美空ひばり「りんご追分」

ひばりさんの歌の才能に3歳頃から両親は気づき、6歳くらいになると美空楽団が結成され、巡業を始めたそうだから、15歳で歌ったこの歌の仕上がりは、もうすでにベテランの域に達していたと感じられる。無意識で自然でありながら、とても丁寧な仕上がりだ。メロディラインからも感じられるリンゴの花びらが風に舞っているような静かで繊細な過程と、母を想い、寂しそうにたたずむ娘の姿、情感豊かに、きめ細かく、印象深く歌い上げている。 練習として、少しでも実践してみると、本当にちょっとしたところが難しく、苦しめられる。戦争中、レコードを聴くことは禁じられており、ひばりさんは、お父さんのレコードが聴けなくなるのは嫌だと、押し入れに隠れて、一人レコード機を回しながら、お父さんのレコードを一日中聴いていたそうだ。この頃から既に聞いたメロディ、音をすぐに吸収でき、ぱっと上手に歌えたのではと思われる。幼少期の子供が英語を聞いて、即座にそのままそのネイティブの人と同じ発音で言えてしまう音への感覚と同じなのかもしれない。個人差はあるものの、10歳以上のある程度の年齢になってしまうと、耳で聞き、違いがわかるところまではできても、出力がなかなかすぐにはうまくいかないところを考えると、幼少期の感覚の凄さを改めて感じる。ひばりさんは、自然にフレーズがきれいにずっとつながっていることで、聴き手が感じるイメージも途切れることがない。また、語尾のちょっとしたヴォリュームのつけ具合や、歌詞がばらばらにならない扱い、そして“そっと”のと~で高い音になり、ヒューイーでまた風が吹き、一瞬より高いところへ花びらがあおられて舞うようにこぶしを回し終えていくところの巧みさや味わい深さ、数々のことを、実に見事に歌っている。