V036「枯葉」  サラ・ヴォーン

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.メリスマ的な箇所がとても多く、歌う部分のほとんどを占めています。小刻みに音程を変えなければならないので、力づくで声を出していると、ほとんど歌えない音形が随所に出てきます。

 

2.曲中の全ての声が、前に出ているわけではなさそうですが、マイクが有るので、問題なく聞こえます。そこを逆手に取って、うまく表現に結びつけている部分も少なくないようです。チェンジは見事で、地声高音域から裏声はもちろん、かなりの低音域までを使いこなしているのは、圧巻です。

 

3.全く力を入れないで、声を前に出せなければ、このようには歌えないので、まずは力を抜いて、音程だけを気にして、歌ってみましょう。それでも歌えない部分は、テンポも落として、ゆっくり歌ってみます。音程自体は、順次進行や、コードに沿ったアルペジオや、装飾音がほとんどなので、コツさえ解れば、それほど難しくはありません。難しいのは、その脱力加減で、美しい声・お気に入りの声を出すことです。なんとか歌えるようになったら、是非、そこを目指してみましょう。(♭Ξ)

 

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1.言葉がなくスキャットを多用していて、楽器との言葉のない声のセッションともいえるような曲です。この曲だけの分析でいくなら信じられないほどの音域を必要とします。かなりの低音から高音までをカヴァーしなければならないでしょう。その意味では、このようには簡単に歌える曲ではありません。

 

2.単純に音域の広さに驚愕します。そして胸をしっかりとならした低音、中音からファルセットをつかっての高音というのは、日本人ではちょっと難しいかもしれないと思えてしまいます。リズム感やスキャットの躍動感、言葉がない状態でのこの印象を与えられるというのも驚かされます。低音がしっかりと低音歌手のような重量感をもちつつファルセットへの移行というのも驚くべきことです。

 

3.高音もファルセットへの切り替えと低音、中音の地声・胸声の太さ、鳴り方は難しいでしょう。日本でも素晴らしいジャズ歌手やタンゴ歌手などがいて、胸声とファルセットを多用していますが、サラヴォーンの場合、そこにある程度の音量や音圧があるように感じられます。ある程度の音量や音圧を声に加えるとファルセットへ移行しずらかったり、低音の声が重たくなりすぎて喉に負荷を与えがちなのですが、そのような感じには、聞こえません。

素晴らしい歌唱で学ぶべきところは多いとわかりつつ、真似をしすぎるリスクも高い歌唱だと思います。共鳴だけではなく、声の基礎力の部分がとても重要なのではないでしょうか。話す声、日常の声のポジションから意識する必要があるかもしれません。逆説的にいうとトレーニングを重ねていくことで日常の声が変化してくるくらいのイメージが必要です。そうすることで、中低音にも充実度が増し、高音域へのアプローチが楽になるでしょう。(♭Σ)

 

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1.かなりテンポが速い曲で、歌詞が一切なくスキャット(ダバダバなど)だけで歌われているのが大きな特徴です。スキャットというものは、一般的には歌詞の合間に即興(アドリブ)でつけるものなので、曲全体がスキャットのみで構成される曲というのは、とても珍しいと思います。

 

2.幅広い音域において力強い声を持ち、さらに声の動きもとても柔軟です。スキャットだけで歌っているのでまさに「人間の声という楽器」を聞いているような感覚になります。アップテンポな曲ですが、どんどん先を捉えているので息がスムーズに流れて、苦しそうな感じも全くなく、技術的にも音楽的にもベテラン歌手だと感じられます。

 

3.スキャットは即興でつけるものなので、この曲の歌唱でもスキャットのつけ方を変えて歌ってみるのも表現の勉強になるかもしれません。全く同じではない、あなただけのスキャットで「枯葉」を歌うという挑戦も、感覚を磨く上では学びがあると思います。とはいえ、ジャズ自体を歌い慣れていない人は、すでにできあがっているこの曲をそのまま模倣して歌ってみてください。アドリブのつけ方の感覚であったりジャズのリズム感を垣間見ることができるはずです。(♯α)

 

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1.全てスキャットで歌われていて、言葉が一切ないにも関わらず、聞くものを興奮に導く素晴らしい演奏だと思います。構成としては、インストゥルメンタルで始まり→声のスキャットでコーラス→インストゥルメンタルスキャットが合流し、終わります。

原曲は大変ゆったりしたテンポで、ときにテンポルバートで歌われることもありますが、サラヴォーンの演奏はとても高速でアグレッシブで一気に駆け抜けます。

 

  1. サラ・ヴォーンは、とても音域が広く、下はcis3〜上はfis5までと、驚異の広さです。話し声に近い音声で歌っていますが、その話声が喉に負担のない発声なのでしょうか、下の声はそれほど地声で張ったような声でもなければ、高音はきちんと頭声にしており、ジャズシンガーとはいえ、基本を押さえた発声を身につけていて、声に厚みがあり、少しハスキーな魅力があります。

 

  1. この曲を歌いこなすには、テンションを最初から最後までキープするエネルギーがまず必要でしょう。高速でエネルギッシュな演奏を5分間、継続しないといけません。

次にこのスキャットを真似するには何度も音源を聞いて、それらしいフレーズを歌えるように練習してください。全体の構成を捉えたら、1コーラスずつどのようなメロディーがつけられているのか、どのように盛り上がっていっているか、メモしながら聞いていきます。最後に音源に合わせて歌ってみてください。(♯β)

 

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1.全曲が歌詞というよりもスキャットで演奏されており、これだけ長い時間をスキャットだけで演奏される曲も少ないのではないでしょうか。ジャズならではのリズム感であったりノリのよさといった部分も必要とされる曲です。

 

2.日本人にはなかなかいないような、低音域から高音域まで幅広い音域で歌うことができる歌手です。パワフルな声の持ち主です。

 

3.全曲にわたって、ほぼアドリブのスキャットで演奏されています。スキャットを使ってどのようにこの曲を演奏するのか。音楽から感じたままに、型にはまらず演奏するというのが必要になります。型にはまってしまうとつまらない演奏になってしまうので、お手本はお手本ですが、この模範解答に近づけることだけでは演奏できない曲でしょう。ノリよく、スキャットを巧みに活用して、オケとともに独自の世界観を創り、それを聞き手に提供できるように歌唱できるとよいですね。(♭Я)

 

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1.有名なシャンソンですが、原曲をとどめないスキャットです。販売当時、激しい賛否両論だったそうです。一見よくわからない曲だと思うでしょうが、表面に惑わされないで左手をよく聞いてください。一定のコード、リズムのパターンが聞こえてくると思います。同じパターンを繰り返している部分(ストップしている部分)と進んでいる部分と2つにわかれることがわかると思います。このようにして少しずつ聞こえる部分を増やしていきましょう。(いつでも、よくわからない曲だと思ったら、伴奏とリズムをよく聞くようにしてください。)

 

2.これが女性の声に聞こえますか。凄すぎてよくわからないかもしれませんが、低い深みのある声です。また信じられないリズム感です。伴奏との掛け合いを聞いてください。

 

3.音源にあわせて自由にスキャットしてみましょう。恥ずかしさを捨てて、楽器になったと思って自由に声を出してみましょう。いろんな音が出せるように、声の幅を広げるために、いろんな音真似を練習しておきましょう。また、フレーズコピーをしましょう。比較的ゆっくり歌っている部分は低音です。自分の声と比べやすいということもありますので、低い声を真似してみましょう。そして自分の声を録音して聞き返し、比較してみましょう。(♭∴)

 

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1.シャンソンの「枯葉」は、晩秋の情景と過ぎ去った愛を重ねたセンチメンタルな名曲です。サラ・ヴォーンの「枯葉」もこちらを元にしていますが、原型を留めていない自由な演奏です。

ヴォーカルによるスキャット、ピアノ、ギター、ベース、ドラムという編成で、火花が散るようなセッションを繰り広げるフリージャズです。

 

2.サラ・ヴォーンスキャットはあまりにも自由です。低音から高音までトランペットやベース、ホイッスルといった何種類もの楽器の音が聞こえるように感じますが、しかしそのすべてが紛れもなく彼女の声なのです。ザラッとした手触りの音色が息に乗って淀みなく展開していく様は、歌唱芸術の極致と言ってよいでしょう。

 

3.私はこんな演奏を真似できる歌手をちょっと思いつきません。まずは普通の「枯葉」をちゃんと歌えるように勉強するべきだと思います。フランス語版ならイヴ・モンタンのしっとりした歌唱やコラ・ヴォケールのいかにもシャンソンな歌唱、英語版ならナット・コング・コールの端正で甘い歌唱を聞いて勉強することをおすすめします。(♯∂)

 

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「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

  1. サラ・ヴォーン 「枯葉」

 

 サラヴォーンの「枯葉」は、音程やリズムを強化したい人には、毎日10回聞いたら、4年くらいでよくなると言ったことがあります。上っ面の音感、リズム感でなく、実践で使えるものとして身についていくでしょう。

この中の1つのフレーズをこなすのも、最難関でしょう。コピーできる箇所がかなり限られますね。声の使い方、男性以上の太い低音からヴォリュームたっぷりの高音、シャウトから共鳴まで、まさに声を楽器レベルで使い、アドリブ、フェイク、セッションとは、こういうものかと見せつけます。(ボビー・マクファーリンなどよりもお勧めしています。)

 

 こういうのを聞くと、どうしても日本人のフェイクやアドリブは楽譜に書かれたような形にしか見えなくなってきます。つまり、自分のデッサン、色と線があり、それにあらゆるパターンに対応できる種類や応用力があり、はじめて表現が成り立つのです。

 セッションというのも、日本では、楽器のプレイヤーとどっぷりと組み合えている例は、ほとんどありません。バラバラに走っているというか、バンドもヴォーカルにセッションしていないで、バンド内だけで成立させているようで、そこに入る歌がのっかっているだけで不快なことが多いです。バンドをリードできるようなデッサン力をもつヴォーカルが少ないのです。

 

 「枯葉」は、イヴ・モンタンの創唱で、ジャズにも広く取り入れられました。サッチモで大ヒットした「バラ色の人生(ラビアンローズ)」と並ぶ名曲です。