下向音型が、絶妙に、恋心の不安を表しているようです。対照的に、サビの音型は、長めの音符が主体で、優柔不断さはなく、はっきりとした気持ちを歌い上げています。 

2.無理をしていない楽なハイバリトンの声で、マイクも活かした歌い方です。力強さには少し欠けますが、伸びやかな高音が、圧倒的ではないので、人間味を感じさせ、かえって人々の心を惹きつけるのではないでしょうか。

3.エンゲルベルト・フンパーディンクは、高音域は、輝かしいひびきではありませんが、伸びやかに歌えているので、基本的には、真似をしてみるのがまずは第一歩でしょう。もし、余力が有れば、艶のある声で、しっかり前に出せるようにしていくとよいでしょう。がんばり過ぎないように、気をつけましょう。(♭Ξ)

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1. 失恋ソングですが、日本人の失恋ソングと違い、音楽そのものは決して暗いものではないです。シャンソンのような恋愛ソングとも違い、甘さが全面にでる抒情的な曲という印象です。一見リズミックな曲に聞こえるのですが、このリズムは歌い手の歌詞さばきからきているので、この曲そのもののリズムは比較的難しくはないと思われます。音域も広すぎないので歌いやすい曲ではないでしょうか。

2. フンパーディンクの声は、カンツォーネ歌手のような圧倒的な声の力というのは感じませんが、なんて甘い声だろうというのが第一印象です。声一辺倒で歌い上げるというよりは、ことばのさばきかた、リズム感、テンポ感がすてきな歌手です。軟口蓋が下がり気味になり、鼻声に聞こえる箇所も多いのですが、それが声の甘さにも関与していると思われます。

3.しっかりとことばをさばけることが重要です。歌う前に歌詞を何度も読んで、朗読のように読めるレベルにまでもっていけるとよいでしょう。何度も聞き、何度も同じ速さ、リズムで読めることをおこなってみてください。歌い手自身が語学が堪能ならば問題ありませんが、そうでないならネイティブな外国人の発音からくるリズム感は、私たちには理解しても実践することは容易ではありません。
その言語からくるリズムや語尾、子音のさばきなどは真似して覚えるほうが早いです。何度も聞いて、口にだして耳と体で覚えていきましょう。(♭Σ)

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1. 歌詞は男性目線の内容で、失恋した後もなお抱く彼女への想いを歌っています。曲名にワルツとあるように、実際に3拍子のワルツのリズムに乗って曲が展開していきます。歌い出しから旋律のリズムに割と動きがあるので、3拍子を意識しながら歌うと、一緒に演奏する楽器(伴奏者)とも息が合いやすくなります。

2. フンパーディンクの声質に加えて、歌詞も音の運びも流れるような歌い方が相まってとても聞きやすい、曲が耳に入ってきやすいという印象を受けました。声を張って歌う部分も("~playing"の箇所を除けば)無理が感じないということも聞きやすく感じる理由の一つだと思います。

3. 歌えるようになったけど全体的に単調になってしまう、ということが起きやすい曲かと思います。その場合には3拍子を意識して練習してください。歌い進めるときに、1拍目に向かって歌う、1拍目に重さを乗せて歌うようにします。リズムに乗れば声が進みやすくなり、また歌にもメリハリが出てきます。実際に3拍子を意識して音源を聞くと、楽器の伴奏も1拍目にやや重さが乗っているように聞こえると思います。(♯α)

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1. 旋律的にはロマンチックな感じで書かれていますが、歌詞の内容的には、うれしさと切なさと儚さのようなものが合わさったような曲ですね。どのように表現しながら歌うのか、歌手の表現力が問われると思います。

2.フンパーディンクは、やや鼻声に聞こえる部分もありますが、全体的にはいい意味で歌い上げる歌い方のできる人の印象です。英語という言語でありながら滑らかに発音することのできる人という印象も受けます。英語の発音の美しさという意味では他に上手な歌手を思い浮かべますが、このように英語を滑らかに発音する人は少ないのではないでしょうか。

3.いきなり歌う前に、歌詞を英文の朗読として何度も繰り返し読むことをお勧めします。意味を理解するのはもちろんのこと、ことばの発音やセンテンス、文脈などを踏まえてそれを表現しながら語ることができるようになってから、初めて音楽的に歌うような段取りを組まなければ、我々日本人が英語の曲をネイティブの人にも伝わるようにはなかなか歌えないと思います。
せっかくなら、日本語なまりで終わらせず、発音からことばのフレーズに至るまで、しっかりこだわって勉強した上で歌うとよいでしょう。甘さや切なさなどを表現するとき、日本人は内向きになりやすいと思いますが、そういった部分も、しっかり外側に向けて表現することを心がけましょう。(♭Я)

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1.物悲しいストーリーです。帰ろうと思った酒場で、最後にバンドが演奏した曲、それがこのワルツ。最後に演奏されたワルツだから、ラスト・ワルツです。片隅に座っていた女性と目が合い、一緒に踊り、恋に落ちます。ラスト・ワルツで出会った男女は愛し合い、しかし、最後は別れることになります。最後にもう一度ダンスを踊ろう。2人が最後に踊ったワルツだから、ラスト・ワルツ。このストーリーを表すのが、雄大な3拍子にのった情景豊かな音楽です。

2.正統的な美しい声で朗々とひびく歌唱です。高音で伸ばす声はつやのある迫力の声ですが、低音で話すように歌うことばに息の勢いがあります。まさにお手本にすべき声といっていいでしょう。
リズム感も優れています。躍動することばのリズムによって、伴奏とずれるように聞こえます。伴奏と歌手のリズムのずれを聞き取ってみましょう。

3.日本人が苦手とされる3拍子系の曲です。有名な曲で、英語、かつ音域もそんなに広くなく難しいリズムが多用されているわけでもないので、どの分野の人もレパートリーや練習曲としてこの一曲を持っておくといいかもしれません。(♭∴)

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1.セブンスを多用したコード進行で長調短調の間を曖昧に揺らぐようなAメロに始まり、Bメロは力強くも感傷的なワルツ。
恋の始まりと終わりをダンスになぞらえた失恋の歌ですが、メドレーでは全く違う歌詞で歌われています。

2. フンパーディンクの声は、甘く伸びやかです。クセがないので万人に愛される歌唱と感じます。かといって特徴がないわけではなく、一聴してフンパーディンクだとわかる色香があります。その香りの正体は柔軟性ではないでしょうか。かすかに息交じりの柔らかな声が、曲のどの部分においても和声やリズムといった器を満たす液体のように変幻自在にフィットしているのです。我の強さを感じさせない歌唱です。

3.センチメンタルな曲ですが、音楽そのものに十二分の切なさが含まれているので、歌い手は素直な声を出すことに徹した方が引き立つと思います。頻出する音の跳躍は、ポーカーフェイスで歌える(=余計な筋肉を動かさなくても対処できる)ことを目指して練習しましょう。(♯∂)

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15.エンゲルベルト・フンパーディンクメドレー 「リリース・ミー」「ラスト・ワルツ」
 
 私がヴォーカルに目覚めた深夜放送で、オリビアニュートンジョンに続けて、かかったのが、彼のメドレーでした。「リリース・ミー」「ラスト・ワルツ」「愛の花咲くとき」「太陽は燃えている」「スペインの瞳」など、メドレーが秀逸です。
 レッスンでは「Quand Quand Quand」(68年)(元はカンツォーネ、トニー・レニス(62年)です)をイタリア語、英語、日本語で比べます。「いつか二人で…」の出だし、日本語の難しさを痛感させられます。
 「ラスト・ワルツ」、深く張りのある低音から高音まで統一した声は、日本では、尾崎紀世彦が近く、正統的な感じがします。声のポジション、共鳴、縦の線、すべて、そこでは包括されているように思うのです。