「ばにらさま」山本文緒(本)
6つの短編小説が収録されています。どの物語も日常にありそうな風景が思いもよらない方向に進み、葛藤する登場人物について描かれています。なんかなぁ、と思いながらも自分なりに引き受けて生きていかなければならない、誰もが少なからずそんな思いを抱いて生きているんだ、と感じられる小説です。
「青い壺」有吉佐和子(本)
ある陶芸家が作った青磁の壺が、贈り物、盗難などで様々な人の手に渡り最後に陶芸家の目の前に現れる、という話です。
13の短編からなり、登場人物の年代や家庭環境、職業は多種多様。青磁の壺は必ずしも物語の中心とは限らないのですが、思わぬところで登場し存在感を示し、また世の中の繋がりを感じられます。
青磁の壺は物なのにまるで生き物のように人の心に入り込むところが印象深かったです。
「さくら」西加奈子(本)
主人公は5人家族の次男。優しい両親と人気者の兄と美人だが性格に難あり、の妹。一見幸せそうだが、それぞれが生きづらさを抱えている。そして家族全員の癒しになっている愛犬サクラ。
兄の死、妹の引きこもり、母のアルコール依存、父の失踪と家族が崩壊しそうになるが、サクラが支えてくれる。
この物語の主題は世の中に馴染めない人、世界の片隅に追いやられている人だと思う。
家族が世界の片隅に追いやられそうなとき、サクラを介して生きる場所を見つけている。
物語の最後の言葉「僕らのボールを今か今かと待っている誰かがいる。どんな悪送球でも、ばっちり受け止めてしまう、大きくて暖かで、かけねのない何かがいる。」という言葉が心に響きました。