V042「暗い日曜日」 ダミア

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.短調の曲ですが、低い主音から、一音程3~4音でしっかり踏みしめながら、上向分散和音で第三音、第五音、高い主音まで昇り詰めた後、さらにその上の高い第三音からの、力強い順次下向を3度の狭い音域で、やはり3回繰り返し、続いて高い主音からも同様に、さらに第五音からもと、かなり暗い曲なのに、決して弱々しい歌い口ではないところが、ますます悲しみを増幅させています。

また、前奏の最後と曲の最後に、コーラスの男性の重低音がとても目立つところが、さらに悲しみを絶望的なものにしていくようで、当時、この曲で自殺者が何百人も出たという都市伝説が、事実のように思えてきます。

伴奏は、コーラスとピアノと一本の管楽器で、メインはコーラスで、ピアノは小さく弱く、管楽器は、薄っすらとしか聞こえません。そこがまた、もの悲しさを助長しているようです。

歌詞の内容は、ほぼ絶対に帰って来ない恋人を思って、自殺するという内容で、その背景には、恋人は戦地で行方不明という話もありますが、歌詞だけでは推し量れない部分です。

 

2.ダミアは、説得力の強い声で、本当にこの曲のために、存在するかのような歌手です。

 

3.「自殺の聖歌」とも言われる曲なので、あまり練習はお勧めしませんが、練習をするならば、日本人歌手がカバーしているものを選んで聞き、それを真似するのが、何となく安心です。(♭Ξ)

 

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1.とにかく暗い歌という印象です。ダミアがフランス語で明るい言語で歌っていますが、曲の暗さの方が圧倒的に勝っています。その意味では歌手というよりも曲が強いといった印象でしょうか。歌詞の内容も暗い。しかしどこか耳に残るメロディは、人をひきつける何かがあるのでしょう。

 

2.ダミアが歌っているせいか、日本でもシャンソン歌手が歌うことが多いようですが、日本のシャンソン歌手にありがちなぼそぼそした感じがなく、明瞭なフランス語と明るい声の音色と響きで歌っていてとても素晴らしいです。言葉が外にでていると言ってよいとおもいます。日本のシャンソン歌手がぼそぼそ聞こえるのは、声が外に出ておらず、そこに感情をこめるからです。どこか暗い印象を受けてしまいます。

 

3.歌詞の内容、メロディに声の響きや音色が影響を受けすぎないようにしましょう。個人的には初心者や基礎力を高めているという人は歌うことをお勧めしません。声が出しづらい条件がそろっている曲なので、曲のトレーニングではなくヴォイストレーニングとしてはあまり向いていない曲だと考えます。

むしろ、歌詞の内容に自分が引きづりこまれるととても陰鬱な感じがしてくるので、この歌詞を客観的に第三者的に感じられる人には、ある意味トレーニングになりえると思います。(♭Σ)

 

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1.歌詞の内容は、恋人と別れた女性が苦悩に打ちひしがれる思いを歌ったもので、短調の旋律によってその歌詞をより引き立たせています。また、前奏の段階で混声のコーラスが入るのはシャンソンでは特徴的だと思います。歌詞の1節目はダミアだけが歌い、2節目からはコーラスも加わって音の厚みが増すことで、女性の苦悩が増大していくさまを描写しているように感じられます。

 

2.ダミアは女性としては低めの声で、芯の強い生々しい声(歌声というより話し声のまま)という印象です。そのような声質が「暗い日曜日」のような苦悩や悲しみを歌う曲にマッチしているように感じます。もちろん声質だけではなく、強調したい部分のテヌートやフレーズ末尾をリタルダンド(だんだん遅く)したりといった歌い方も不自然さがなく、それらが歌詞の内容をより深く表現することにも繋がっているのだと思います。

 

3.原調のまま歌うと人によってはかなり低い音に感じるので、その場合は無理をせずに少し高めに移調して歌うのがよいと思います。ダミアの音源を聞くと割とテンポが揺れていますが、それはあくまでダミアのテンポ感です。参考にするのはよいですが、まず練習の段階ではインテンポでリズムや発音の入れ方を正確に確認しましょう。(♯α)

 

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1.ある女性が、愛する人を失った強い喪失感と、それに伴う「死」というものに対する覚悟を歌った曲だと思います。直接的な因果関係は不明確ではありますが、陰鬱とした詩の内容と曲調から、一時はこの曲を起因と知る自殺者が増えたと言われており、イギリスやフランスでは放送禁止になったと言われています。確かに、カンツォーネや、他のシャンソンのような切なさの訴えとはだいぶ違い、一日中聞いていると陰鬱な気分になってしまうように思います。

 

2.非常に悲しげに語るように歌う印象を受けます。曲調と合ってポジティブさを微塵も感じさせない、悲劇的な印象を強く受けます。

 

3.カンツォーネなどのような、悲しさの中にも熱さを秘めた曲の切なさとは違い、非常に陰鬱とした印象のある曲だと思います。この曲の場合、熱さを込めて歌ってしまうと歌詞の内容とも、音楽的な部分ともミスマッチしてしまうと思いますので、切なく語るように歌うのがよいでしょう。しかし、その表現が日本人的では無く、あくまでも西洋風であることを念頭に置いて歌う必要があると思います。(♭Я)

 

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1.1936年に発表されたというだけあって、4声のコーラスをまじえたとてもクラッシックなアレンジです。

その整然としたアレンジ、コーラスによるしっかりとした和声のせいで、退廃的な歌詞のこの曲を、とてもシリアスで、かつ美しく表現することを可能にしています。

 

2.とても低音が充実した歌手です。下のミまで出ているので、なかなか一般の女性にはまねできない音域かもしれません。鼻母音が目立つ発声をしていて、常に鼻にかかったような声が目立ちます。しゃべり声をそのまま歌に乗せたような、現実的な表現で歌っています。

 

3.この歌を歌えるようにするには、彼女と同じ調で無理して歌わずに、自分に合う音域に移調して歌っていただくとよいと思います。フランス語をよく発音し、口の中ではなく顔の外に発語した音が響かせられるようにしてください。この歌手の音だけを真似すると、鼻にかかって顔の内側に声がこもったようになってしまいかねないので、言葉をしっかり発音できるように朗読してから曲に取り組みましょう。(♯β)

 

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1.この曲の特徴は、歌いにくいということです。一見そう聞こえないでしょうが、歌ってみるとわかります。まず、音域が広いです。はじめの1フレーズだけで1オクターブ以上あります。次に、伴奏のコードが意外に複雑で音がとりづらいです。伴奏に合わせればカラオケで音程がずれることはないのが普通です。しかしこの曲は逆に耳がよい人が、伴奏に引きずられて自分の音の高さを見失う可能性があります。最後にリズムが難しい。波のように寄せては返すリズムを歌で表現できるでしょうか。勝手気ままのようでいて、正確なリズム感が腹の底に流れています。

 

2.ざっと聞いて「歌いにくい曲だ」ということがわからないのが、ダミアの歌唱力です。歌いだしの合唱を聞くと、音域が広い曲だとわかりますよね。その直後にダミアが同じフレーズを歌うと、音域がそんなに広いように聞こえません。これが歌唱力です。オクターブ以上が見事に一本の線に乗っています。この歌いだしのフレーズは、繰り返すごとに少しずつ響きを変えています。よく聞いてみてください。

 

3.歌いだしのフレーズコピー。どうやったらこの広い音域が一本の線に乗るでしょうか。まずは弱く始めないで、はじめから全力で表現してみてください。息の強さ、お腹の使い方。はじめの1フレーズができたら上級者です。(♭∴)

 

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1.元はハンガリーの歌で、死んだ恋人の後を追って自らも死を望む内容のようですが、こちらのフランス語版では、恋人が去ったことに絶望した私が自殺を図り、いつか戻る恋人が私の亡骸を見つけるだろう、という内容になっています。

亡霊のようなコーラスと、薄く奏でるピアノのみの編成。

 

2.ダミアの声はナザールでゴムのように強靭です。声の立ち上がりに時間がかかり、ちりめんビブラートのかかった蓮っ葉な音色はあまり上品とは言えず、正直言って我慢しないと聞いていられない歌手だと感じました。とはいえ、美しいものだけが芸術だとは思わないので、日の当たらない世界を歌い上げるにはこういう声の歌手も必要なのかと思います。

 

3.音型に関しては、ほぼ分散和音をなぞっているだけのシンプルな曲です。1オクターブ上がって降りてくるドミソドソミドの発声練習をしてからこの曲を歌うとよくわかります。その動きの中でブレない発声を心掛けましょう。このぶっきらぼうで乾いた世界を表現するには、発声に左右されている場合ではないのです。(♯∂)

 

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「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

 

31.ダミア 「暗い日曜日」「人の気も知らないで」

 

 この2曲を新井英一のカバーと比べてみましょう。

 

ダミアの「暗い日曜日」で、18人が自殺。

警察から止められた、そんな曲です。