V034「行かないで」  ジャック・ブレル 

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.歌詞を、言葉として大切にし過ぎて、曲が、メロディではなく、語りばかりになってしまいそうな部分もあるシャンソンですが、この曲は、とても綺麗なメロディと、歌詞でできています。

 

2.随所にジャック・ブレルの思いが溢れ過ぎていて、せっかくのメロディを、充分に活かしきれていないのが、残念です。音程で歌詞を語っている部分も多く、音程よりも歌詞が目立ち、ときには音程を崩す語り(シャンソンではよくあるようです)になってしまっています。

語りとしての声にこだわって、歌声としての声をあまり使っておらず、歌詞が声に乗っていないので、さらに綺麗なメロディが、判りにくくなっています。作詞の美しさや声そのものの表現が、特に評価されていることも、あるかもしれません。

ブレンダ・リーは、語りの部分も少なくありませんが、うまくメロディを壊さないようにしているので、歌声も多く、曲としてとても聞きやすくなっています。

ダスティ・スプリングフィールドは、息混じりの声と艶のある声の使いわけが、曲のドラマを盛り上げていて、とても心地よい構成になっています。また、語りの部分も少なめで、曲としてわかりやすくなっています。

 

3.まずは、ダスティ・スプリングフィールドのように、歌声でメロディを歌えるようにしましょう。(♭Ξ)

 

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1.ラブソングの一種なのですが、聞いていると個人的には重たい印象を受けてしまう曲ですね。ブレルの歌いまわし、しゃべり方、ピアノ伴奏、フルートのメロデイがとても暗く聞こえてしまいます。

特にピアノのトリル奏法とフルートの旋律、歌手の語り調の歌いまわしが余計にもの悲しさを演出しています。

聞き手によっていろいろなとらえ方ができてしまう曲だなという印象です。

 

2.歌手というよりも歌う俳優、歌う表現者というような印象を受けます。歌が歌に聞こえない。歌っているのに語っているように聞こえてきます。しかし、その分言葉のもつ内容がダイレクトに入ってきます。音楽のもつもの悲しさは楽器が担当していて、楽器とのセットとしてこの曲は考えるべきなのだろうと考えます。

声についても舞台俳優が台詞にメロディをつけたような印象です。呼吸や響きというよりも台詞を発する力というべきかもしれません。しかし、この部分が日本人が弱い部分なので、学ぶべきところは多いです。声のレッスンとなると響きや音域ということになりがちなのですが、その前に歌詞を発するだけで心を動かすだけの力のある声というものがあるということです。

ブレルの声は決して美声ではないです。しかし、その分、内容が直接的に入ってきます。声の美しさに隠れない言葉のもつ力を出せる方です。

 

3.歌手のことでも書きましたが舞台俳優のような力が必要な楽曲です。広い音域や美しい声よりも言葉のもつニュアンスや内容を伝えられる声と体の結びつきが必要です。その意味では台詞をお腹を使って読む。その体の使い方のままメロディを乗せるというトレーニングがよいでしょう。(♭Σ)

 

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  1. フランス語による歌詞で、恋人が去ってしまった後も「行かないで」と未練が残り断ち切れない想いを歌っています。歌詞はかなり長く、曲中には「行かないで行かないでい行かないで」と三度繰り返す場面が5回も出てきて、聞き手に強く印象づけます。このように何度も出てくる言葉や旋律のときほど、歌い手は一辺倒な歌にならないようその表現力が問われれます。

 

  1. ブレルの歌い方は、フランス語の発音の入れ方も早めたり遅めたり、テンポの揺れる感じから、全体的に歌うというより語っているという印象を受けます。歌詞の内容がわからなかったとしても、旋律が穏やかなときは心の囁きのように、音が盛り上がるときは心の叫びのように、切なさや苦しさが伝わってくると思います。

 

3.歌詞が長くて発音する単語もかなりあるので、もしフランス語での歌唱に挑戦するのであれば、始めにしっかりと歌詞に向き合い、発音はもちろんのこと歌詞の内容も理解した上で練習に入って頂きたいです。「Ne me quitte pas(行かないで)」は、常に三回続きますが、同じ発音をただ繰り返すのではなく、あなた自身の表現をそこに乗せることです。そのためにも、歌詞や単語一つひとつの内容を把握することは必須です。(♯α)

 

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  1. 恋人に離れていってほしくない気持ちを、切なく伝えるような歌い方が特徴的な曲です。

 

  1. ジャック・ブレルは、フランス語で悲しさを伝えるように語るような印象を受けます。前半は言葉がつまってしまったような語り方が悲しさの表現として伝わってきます。後半では気持ちを伝えるようにしっかりと伝えるような歌い方が特徴だと思います。

ブレンダ・リーは、英語で切なく語る部分と朗々と歌い上げる部分の使いわけが印象的です。語る部分は少々個性的な声に聞こえますが、歌い上げる部分ではしっかりと歌われている印象を受けます。

ダスティ・スプリングフィールドも英語で、冒頭、少々ウィスパーヴォイス的な語り方で切なさを表しているのが特徴的だと思います。中間部の歌い上げるような部分も、そこまで派手にはせず、ウィスパーヴォイスのような息交じりの声はここでは使わず、比較的おとなしく歌い上げている印象を受けます。

 

3.歌うというよりも、切なく語るニュアンスが必要とされる曲だと思います。ときに切なく、ときに大胆に思いの丈を伝えるように語るなど、歌い方を使いわけることや、思いが込み上げて言葉がつまってしまったような歌い方、語り方も必要になると思います。どのように語りたいのかをよく研究してみるといいでしょう。(♭Я)

 

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1.悲しい曲。歌詞の細かい内容がわからなくても、なぜか通して聞いていると、悲しい秋の、ヨーロッパのさみしい公園の風景が浮かんでくる。歌いだしを2回なぞるイントロ。歌いだし少し音を外しているのが逆に切ない。シンプルなピアノの伴奏。切々と語るような歌。途中から入ってくるフルート(。)の不気味な旋律とピアノの執拗なトリル。何度も聞いていると耳に残る「ヌムキットパ」(僕を捨てないで)。大胆に感情を出すところと抑えるところ。抑えるところが切々と心に迫る。かと思うと思い出すように急に感情が前に出てきます。

 

2.「ヌムキットパ」と同じ歌詞が何度も出てくる。だが、一度として同じ表現はない。この歌詞以外の場所でも、ささやく声にはたくさんのパターンがある。弱さと強さ、息の混ぜ方。ほとんど語るような歌い方で低い声が魅力。「声」と「歌」に区別をしてはいけないことがわかる。後半の朗々と歌う声。声に芯があります。

 

3.「ヌムキットパ」を練習しましょう。まず歌いだし、息の感じ、言葉の出し方、つまり方、吐き方、すべてを習得しましょう。次に「ヌムキットパ」と何度も言うそのパターンがすべて違うことを聞き取りましょう。また練習しましょう。(♭∴)

 

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  1. あの手この手で、去ろうとする相手を引き留めようとする内容。未練がましい泣き落としかと思えば、自分の命を盾に相手を傷つけたい気持ちがうっすらと見え隠れします。伴奏はピアノと少しの弦楽器、フルートのみ。歌が低い音域で語ることにとどまるのに対し、ピアノの音が繊細に饒舌に切なさを表現します。

 

  1. ジャック・ブレルの歌い方は、メロディラインを美しく朗々と歌うことの対極にあります。痙攣的で、絞り出すような、溜め込んだ感情を小刻みに爆発させるような歌唱。しかし決して浅い発声ではなく、底の深さを感じさせます。

何度も繰り返される「Ne me quitte pas(私を置いて行かないでくれ)」という言葉がまるで相手にぶつける呪いの言葉のようですらあります。

 

3.涙をこらえたようなブレルの歌唱をそのまま真似すると、浅い声に陥りやすいかもしれません。嗚咽するときのお腹の動き(横隔膜が激しく動く)を研究して歌に取り入れると、泣く表現と深い声が結びつくかと思います。(♯∂)

 

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「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

 

24.ジャック・ブレル 「愛しかないとき」「行かないで」

 

 「行かないで」岸洋子のと比べる。

 「愛しかないとき」荒井恍子のがよいです。

 「アムステルダム」新井英一のも参考に。