No.377

「貧しい人々」ドストエフスキー(本)

ドストエフスキーの20代の処女作。晩年は早書きで有名だったドストエフスキーですが、この作品は推敲を重ねています。10代の少女と40代の中年のおじさんの書簡という形式です。2人ともさまざまなことがあって、今は貧しい境遇で暮らしています。とはいってもそこそこの教育は受け、一応召使もいる身分ですので、本当の貧困層というわけではないでしょう。今の日本にたくさんいる「ちょっと生活が苦しい」という感覚だと思います。また英語と同じで、タイトルで「貧しい」と訳されている言葉は「かわいそうな」という意味がかぶるそうです。そう考えると逆に親近感がわいてきます。

主人公の一人、10代の女性ワルワーラは、もともとは中流階級でしたが、父親の解雇、病死から、運命が暗転し始めます。今は内職で細々と生活しています。この小説は謎めいていて、(2人の書簡以外には何の説明もないので)、ワルワーラがなぜ中年男性マカールと出会ったのか、なぜ文通するようになったのか、よくわかりません。家は近いようなのですが。あとは皆さんが実際に読んで、いろんな伏線を発見して見てください。

推敲を重ねただけあって、(もちろん翻訳ではあっても、)音読に最適な名文です。書簡とは、要するに会話文なので、登場人物に入り込んで音読できるでしょう。論理的な説明文ではないので、音読して体で読まないとわかりにくい部分もあると思います。ちなみに発表当時、ドストエフスキーの友人作家2人は、この作品を交互に音読して読んでいったら、夜通し読み進めて、読み終わるまで、気づいたら朝の4時になっていた、とのことです!

 

現代思想入門」千葉雅也(本)

著者はテレビにもよく登場する新進気鋭の哲学者です。難解な思想をわかりやすく説明することに定評があります。ところでなぜ哲学なのか。混迷を深める時代には、思想を学ぶとよいです。哲学者というのは「世の中のあらゆること」を考え抜いている人たちです。薄っぺらいハウツー本にあふれている今日この頃ですが、じっくりと哲学者の本に取り組んだ方が、生きるヒント、生活のヒント、ピンチのときに、またうまくいっているときに、ものを考えるきっかけを与えてくれます。

また、哲学者は現代のことを考えて書いているつもりなのでしょうが、実際には時代が思想家の後からついてくることが普通です。それゆえ哲学書を読むと、これからの時代がどうなるのかがわかります。個人的には現代は、150年ほど前に生まれた哲学者、ニーチェが予言したとおりになっていると思っています。「肥大した自己」ががんじがらめになっている状況です。(「有名になりたい」「イイネがたくさんほしい」など。)

そこで現代思想を学ぶ必要が出てきます。これから世の中はどこに進むのか。もちろん初めから原典に当たれればいいのかもしれませんが、初めは本書のような概説書で十分です。この本ではジャック・デリダジル・ドゥルーズ、そして、ミシェル・フーコーを主に学びます。

現代思想の前までは「複雑なことを単純化して考える」ことがよいとされていました。今の現実社会でもそうだと思います。ところがこれら3人の思想では「複雑なことを単純化しないで、複雑な現実の難しさを、そのままクリアに理解する」ということに主眼が置かれます。詳しくはぜひ本書を手に取ってみてください。

 

「青年」森鴎外(本)

小説家を目指して上京し、葛藤する話。自分と共感できる部分も多く、リアルに青年像を描いているなと思った。またワードセンスの勉強になった。

 

「スパイ」板東忠信・青林堂(本)

日本にはスパイ防止法がない。なので、スパイ天国だ、と、聞いたことがある。ロシアや中国のスパイに自社の資料を提供した日本人の話は時々、報道されるが、先進7ヵ国いわゆるG7でスパイ防止法がないのは日本だけ。お隣の中国には、スパイやテロリストを見つけ出す防諜組織「国家安全部」がある。そういえば、何人かの日本人がスパイ活動をしたとの理由で中国内に留め置かれていると思い出しながら、本書をめくった。ポケットの中のスパイともいえるスマホ、文化交流を偽装した活動家の拠点、政治家に接近する工作員など、へえーっと思う内容。日本は本当に無防備だなと思った。

 

「リトルマーメイド」(劇団四季

あまり今まで着目していなかった口の動き、口がとてもみんな縦に開いていたし、口輪筋をしっかり使ってクチバシみたいになっていた。色んな海の生き物が再現されていて、綺麗で楽しかった。ワクワクした。悪女役の人の歌唱がすごかった。パワーがあった。聞いていて、すごいなぁと圧巻だった。あんな声を出してみたいと思った。彼女がカーテンコールで最も拍手をあびていた。出演者みんなキラキラ生き生きしていた。