武満徹

作るのではなく、聞こえてくる音を取り出すという考え、
命や自然を聴くということに生涯をかけ、彼にしか聞こえない音、
発見できない音、宇宙の音と評されるほどの独創的な音楽観、
作品で、世界的に音楽界に新たな大きな発見と衝撃を与えた作曲家。

「戦争が終わったら、僕は音楽家になろう」

終戦後、手探りで作曲を学ぶ。紙にピアノの鍵盤を書き、練習をした。
クラシック、ロック、ポップ、隔たりなく様々な音楽を聴き、
様々な演奏家たちと交流をした。

西洋の音楽に違和感も覚える中、やがて地にはり、空へ伸びる樹の命に魅かれ、
大きなインスピレーションを受け、自然の中で暮らし始める。
そこから得た発想を音符やスケッチにした「樹の曲」「雨の樹」など、
樹の曲を数々と作曲する。

自然の美しさを尊重した日本の庭にまつわる曲もたくさん残す。
「秋庭歌」など、日本的であり、宇宙の神秘さ、美しさを音による庭として表現した。

「海の音楽をつくりたい」

晩年は、幾層もの上流を包み込む海という、
西洋と東洋の発想というのを越えたところで作曲。
「waterways」は、各楽器は夜の海をそれぞれの水路にそって進み、
やがて小さな支流は合流して調性の海へ進むという壮大なスケールで書き上げた。

「地上の異なる地域を結ぶ海と千変万化する豊かな表情に
次第に心を奪われるようになった。
できれば、鯨のように優雅で頑健な肉体をもち、西も東もない海を泳ぎたい」
音楽が体を貫いて世界と輪になってつながっていく曲集「海へ」。
各地から流れてくる波や風のような旋律は心の振動を覚え、
宇宙、生命のつながりを感じさせる。

全て同じ命。それを音でつなげていく。
深い探究心、叡智に満ちた偉大な芸術家である。