V024「アル・ディ・ラ」  ベティ・クルティス/岸洋子

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.サン・レモ音楽祭の一般投票で優勝した曲です。綺麗で口ずさみやすい愛の歌です。第三音の連続から始まり、第六音から始まる高い主音の連続を経て最高音は、高い第三音です。第三音の連続から、高い主音の連続へ進む間も、順次進行が多く、大きな跳躍はありません。また、高い第三音の後も、跳躍して降りることなく、少しずつ、緩やかに、第三音の連続に降りてきます。このことが、穏やかな安定感や信頼感を、感じさせ、詩の内容にピッタリなのかもしれません。

 

2.ベティ・クルティスは、安定感のある声とテクニックの持ち主のようで、穏やかな落ち着いた歌いかたで第三音の連続を進め、高い主音の連続から高い第三音へは、明るく張りのある力強い声で歌い上げ、とても好感の持てる演奏になっています。

岸洋子は、一般の人にも無理のないキーで、低音の魅力を少しだけ醸し出していますが、中低音は柔らかく、高音は張りのある声で、清潔に歌い上げています。ただ、当時の流行りなのか、曲最後のロングトーンの音程が、やや低いままで伸ばされ、最後に音程が微妙に上がって綺麗に収まるように歌っています。曲の途中の高音などは、むしろやや高めに歌って無理なく決めているので、耳の問題とかではなく、そんなスタイルを、踏襲しているのだろうと思います。

 

3.ベティ・クルティスはもちろん、岸洋子も、癖の強くない、端正な歌い方なので、どちらもお手本にしてよいだろうと思います。ただ、岸洋子は、シャンソン歌手らしく、曲の終わりを、ややアレンジしているので、楽譜りに練習するためには、ベティ・クルティスがおすすめです。(♭Ξ)

 

 

  1. イタリアのラブソングとしてはとてもポピュラーな曲です。リズミックな曲というよりはレガートが多用される曲なので声の基礎力が必須です。レガートなメロディの中で声の強弱が必要ですね。ただ強くだけでなく甘い印象を与える必要があります。

 

  1. クルティスの声は、イタリアの歌手らしいベルカントな声で聞いていてとてもここちよいです。ことば一つひとつがつながって切れ目なく紡がれていくことばたちがとても美しい。習うものでなくしぜんとあるイタリアのベルカントの美しさを堪能できる声と歌い方だと思います。

岸の声も、日本人としてはとても美しく低い喉で力みのない美しさだと思います。イタリア的な明るさがあるかと言えばそこは感じられないので岸のアルディラといった印象でしょうか。日本語の鮮明さはとてもここちよいです。

 

3.まずはイタリア語を力まずレガートでしゃべることから始めてはいかがでしょうか。母音で歌ってなれてもいいですが、子音が入ってくるとレガートが難しくなるので歌詞を読む段階で口の中が変化せず同じ空間、音質、音色でしゃべるトレーニングを行うとよいと思います。(♭Σ)

 

 

  1. 曲名の「Al di la」はイタリア語で「〜を超えて、〜の向こうに」という意味がありますが、邦題はそのままアルディラとして使っています。歌詞の内容は相手への熱い愛を歌っています。その歌詞に度々出てくる「Al

di la~~~ci sei tu」は、「~~~の向こうに君がいる」となります。始めに少し導入部分があってから主題に入るという流れで、カンツォーネではそんなに多くない形ではないかと思います。

 

  1. クルティスは、始めの導入部分を語りのような感じで、台本でいうとト書きの部分を歌っている雰囲気で、本題に入るとセリフを歌っているという感じがよく出ています。歌詞の内容を聞きながら彼女の作り出す世界に引き込まれます。歌詞に何度もある「ci sei tu」もそれぞれに歌いわけているのも魅力的です。イタリアでは男性が歌うような内容に感じる歌詞ですが、女性歌手が歌ってもかっこいいと感じさせる歌唱だと思いました。

岸は、最後の音程がぶら下がる感じがやや気になりました。ですが、歌詞を丁寧に捉えて歌い進めることや、これまで歌い続けてきたことによる音楽の奥深さを感じます。編曲や日本語歌詞という違いの他に岸の表現も相まって、クルティスとはまた違う曲を歌っているような印象を受けました。

 

3.「Al di la」の発音ですが、この短い中に子音Lが2つもあります。外国語の歌詞に慣れていない人は、どうしても子音RとLを混同しやすい部分です。もし子音Rで発音してしまうと歌詞の意味をなさなくなります。特に子音Lから子音Dへの移行は、舌先が上前歯の後ろに当たったまま(舌先が離れない)次の子音Dに向かうということを、まずは音程なしで発音のみを丁寧に確認してください。

歌い方としては、「ci sei tu」を自分の表現として歌いたいです。また「ci sei tu per me,soltanto per

me(私のために君がいる、私のためだけに)」という歌詞も、それぞれ歌い手がどう表現するのかが問われる部分だと思います。(♯α)

 

 

1.愛しい人への思いを歌った曲ですね。歌う人によって、この曲の詩をどのように解釈し、どのように語りたいのかが見えると思います。そういった意味では、センスを問われる作品かもしれません。

 

  1. クルティスは、ときに甘く、ときに力強く語るように歌う印象を受けます。イタリア語の発音発語をやや崩したような部分もあるように聞こえますが、表現の手段として取り入れているのではないでしょうか。

岸は、詩を丁寧に語るように歌われる印象を強く受けます。日本語で歌われていますが、歌詞の内容がわかりやすく語られているような印象です。

 

3.「愛しい人への思いをどのように語るか」というのが、この曲を歌う上でのカギになると思います。歌う人それぞれが、詩の内容から何を感じ、どのようにその内容を語るかというのが重要だと思います。歌い始める前に、原語でも訳語でも、内容を理解したうえで、書かれている詩から受けた印象を大事に、詩を朗読する練習を行ってみるとよいのではないかと思います。そのうえで、発声や発音発語のフォームも活かしながら、その内容表現も両立させて歌う練習を行い、声と表現のどちらも成立させられるように工夫してみるとよいのではないかと思います。(♭Я)

 

 

1.リズムが面白いです。イントロは三連符のリズム、Aメロに入ると普通の2つ割のリズムになります。かなりリズムがわかっていないと、乗り遅れてしまいます。

2.ベティのアレンジは、イントロとAメロの間にレチタティーヴォがあり、一瞬リズムがなくなります。岸のアレンジでは一瞬のフェルマータですぐにAメロに入るので、より難しいといえるでしょう。

 

2.2人とも抜群のリズム感のよさを感じます。上述のようにAメロにエイッと、入るのがかなり難しいアレンジです。2人とも、聞きながら絶妙に調整しています。そこをよく聞いてみてください。

クルティスは、オンタイムで入りますが、途中で少し遅れ(prezioso)、また合わせます(ci sei tu)。

岸は、少し遅れ目に「あなたー」と行きますが、次のフレーズとのつなぎでよく聞いて次の「どんなー」を合わせています。また全体的にクルティスは「拍に遅れる」フレージングで歌っており、岸は「拍より早めに行く」フレージングで歌っています。聞き比べると面白いでしょう。

クルティスの遅れ方は、かなりギリギリです。これ以上遅れると、ただ下手なだけに聞こえますが、そこが天才的なセンスでギリギリ「セーフ」になっています。

クルティスのアレンジでは2番で裏拍に「ズドン」というのがあり、それに反応するベティのリズムの感覚を聞くと面白いと思います。

 

3.いつも私はアカペラの練習をすすめていますが、この曲に関してはカラオケを聞きながら歌っていきましょう。歌いだしのリズムについていけますか。また、カラオケと微妙にずらしながら歌う練習をしてみてください。はじめは変な感じがしますが、歌を生きたものにするためには学ばなければならない技法です。(♭∴)

 

 

  1. タイトルは「向こうがわ」あるいは「彼岸」「(この世ではない)遠いところ」といった宗教的な隔たりを感じさせる言い回しです。明言はされていませんが、おそらく亡くなった人への想いを、そしてその人がいつでも存在して見守ってくれているという汎神論的な愛を歌った詩のように読み取れます。しかしつけられた音楽はどちらかと言えば軽薄で、平凡な恋愛ソングの態です。安っぽいバックコーラスがそう思わせるのかも知れません。

 

  1. クルティスは、媚びるような甘ったるい低音域と決然とした中~高音域のギャップが面白いと感じました。可愛らしい声を出しても強めの声を出しても、一切、母音の音像が歪まないのが見事です。

岸は、温かみのある低音で隅々まで丁寧に歌い上げている。非常に真面目な歌といった印象。

 

3.発声面では特に難しい部分はない歌ですが、最後の長い音はクルティスも岸も伸ばしている途中に音程がブレています。こういったブレを解決するためには、伸ばしながらクレッシェンドやデクレッシェンドする練習をしましょう。ロングトーンのよし悪しはなかなか自分では判断が難しいものですが、音量が調整可能な状態になっていればおおむね合格だと思っていいでしょう。(♯∂)

 

 

「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

22.ベティ・クルティス 「アルディラ」

 

  映画「恋愛専科」、アメリカのラブコメディ、イタリア舞台。ルチアーノ・タヨーリもカバーしています。

リズミカルな方でなく前奏が楽譜通りにきちんと入った方のヴァージョンのがわかりやすいです。

冒頭のスキャットの「ラララ…」は流れていますが、その後の「アルディラ」の歌い出しのフレーズからは、息によって体の見えるような入り方をしています。つまり声に芯があり、息があり、重さがあるわけです。

ci sei tu のところでの息を聞いてみましょう。

あとは、ポップス歌唱の見本です。Al di iaの入り方、Ci sei tuのおき方、この2つをマスターした上で、サビフレーズに挑戦しましょう。