V031「黒い鷲」バルバラ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.バルバラが、幼児の姪に捧げたという割には、大人のためのようなおとぎ話風の、不思議な歌詞です。音楽的には、とてもスケールの大きな曲です。

 

  1. バルバラは、シャンソン歌手で女優でもあるので、言葉をとても重視していて、声としての伸びは、なるべく使わないようにしています。声として綺麗に伸ばしてしまうと、歌詞として、あるいは話し言葉として、どうしても不自然になるからでしょう。言葉の最後のほとんどを、声ではなく息混じりで伸ばしています。

声としては、中低音は艶のある声ですが、やや高音域からは、息混じりも多く、柔らかい声にしている印象です。そして、ほぼウィスパーヴォイスに近いような、弱い声も使って、高音域で張った声を伸ばすことをしない分、ダイナミックの差が付くように、工夫しているようです。

歌詞に合わせて、声色を変化させている部分も見受けられますが、声としてではなく、言葉として取り組んでいるので、声としての統一感を失わせる結果になってしまうようです。

 

3.シャンソンとして歌いたい場合は、声の技術の上達を考えると、岸洋子など他の歌手を、まずは真似るのがおすすめです。エディット・ピアフは、同じシャンソン歌手でありながら、しっかり声を重視しているので、こちらも、真似することはお勧めです。そのあとで、バルバラを参考にする方がよいでしょう。(♭Ξ)

 

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  1. フランス語独特の言葉の出し入れが美しく聞きやすい曲です。メロディもリズムもそんなに難しい曲ではないですが、独特のうねりがある曲だという印象です。

 

  1. 小さな声や、小さな表現でも息を流し息を止めないように歌っている印象です。もともとの声が深くとても美声ですが声に頼らない表現が素晴らしい。低い喉、低いポジションの声は日本人ではなかなか聞けない声かと思います

 

3.バルバラの声を見習うのは素晴らしいのですが、この表現は声帯がひらきやすく、間違えると喉を傷めやすくなるので自分の声で自分の表現を考えてトレーニングしたほうがいいと思います。しかしバルバラの深い声や力みのないまろやかな発声は大いに学ぶことが多いです。日本人の場合ソフトに歌うと喉が高くなりやすいので、そうではない声と表現を学ぶのにとてもいい教材です。(♭Σ)

 

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1.歌詞の内容は、ある日湖のほとりで主人公がウトウトしていると黒い鷲が現われ、その鷲を通して「彼」への過去の記憶が蘇る、といったもので全体的にどことなくおとぎ話のような雰囲気も感じられます。さらに旋律によって、事実なのか夢なのかという不思議な間合いをより引き立てているように思います。

 

  1. バルバラは、彼女独特の歌い方があると感じました。子音に重さを乗せてすぐに軽くし、押す波引く波のような感じで、波の揺れの中に歌声があるような印象を受けました。それと同時に、情景を思い出しながらキャンパスに一筆ずつ色を落としていくようなイメージもあり、(歌い方の好みは別として)彼女の歌い方がこの歌詞の内容にとてもマッチしているのではないかと思いました。

 

  1. プロ歌手の歌い方を模倣するのも勉強になりますが、バルバラは独特の歌い方があるので、そのまま模倣すると不自然さが出てしまうように思います。オリジナルの歌手として参考にしつつもそれには捕らわれずに、音程と歌詞を切り離して練習し、それぞれを明瞭にさせていくことをお勧めします。特に歌詞に関しては仏語で日本語よりも子音が多いため、リズム読みでの練習が効果的です。その後でようやく音程に歌詞をつけて歌うと、もたつきや曖昧な部分もなくなるので、曲全体を仕上げる意味ではとても近道です。(♯α)

 

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  1. 穏やかに語るような部分もあれば、激しく語るような部分もあり、曲調としては変化に富んでいると思います。抽象的な表現なのですが、この曲に何度も出てくる「鷲」とは一体、何なのかを考えて、聞いたり歌ったりしてみるといいのかもしれません。

 

  1. 語るような音域をメインに、比較的低音域も出せる人だと思います。音域が高めな部分は抜くように歌う部分があり、音程や声の質がやや不鮮明に聞こえる部分があるように感じます。

 

3.穏やかに語るような部分、少し訴えかけるように激しめに語るような部分などがあると思います。声質や歌い方で変化させるというよりも、語り方で変化させるように心がけてみてはいかがでしょうか。また、同じ言葉が何回も出てくるのが、この曲の特徴の一つかもしれません。それをどのように表現して歌うのかは、歌い手の表現方法に関わってくるので、工夫してみるとよいでしょう。やや抽象的な表現で書かれた詞のように感じますので、それぞれの感じ取り方で曲の表現はいろいろと変わってくるだろうと思います。(♭Я)

 

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1.黒い鷲が舞い降りてきたという幻想と、過去の思い出。湖のほとりでまどろんでいるうちに、懐かしいあの頃に、子供のころに帰りたくなってしまった。ノスタルジックな曲です。コード進行が面白い。壊れたレコードのように、Aメロを繰り返すごとに、全音ずつ上昇していきます。不自然な転調はしていないように聞こえるのが凄いところ。しかし二箇所だけ、不自然な転調に聞こえます。サビを繰り返すところ(ここからテンポが上がります。)と、盛り上がりの絶頂から頭のキーに戻るところ。この二箇所が、ストーリー上でも転回点になるのが面白い。一箇所目では、急に過去の思い出がよみがえり、二箇所目では、そこから我に帰り、また冒頭の歌詞を同じキーで歌い始めます。静かに始まり、盛り上がり、また静かに。時間も長く、ボリュームのある曲です。

 

2.パワフルなところとささやくような息。このどちらも備えているのがバルバラの魅力です。歌いだしの静かに語りかけるような息。オクターブのフレーズでしっかり下が響いている。フレーズが繰り返されるごとに、テンションが少しずつ上がっていく。長い曲なのに構成感が見事。静かに戻ってきた時も、また冒頭とは歌い方を変えています。よく聴いてみてください。

 

3.有名なシャンソンです。フランス語を覚えて、とにかく、通して歌ってみて下さい。体力が必要なこと、いかに転調についていくのが大変かわかるでしょう。そしてリズムの感覚をフレーズごとに変えていくことも。「足りないもの」がたくさん見えてくる曲だと思います。(♭∴)

 

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  1. ギリシャ神話の、大神ゼウスが白鳥に変身してレダを誘惑したというエピソードを彷彿とさせる歌。夢か現か判然としないなか現れた大きく高貴な黒鷲とともに辿る幻想。

天空へと昇っていくかのような広がりと飛翔感のあるピアノ伴奏に乗せて、歌はシンプルなメロディを繰り返す。

 

  1. 美しい、という表現はバルバラの声にはふさわしくないかもしれない。もっと深いところからくる畏れや諦念が含まれたような声は、バルバラの「美しくもなく、善良でもなく」という歌を思わせます。この歌に出てくるAnge du désespoir(絶望の天使)という言葉が、彼女の声や歌を言い表しているように感じます。

 

3.メロディは単純明快です。突き抜けるような爽やかさと力強さが出せるといいと思います。声を作らず、シンプルに前に出すように歌ってみましょう。入りはすべて裏拍からですので、表拍に来る休符をよく利用します。大きなゴムに柔らかく弾かれるようなつもりで休符を体に感じましょう。(♯∂)