V044「涙のさだめ」 ジャンニ・モランディ/ボビー・ソロ/イヴァ・ザニッキ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.切ない片思いの恋の歌ですが、暗く悲しい曲調ではなく、むしろ前向きで攻撃的とも言えるほど、発散し続ける曲です。特に、前奏が順次上行していく力強さは、爽快感さえ覚えます。

 

2.ジャンニ・モランディは、イタリア人らしい、前のめりで情熱的な歌い口で、切実さを感じさせます。エッジヴォイスを随所で使っていることもありますが、輝かしい音色ながら、ずっしりと踏みしめるような伴奏を、半歩先取りして、待ちきれないように歌い出す部分が、さらにパッションを叩きつけるようです。高音域も、張りのある強い声で、無理がありません。

それに比べてボビー・ソロの場合は、同じ曲かと思うほど暗く太めの伴奏なのに、テンポは重くなく、淡々と進んでいきます。また、同じイタリア人なのに、落ち着いた歌い口で、むしろ甘い声色も使っていて、プレスリーを感じさせるスタイルです。高音域は、まったく張りがなく、低音域をやや強調する程度です。歌詞の内容を考えると、どちらかといえば、弱々しい性格の男性の歌のようにさえ聞こえますが、当時の歌い口の流行りなのでしょう。

イヴァ・ザニッキは、女性風の味つけで、うまく歌いこなしています。

 

3.ジャンニ・モランディのように歌うには、エッジヴォイスはもちろんですが、強く張りのある楽な高音域がないと歌えないので、難易度が高くなります。低音域の強い人は、ボビー・ソロをまねてみるのもよいでしょう。イヴァ・ザニッキは、張りのある高音域をあえて強調していませんが、その裏づけが有った上での歌いまわしなので、意外に難しいかもしれません。(♭Ξ)

 

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1.難しいメロディではありませんが、声を聞かせるイタリアンポップスの典型的な甘いメロディの曲です。男性が歌う歌詞なので、基本的には男性が歌った方がしっくりとくるのでしょうが、イヴァ・ザニッキのように女性でも歌い方次第で、男性が歌うのとは違う魅力的な曲になると思います。

 

2.ジャンニ・モランディは、この歌の録音だけを聞くならば、あえて喉への圧迫がつよいフレーズの歌いだしをする癖がある歌手という印象です。あえて表現としてやっているのかもしれませんが、つよく圧迫したあと声門閉鎖が緩むので息漏れも起こっています。息漏れが多いのであえてフレーズの最初を圧迫を強くする出し方をしているのかなという推測も立てられるような歌い方をする歌手です。

ボビー・ソロは、イタリアンポップスの歌手の典型的ともいえるあまく響きの高い声を出す歌手という印象です。この声がベルカントと言ってもいいほどの響きの高さとレガートです。喉へのストレスや過度な力み、何か特別なことをしているような雰囲気がまったくない。どのジャンルの歌手であっても聞いてほしい歌手だと思います。

イヴァ・ザニッキは、声のバランス、音色、どれをとっても一級品の歌手だと思います。低い喉頭と息のスピードの速さで、声の立ち上がりがとても鋭いです。そして明るい声と暗い声のバランスも美しい。

 

3.イタリア語を読むことから初めてほしいです。そしてイタリア語を胸の響きでとらえて、レガートでしゃべることができたらメロディをつけましょう。浅い声で発音してもこの曲に負けてしまうかもしれません。(♭Σ)

 

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1.原語の曲名「Zingara」はジプシーという意味で、ジプシーに手相を占ってほしいという歌い出しから、別れた恋人への叶わぬ想いを歌っていきます。曲は長調なので暗い旋律ではないですが、フレーズによっては陰りが感じられます。曲中に何度も出てくるZingaraで儚い想いが表現できると味わい深い歌唱になると思います。

 

2.ジャンニ・モランディは、声を張ってしっかりと歌い上げ、音をアレンジしてZingara(ジプシー)を強調している場面があるのですが、歌詞の内容からするとしっくりこない感じがしました。

その点、ボビー・ソロは、ゆとりを持たせた歌い方で歌詞が聞き手に届きやすく、その内容をイメージしやすいと感じました。歌を向ける相手はZingaraではなく、別れた恋人へ気持ちが向かっていることがしぜんと感じられます。

一方でイヴァ・ザニッキは、女性の声なので、それだけで既に違う印象の歌になります。個人的には、彼女の個性や歌い方から、3人の中では一番かっこいい歌唱で男前になっているという印象を受けました。

 

3.何か小技を効かせるとか声の見せ場を作るとかではなく、シンプルに歌詞がそのまま聞こえてくるという歌い方がいいでしょう。例えば、曲中に何度も出てくるZingaraはアクセントが1音節(Zi-)にあるのですが、語尾では音は上がります。もし音に任せて声を張り上げると3音節にアクセントがあるように聞こえてしまいます。ですので、声は張り上げずにやわらかく歌う(息を保って歌う)のがよいです。それによって1音節にアクセントのあるZingaraがそのまま聞き手に届きます。

(♯α)

 

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1.パッと歌詞を読んだだけではわかりにくいと思うのですが、ジプシーに、「自分の運命を占ってほしい」という内容の曲です。

 

2.ジャンニ・モランディは、持ち声のパワフルさを感じますが、ジプシーっぽさを出そうとしているのか、歌い出しをはじめ、ところどころやや表現に走りすぎて雑な印象を受けます。

ボビー・ソロは、やや言葉が跳ねた印象の歌い方が多いように聞こえるのが気になります。一方で、語るように歌っている部分もあるので、その部分は美しく聞こえます。

イヴァ・ザニッキは、この3人の中では、一番しぜんな語り方で歌っているように聞こえますが、ヴィブラートではなく、中音域で声が揺れている印象を受けます。

 

3.ジプシーの占い師に己の運命を占ってもらうという内容のため、「~して」というような命令形で書かれている部分が多くあります。その部分の訴えかけるような語り掛け方を大事にすることや、自分のことを語る部分での語り方の差を表現できるとよいと思います。どちらにしても、言葉を刻んだり、跳ねたりするよりも、切々と朗々と語り掛けるほうが、声の面でも表現の面でも効果的になるのではないかと思います。(♭Я)

 

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  1. A A B A+インストゥルメンタル間奏 B Aの構成です。楽器編成は、弦楽オーケストラ、ギター、ベース、マリンバ、ドラムで構成されていています。伴奏群にマリンバが入るのは少し珍しいかと思います。マリンバは、細かいトリルをしながら演奏するので、常に鳴っている振動が、人の心を揺さぶるというような効果をもたらしています。

 

  1. ジャンニ・モランディは、明るい響きの美しい声です。言葉も非常に明瞭です。高音は音程が見事にはまり、煌びやかに響きますが、低音で音程がはまらないのは、低音で身体が抜けてしまっているのかと思われます。意外と高い音域の持ち主なのかもしれません。語尾にヴィブラートと共に音をポルターレして下げるのが特徴的な歌い方です。

 

  1. 声の張り、明るい音色を意識して歌うと、この曲の雰囲気がよく出ると思います。頬骨をあげるイメージとともに、軟口蓋に音を当てるようトレーニングしてください。このとき、目も見開き、耳も開けるかのようなイメージが役に立つでしょう。胸郭のひろがりも意識しましょう。息を吸って広がった胸郭を保持しながら、胸に当てて声を響かせる意識も効果的です。表現としては、語尾、フレーズの終わりにかけてディミニエンドしながら、ポルタメントをかけながら降りてみましょう。(♯β)

 

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1.日本人の苦手な3拍子系です。 コード進行が斬新です。誰もが「Zingara」と歌うときのコードにびっくりするのではないでしょうか。このような仕掛けがいっぱいあります。特に、サビでコードが「セブンスが2度上のセブンスに行く」という面白い進行をします。

 

2.ジャンニ・モランディは、インパクトのある絶叫から始まります。タイミングがやや早いのでハスキーな喉声と相まってとてもインパクトがあるのです。しかし2回目は、逆に、やや遅れて入ります。この辺、しぜんになさっているのか、考え抜いているのでしょうか。声もそうです。喉声と「よい発声」を使いわけているようです。「Zingara」を繰り返しのとき(サビで出てくるとき)に高く歌っていますが、その発声はオペラのテノール歌手のように喉の開いた美声で透明です。ちなみに3人のうち、ここで高い声を出しているのはジャンニ・モランディだけです。最後のささやくような歌い方も素晴らしい。

ボビー・ソロは、言葉をていねいに伝えます。1つずつ言葉を区切って歌います。音域によらず一貫した発声、一貫した歌い方をします。

イヴァ・ザニッキは、軽く抜いているように聞こえますが、身体に芯が通って深い息です。

 

3.まずはリズムの教材として、3拍子を意識してよく聞いて慣れましょう。特にジャンニ・モランディのアレンジは、裏リズムも含め複雑なので繰り返しよく聞いてみてください。歌いだしのフレーズコピーをしましょう。視点は2つ。prendi questa mano そのものの歌い方とZingaraへのつなげ方です。(♭∴)

 

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  1. 原題の「Zingara」はロマ(ジプシー)の女性のこと。おそらく占いを生業にしている彼女に「手を取ってください=手相を見てください」と、歌の主は冒頭で語りかけています。占ってほしいのは想い人の心。藁をも縋るような思いで占いに頼るところからして、あまり分はよくなさそうです。畳みかけるような3連符のリズムが必死さを感じさせます。

 

  1. ジャンニ・モランディは、要所要所にロック歌手のようなワイルドな声の使い方も交えつつ、朗々と、しかし切なく表現力たっぷりに歌い上げています。

ボビー・ソロは、ソフトな当たりの声で、余裕たっぷりに甘く歌っています。

イヴァ・ザニッキは、よく伸びる明るい声で、都会的で洗練されたカンツォーネに仕上げています。

 

  1. 冒頭が印象的な曲です。「Prendi(手を取って)」で一気にどういう風景なのかを見せるつもりで歌ってみましょう。具体的には、話しかける相手との距離感を意識するといいと思います。頻出する3連符はあまり流れないように歌った方がこの曲らしいと思います。最後の方にある「speranza(希望)」という言葉には7度の跳躍が充てられています。7度の跳躍にはある種の痛ましさがあります。ここはキモですので外さないようによく練習しましょう。(♯∂)