トム・ウエイツ

歌とは何だろう。芸術とは何だろう。
改めて考えていた。

深い霧が降りてくるように、不思議な空間をつくるトム・ウェイツの音楽。
いかに自身を見つめ確立し、深い世界観をつくっているかが見えてくる。

1949年、カリフォルニアで生まれる。
ブルース、ジャズ、ビートニクの時代に影響を受けた青年時代。
70年代のデビュー以来、独特のしゃがれた声と
たくさんのストーリーを語る「酔いどれ詩人」、
前衛的アーティストとして注目を浴び続けている。

また、面白おかしいジョークも彼の舞台の魅力のひとつである。
俳優としても活躍し、フランシス・コッポラや
ジム・ジャームッシュ監督たちの映画にも個性的な演技を披露。
名曲「OL55」「ダウンタウントレイン」は、数多くの音楽家たちがカバーしている。
近年は、演劇舞台の音楽も手がけるなど、幅広くその才能を発揮している。

酔って砕けたようなピアノやギター、潰れ濁った歌声が独特のストーリーを語る。
味たっぷりにそれらが溶け合い見事な空間をつくる。
深く熱いパッションの持ち主である。
とくに本人のバラードは傷を癒すように心地よく、そして切ない。

地球のどこか、まったく離れた場所でまったく違う人生を送る一人の人間の歌に、
自分の幸せや悲しみが重なったり、共感を覚えること、
大きな力を感じることが不思議でならない。
そしてまた、それが芸術の魅力であり、
心の力であることが偉大なアーティストを通して教えられた。(Z)