V033「聞かせてよ愛の言葉を」リュシエンヌ・ボワイエ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

--------------------------------------------------

 

1.前半は、ゆったりとした素朴な順次進行の下向音型の繰り返しで、声のコントロールなど、歌手の力量に大きく左右される曲です。後半の分散和音に乗った、軽やかな動きは、慣れるまでは少し大変ですが、いかにも恋心の起伏を表しているようです。

 

  1. 1901年生まれのリュシエンヌ・ボワイエは、シャンソン歌手ですが、声楽家のような裏声やミックスヴォイスをメインにしていて、日本のシャンソン界の淡谷のり子の存在に、合点がいくところです。

 

  1. リュシエンヌ・ボワイエのように、しっかり裏声やミックスで、歌い通すのは、なかなか大変ですが、一度は試してみるとよいでしょう。(♭Ξ)

 

--------------------------------------------------

 

1.シャンソンの中でもとても有名な一曲ですし、宝塚やミュージカルの人もよく歌います、近年では声楽家もよくうたっている、とても甘いラブソングです。

早くない、ちょっと甘くゆるい三拍子のかわいらしい曲です。日本語のタイトルを見ると少し重い感じがするのですが、実際には隣に座っている男性に歌うようなもっと甘いカップルの歌だと思います。

 

2.イタリアのカンツォーネを歌う歌手などとは違い、とても声を持っている歌手というよりも甘い歌い回しで愛らしいという印象でしょうか。ただこの歌の愛らしさ、ささやくような歌詞を考えるとこのような歌い回しがあっているのだと思います。少し鼻にぬけたような声が印象的です。この歌手独特の甘い声もありますが、フランス語からくる独特の歌詞の流れがこの歌をより甘くしています。多くの日本人が歌っていますが、テンポももっと重たく歌っている人が多いです。

 

3.歌詞の流れと、3拍子を意識した音楽づくりが重要だと思います。表現としてどれだけゆれても3拍子の形はとても美しく残っています。これがキープできるような練習を考えてみたほうがよいでしょう。歌い方はボワイエの声真似をすると日本語の場合、浅い声に近づいて行ってしまうリスクがありそうなので、自分の声で歌うよう意識して歌ってみるとよいと思います。(♭Σ)

 

--------------------------------------------------

 

1.愛の言葉を聞かせてと女性目線で語りかける内容の歌詞で、フランス語で歌われます。曲の構成は、A-B-A-C-AとなっていてAには同じ歌詞が歌われています。BやCでは、フレーズが右肩上がり(末尾の音が上がる)が多く、まるで甘いささやきを表現しているかように聞こえます。

 

  1. ボワイエは柔らかな歌声で、フレージングもフランス語の発音も流れるように歌われるという印象を受けました。歌詞の内容をわからない人が聞いても、何か甘い、優しい感じ、愛の歌だろうかといったことを想起させるのではないかと思います。

 

3.発音やフレージングなど、参考のためにリュシエンヌの音源を聞くのはよいと思います。ただ歌い方としてはポルタメント気味に歌う箇所がわりとあり、それは彼女の表現であって必ずそう歌うべきということではありません。耳コピーのようにするとただの歌まねか、雰囲気まかせの歌になりかねません。練習の始めは、まずしっかりと音程を確認し、骨組みを整えた上でフランス語の歌詞を乗せ、表現をつけていくことをおすすめします。(♯α)

 

--------------------------------------------------

 

1.「愛の言葉をささやいて」、「君を愛していると言って」と、恋人に対して甘えながらかわいらしくお願いする内容の曲です。甘さやかわいらしさなどの語り方が表現として大切になると思います。音楽的にも、語り方の部分で速度的な変化や間の取り方などが必要になってくると思います。

 

2.特徴的な声の出し方、歌い方をされる方という印象を受けます。声の出し方をマネするというよりは、この人の歌い方、語り方、言葉の緩急など、表現の部分を参考に活用してみるとよいでしょう。

 

3.よい声で歌っていただきたいと思いますが、立派すぎる声の出し方や歌い方というのは、この曲の内容と合わなくなってしまうと思います。恋人に甘く語りかけるような表現が必要とされると思います。お茶目に語りかける表現や甘えたように語る表現、積極的に訴えかける表現や朗々と思いを語る表現など、まずは言葉の語り方をいろいろ研究してみましょう。その上で音楽と融合させ、効果的に演奏できるとよいですね。(♭Я)

 

--------------------------------------------------

 

1.ピアノと歌だけのアレンジ。ピアノは古典的なシャンソンの伴奏といった風情で、クラシックのピアノ伴奏に近い雰囲気です。アルペッジョで奏され、ジャズの即興性のような感じではありません。

曲の構成は、Aレガートで落ち着いたテンポ→B音の跳躍、動きのあるパート→Aに戻る→B→Aここでバイオリンのオブリガードが付されます。

 

2.細く軽やかな声。言葉をしっかり発音して、言葉による音のレガートを作り出しています。よく日本人のシャンソン歌手にありがちな、音だけでレガートを作ったり曲を表現するのとは異なり、言葉がそのまま表現になっています。細い声だが、ウィスパリングヴォイスではなく、芯のある声です。

 

3.まず、フランス語の読み練習をしっかり行い、美しくスムーズに発音できるようにしましょう。母音を引きのばして、言葉と言葉のレガートを意識して歌いましょう。AメロとBメロのメリハリをしっかりつけて歌ってください。Aメロではレガートを意識、Bメロでは跳躍、躍動感を意識。

録音では、音と音がどのような関係性になっているか注意して聞いてみましょう、ポルタメント、音がまっすぐではなく下降、上行しているのをよく聞きわけてみてください。(♯β)

 

--------------------------------------------------

 

1.はじめのイントロのピアノ伴奏をよく聞きましょう。アゴーギク、テンポの進み方がとても自由なことがわかるでしょう。この自由さは歌が入っても続きます。ピアノ、途中からオケが入る、というシンプルなアレンジです。伴奏の音楽の進め方も、よく聞いてみましょう。

 

2.やや古い録音で音質が気になるかもしれませんが、奥に聞こえるボワイエの深い息を聞いてみましょう。特にフレーズが変わるときに、短くしかし深く、ブレスが聞こえます。歌唱と言葉の比重が絶妙です。歌い手はいつも、「語ること」「レガートで母音をつなげること」の比重をどのくらいにするか考える必要があります。よく聞くと言葉を置いているように見えて、レガートで母音がつながっていることがわかるでしょう。途中軽快な部分では、駆けるように言葉を投げます。伸ばすところでは(やや癖がありますが)ヴィブラートで母音を響かせています。自在なテンポがこの曲の魅力です。よくテンポの移り変わりを聞きましょう。

 

3.音域が比較的狭いので、歌いやすいと思います。レパートリーにしてみましょう。自在なテンポ感をこの録音から学びましょう。録音を流しながら、鼻歌で歌ってみましょう。(♭∴)

 

--------------------------------------------------

 

1.恋人に甘い愛の言葉をせがむ女性の歌。軽快なワルツのリズムで、主にピアノが伴奏をつとめます。

 

  1. はじめて聞いたときに思い起こしたのは、神楽坂はん子さんの「芸者ワルツ」です。かわいらしい砂糖細工のような女性像を声にしたらこんな感じになるのだろう、と思いました。

ボワイエがモデルをつとめた藤田嗣治の絵(「カフェにて」)があります。頬杖をついた所在なさげな黒衣の女性が誰かを待っている情景です。まさにこの絵のような歌。今の音楽のような爆音や激しいリズムとは対極にある、ベル・エポックの繊細な感性(淡い色彩や柔らかなレースの装飾など)を漂わせる声。現代人の感覚からすると浅薄な少女趣味に思えなくもないですが、これが20世紀初頭「美しい時代」の美しいミューズだったのでしょう。

 

3.3拍子の回転しながら進むようなリズム感を大切に、停滞しないように歌いましょう。ラララで練習してみて、その感覚のまま歌詞で歌えるように持っていくといいと思います。(♯∂)

 

--------------------------------------------------

 

「福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み」より(https://www.bvt.co.jp/lessonsong/

 

この曲シャンソンにのめり込んだ人は、日本人の歌手に少なくありません。淡谷のり子高英男石井好子など。1930年の唄です。

 

 私はピアノを習っていたとき、「河は呼んでいる」が、その出会いだったと、かなり後に知りました。