V041「ある日恋の終わりが」 ジョルジュ・ムスタキ

1.歌詞と曲と演奏など
(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)
2.歌手のこと
(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)
3.歌い方、練習へのアドバイス

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1.はかない恋の歌なので、あまり低音域を使わずに、中音域での動きをメインにしていて、何度か出てくる高音域でも、決して張らずに、はかなさともの悲しさを醸し出しているようです。作曲者のムスタキにならって、ほとんどの歌手が、サビでも高音域を弱めの声で歌っています。中には、3節の中盤だけ、しっかり強い声を使って、ドラマチックにまとめている歌手も、稀にいます。

2.ムスタキは、作詞・作曲家ということもあり、歌詞への思い入れが強いためか、息混じりの安定しない歌声で、上ズリ気味の不安定な音程になっています。そんな部分も、女心に訴えかけるのかもしれません。

3.この曲を練習するためには、ムスタキ以外の歌手を真似しましょう。日本人女声も、多くの歌手がカヴァーしていますが、日本人男声の大塚博堂は、お勧めです。シャンソン好きの人には、物足りなさもあるかもしれませんが、息混じりの声も使いつつ、きれいに音程も合っていて、シャンソンらしいタメや激しいアレンジも、とても控えめなので真似をしてみましょう。(♭Ξ)

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1.失恋の歌である歌詞の内容、メロディ、リズム、歌手の声がどれも絶妙にあっていて聞きやすい曲だなという印象です。凹凸や盛り上がりが少なめの曲ではありますが、それが故に歌詞と声に意識がいきやすい曲です。

2.甘い声という印象がとても強い歌手です。そしてフランス語がとても聞き取りやすい。中学生がビートルズの歌を聞いて英語を学ぶようなレベルでフランス語がとても聞き取りやすいです。あえてそうしているのかはわかりませんが、とてもクリアなフランス語です。フランス語の鼻母音を学ぶには、とても参考になる歌手です。

3.多くの日本人の場合、この彼を真似すると息がとてももれてしまうか、発音が不鮮明になりかねません。ある程度、自分の声にあった歌い方で歌うべきだと思います。かなりべったりとしたレガートな曲なので声を張り上げるよりも、レガートを意識する方がうたいやすくなると思います、歌詞を縦によむのではなく横に読んでいくようなイメージをもって歌うとよいかもしれません。
発声の基礎力が崩れやすくなる事例の一つは鼻声です。その意味ではフランス語の鼻母音や日本語の鼻濁音は間違えると発声を崩しやすい言葉の一つなので、そこを改善する意味でも鼻母音に取り組んでみるのはよいと思いました。(♭Σ)

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1.恋人と別れた後の思い・心情を描いた歌詞で、激しい心の葛藤というよりは心の奥深くにあるものを静かに語っています。その歌詞を表現するかのように旋律にも大きく盛り上がるような箇所はなく、淡々と語る言葉が音に乗っていくという印象です。それ故に、歌い手は歌詞の内容をしっかりと理解した上での音楽的表現というものがより一層問われる曲だと思います。

2.ムスタキは、曲全体を通して声を抜く(息を緩める)ような歌い方だという印象を受けました。そのせいでフレーズが短く途切れやすいという聞こえ方になっています。ですがそれらが恋人と別れた心情を表現するためのものだと捉えれば、フレーズが短いのもため息のようであり、歌い方に心が沈んだ雰囲気が出ていてまさにぴったりだと思います。もし彼の歌い方をそのまま真似しようとすると、恐らく初心者の人は歌いにくさを感じると思うのであまりお勧めではありません。

3.全体的に流れるような旋律で一見すると歌いやすそうですが、そこに日本語より子音の多いフランス語の歌詞を乗せるのでどうしても旋律が曖昧になりやすいです。ぜひ始めの段階から、歌詞の発音はリズム読み(音程はつけずに、音符の長さ・リズムに合わせて発音する)をしてください。また旋律の方も、いったん歌詞を外してラやマなどひとつの発音だけで歌い音程やリズムの確認をしましょう。この作業を行うことで、土台となるもの(旋律の輪郭や歌詞の発音)が安定してきます。(♯α)

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1.「恋はいつか終わりを迎え、恋人同士が愛し合うのはひとときの間だけ…」という言葉を繰り返し歌っています。また、愛することについてさまざまな比喩を用いてその感情を表現しています。

2.シャンソンなのでフランス語ですが、語るような印象を受けます。恋の儚さを語るニュアンスがあっているように思います。リズムに囚われすぎない、フランス語を語るイメージの参考としてみてはいかがでしょうか。

3.終わった恋に対する苦しさをメッセージに変えて伝えるような、そんな印象を受ける曲だと思います。終わった相手に直接伝えるだけではなく、さまざまな比喩も用いて訴えかけるような曲として書かれていると思います。基本的に悲しい内容ではあると思いますが、日本人的に内向きになるのではなく、聞き手に伝わるように歌えるとよいですね。歌いすぎず、語りかける割合が高めになるような歌い方、語り方をよく研究してみるとよいと思います。歌詞だけを内容が伝わるように読むことを練習として行えるとよいですね。(♭Я)

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1.1~3番までの構成で、3拍子系のリズム、「恋はいつかは終わる、愛し合うのはほんのひとときだけ」と切々と歌っています。

2.初めて聞いたとき、表現スタイルはシャンソンですが、発音がシャンソンらしくない、母音がやたらに明るく少しイタリア語や日本語に近い印象を受けました。ムスタキはエジプト生まれで、17歳でフランスに渡ったのだそうです。シャンソンらしい、語りの延長のような歌唱表現をしており、素直な気持ちをそのまま音に乗せたような表現で歌っています。

3.発音そのものを真似する必要はないと思いますが、この録音を聞いていると、うっかり単語でぶつぎれのフレージングになりかねないので、文章の単位でフレーズをつないでいくとよいと思います。詩をよく朗読して、文章の抑揚をつかんでそれを歌に乗せていきましょう。
(♯β)

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1.ピアノ中心のシンプルなアレンジなので歌を集中して聞くことができます。伴奏のアウフタクトの入りの歌い方が素晴らしいです。またよく聞くと、ピアノの右手と左手のタイミングが少しずれていることがわかります。歌も少しフライング気味に入ってきます。以降、ピアノと歌がずれていることがよくありますが、揃うべきところはそろっています。この「ずれ」をよく聞いて、フレーズの進め方の参考にしてほしいです。伴奏が先に行っているところと歌が先に進んでいるところです。

2.「語るように歌う」シャンソンの男性の醍醐味が堪能できます。全曲を通じて、語る声を基調としてまとめられています。それゆえ、高い声では抜いているので、そこが「軟弱に」「弱々しく」聞こえる人もいるかもしれません。

3.歌いだしのフレーズコピー。まずは詩を聞き取ってせりふとして真似してみます。そこから少しずつ歌に近づけていってみましょう。伴奏とのタイミングのずれも、よく聞いて積極的に表現してみましょう。(♭∴)

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1. 「恋はいつか終わってしまうものである」という冒頭の言葉がこの歌のテーマです。執着しても仕方がないという醒めた目で恋の終わりを俯瞰する。センチメンタルではあるもののそこに涙はなく、今はただその気分をもう少し味わっていたいという、実にフランス的な恋愛観が現れた歌だと感じました。伴奏はピアノがメインで、味づけ程度のオーケストラがときどき加わります。

2.ムスタキの声は、まるで柔らかな毛布に包まれるような肌触りです。少し息交じりで角がなく、肩の力が抜けています。声を張り上げることだけが豊かな音楽ではないと感じさせてくれる歌手です。

3. 失恋の歌ですが、湿っぽくならない方がよいと思います。ダメだったら次の精神とでも言いましょうか、Jポップともカンツォーネとも違う感性だということは念頭に置いておきましょう。繊細にアンニュイな気分を表現するためには常にレガートで、しかし伸ばし過ぎないことと、微妙な音程で表す色彩の変化に留意するとよいと思います。(♯∂)

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「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

25.ジョルジュ・ムスタキ 「ある日恋の終わりが」「私の孤独」
 
 ジョルジュ・ムスタキのは、大塚博堂の「ある日、恋の終わりが」の元の曲として紹介しました。ムスタキが来日したとき、ホテルで食事を伴にする機会があり、そのときの写真は、私の宝物の一つです。こういう神がかり的な仙人のような歌手は、まねられるものではありません。
 「私の孤独」では、日本語の語りのまま、メロディを処理して歌わずに歌として、成立させるためにどうすればよいかを模索しました。コラヴォケール、大塚博堂さとう宗幸などがカヴァーしています。
 「私の孤独」は、出だしを日本詞でコピーするとよいでしょう。
 同じ目的で、ピアフとシャルル・デュモンの「あなたはいつでも笑顔で応える」(「恋人たち」)を使いました。
 ムスタキの作品としては、「異国の人」「17歳」「HIROSHIMA」など。