V049「死ぬほど愛して」 アリダ・ケッリ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.低い第5音から第5音までの、1オクターブとそれほど広くない音域の曲で。さらにアリダ・ケッリの歌うオリジナルでは、女性の地声には、それほど無理のない範囲の音を使っています。

最初のメロディは、低い第5音から始まり、主音へ跳躍しながら始めの「アモーレ」を歌い、第2音で2回目の「アモーレ」を、そして調性を確定する第3音で3回目の「アモーレ」を歌ったあと、だめ押しのように、主、2、3、2、主音で「アモーレミオ」と歌い、短調感を確定しています。始めの跳躍以外は、順次進行なので、下手に歌わない限り、印象に残る美しいメロディになります。

 

2.アリダ・ケッリは、エッジをうまく使った無理のない発声で、息混じりの声でもエッジをうまく活かして、声の統一感を出しています。また、暗い音色で、映画中の曲のイメージにマッチした表現になっています。少し残念なのは、充実した強い高音域(中低音域でもよいのですが)は、なさそうな点です。これがないと、曲の種類や表現が、少し限定されてしまいます。

 

3.エッジヴォイスをうまく使いたい人は、是非、繰り返し聞いて、真似をするとよいでしょう。ただし、高音域などでの、充実した声は出せないので、そこは、しっかりわけてトレーニングしていきましょう。(♭Ξ)

 

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1.比較的ゆっくりな曲で、抒情的なメロディ。何度となく歌われるamore mioという言葉がとても印象的な曲です。イタリア語としては初級でつかわれるような言葉が多いので、意味を理解しやすい楽曲です。

 

2.しゃべるように歌うという言葉がぴったりな歌手です。フレーズの最初の音が力まず、しかし声門閉鎖がしっかりと行われて息漏れがないしぜんなアタックで歌いだせる素晴らしい歌手です。フレーズの最初のアタックというのはとても難しいのですがそれを難なく行っています。そして発音がとてもしぜんで美しいので聞く努力をしなくていいのがとてもありがたい歌手です。台詞のように歌うというまさにイタリアの歌手といった印象でしょうか。

 

3.アの母音を明るく発音することからはじめてみるといいかもしれません。アという母音を浅くなく、しかし明るく身体から離すということをイメージして訓練してみましょう。まずここから始めるとイタリア語がクリアになります。日本語のアとイタリア語のアは明るさが全く違います。深さも違います。深いけど明るいというイタリア語を台詞のレベルまでトレーニングするとこの歌が比較的楽に歌えると思います。(♭Σ)

 

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1.歌詞は女性目線で書かれた内容で、死ぬまで一緒にいたいほどの愛は遂げられなかったその想いをイタリア語で歌っています。旋律の動きは大きくないですが、短調の中でテンポが前気味に進んでいくことで歌詞の内容やその切実さがより引き立っているのではないかと思います。

 

2.ケッリはシンプルな旋律の中でも上手く緩急をつけて、1オクターブ程の音域でもこぢんまりとせずにダイナミックさのある歌唱になっています。それにより歌詞の言葉ひとつひとつがより際立って、結果的に曲全体が印象に残るような歌唱になっているのだと感じました。

 

3.旋律も歌詞の発音も比較的歌いやすい曲だと思いますが、それがゆえにただ音をなぞるだけでは単調な歌になりやすいです。歌詞だけの練習をして、アクセントを大げさにつけて発音してみると、シンプルな旋律の流れにより動きが出てきます。ケッリの歌唱は恐らく実際のリズムよりも揺らしていると思いますが、フレーズの運び方や発音の感じを掴む意味では模倣してみるのも勉強になると思います。(♯α)

 

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1.2分弱の短い曲ですが、同じ単語を何度も繰り返すように歌い、訴えかけるような印象を与える曲だと思います。

 

2.表現的な意味での語り方と、滑らかに歌うような語り方という二つの意味で、この曲を印象的に歌っていると思います。同じ単語を繰り返しても、それぞれに色の変化があるように聞こえる歌い方をしていると思います。

 

3.レガートな歌い方を基本としながら、何度も繰り返す単語にどのような変化をつけるかを、自分の感性で語れるように表現しながら歌うとよいでしょう。同じ言葉を繰り返し歌う場合、同じように歌うだけだと、聞き手は退屈してしまいます。こういう場面でどのような変化をつけられるのか、どのような感性を出せるのかというのが、歌い手としての力量の一つです。ただきれいに歌うだけではつまらない曲になってしまうと思いますし、劇的に激しく歌いすぎても荒々しくなってしまうと思います。劇的でありつつ、滑らかさを失わずに歌える歌い方というのを研究してみるとよいでしょう。(♭Я)

 

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  1. 映画「刑事」の主題歌でヒットした曲です。ラテンのリズムの伴奏が絶えず刻んでいる上で演奏されます。4小節からなる5つの似たようなフレーズの連なりで成り立っています。この5つのフレーズの連なりが1コーラスを形成し、全体としては2コーラスで編成されています。ギター、ストリングス、アコーディオンなどを伴奏に迎えています。

 

2.ややハスキーな声で、声の中にもの悲しさを感じさせる音色を持っているように感じます。音と音のつなぎ方でうまく聞かせており、レガートでありながら、言葉の抑揚が非常にうまくついているので、歌いまわしがのぺっとしていない、メリハリのある表現が可能になっています。

 

3.言葉と譜面だけ見ると、ベターっと歌ってしまいがちですが、この歌手がやっているような音と音のつなぎ方を研究してみるといいと思います。「アモーレ」で少しディミニエンドして、「ミーオ」の「ミ」に重きを置きながらコブシのようにトリルを回します。このようなコブシを聞かせたいときには太い声で歌うとうまくいきません。細く、圧力を鋭くかけるような感じで歌うといいでしょう。ホースの先を絞ると、水の勢いが強くなるようなイメージです。(♯β)

 

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1.シンプルなリズムパターンに乗って行く、暗い曲想。ヨーロッパの片田舎がイメージに合う。あまり日の当たらない少し湿気た匂いのする石造りの建物。スーパーマーケットはなく、昔からの量り売りで野菜や果物、肉を買う。

このように、よくわからない言語の曲を聞くときは、はじめから歌詞を調べたりはしないで、勝手なイメージで構わないので、どっぷりと曲のイメージに浸ってください。できるだけ具体的に、色や匂いが現実的に感じるようになるまで。この曲はシンプルであるがゆえに、そのような練習に適しているように思いました。

 

2.長いフレーズの線を意識して聞いてみてください。はじめの「アモーレ…」3回言うごとに少しずつ盛り上がっていき、「アモーレミオ」で一気に解放される。フレーズの作り方が見事です。次のフレーズは「インブラッチョアテ」1回目と同じメロディですが明らかに「高い」フレーズを作っています。1回目ほどフレーズの終わりに開放感がなく、ある程度の緊張感をもって「ヴォイロ」の3フレーズ目に進みます。こうして、フレーズそのものの緊張と弛緩、フレーズの間の関係を何とか聞き取ろうと努めてください。

 

3.初めのフレーズを取ってください。フレーズにうまく頂点が作れたか、それがしぜんに終わったか。フレーズの終わりをふしぜんに急がせなかったか。できたと思ったら次のフレーズに進みます。音域が広くないため、この曲はフレーズを音楽的に組み立てる練習に最適です。

(♭∴)

 

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1.「ビギン」というカリブ海マルティニーク島発祥のダンスリズム(ゆったりとした2拍子。ツタータ・ツタタタ)に乗せて、しっとりとエキゾチックに歌われるのは「愛するあなたとずっと一緒にいたい」というストレートな愛の言葉です。

 

2.ケッリの歌声は大人の女性の魅力溢れる情感豊かな音色です。同時に、どこか男性の庇護欲を掻き立てるような危うさも感じさせます。レガートが美しく、傷ひとつない歌唱と言えるでしょう。

 

3.音域が狭く、リズムも単純なため、さほど演奏が難しい曲ではありません。こういう曲で極めて優美なレガートで歌う練習をしましょう。お勧めしたい練習方法は、ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器を演奏する真似をしながら歌ってみることです。弦楽器を全く触ったことがない人は演奏動画を見てみるといいです(スローテンポの曲にしましょう)。ゆっくり弓を動かす感覚や、音が変わっていっても弓は細かく動かさず、一定方向にすすめるだけだという知見が、きっと歌でのレガートに役立つはずです。(♯∂)