V006「サイレント・ナイト」 マヘリア・ジャクソン 

1.歌詞と曲と演奏

ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど

2.この歌手自身の声、歌い方、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと(VS比較歌手)

 

1.静かにしっとりと穏やかに歌うイメージが強いこの曲を、もちろん落ち着いたテンポで、終始オーケストラは囁くような音量ですが、静かにうたう部分もあるとはいえ、このように朗々と、時には激しく歌い上げられると、最初に聴いたときは、何事かと思いました。しかし、なるほどゴスペル歌手ということで、キリストへの何の信仰心も無い我々が、曲のうわべだけを感じて演奏するのとは、わけが違うのだろうと、恐れ入りました。張りのある立派な声で、今や伝説の「美空ひばり」を思わせる部分も多く、喉の柔軟さを感じさせます。

 

2.ところどころでソットヴォーチェも使っていて、もちろん力ずくだけで大きな声を出しているわけではないことは分かります。さらに、きれいにかかっているビブラートが、ときにはやや揺れ気味になり、また、ややちりめんビブラートになってしまうのは、きれいな声で充分に歌える部分を、わざと力むことで、「がんばり過ぎ」すらも、ひとつの表現として活用しているようで、クラシックの声楽とは違う、表現の幅を感じさせます。(♭Ξ)

 

  1. 伴奏がなっているようで、あえて音量をかなり落としてのアカペラに近いような構成で展開していきますが、歌手の実力がしっかりしているからこその構成なのだと思います。色をつけず、歌手の声と音楽だけで勝負しているのがこの録音なのでしょう。個人的にはちょっとテンポが遅すぎるのではないかと思います。なかなか先に進まないので好きな音楽かと言われると100%賛成ではないです。歌手の実力はわかるのですが、様々な箇所を伸ばして、声を披露しているだけに感じてしまう部分もあるので、好き嫌いのわかれる構成ではないでしょうか。

 

2.声の力がとても高い歌手だと思います。日本人にはほぼいないと言っていいほどの低音の魅力と声門閉鎖がしっかりと行われた高音へのアプローチ。話している声、台詞の延長に音楽があるような歌い方で、非常に高いレベルの声の持ち主です。ただ、声をみせつけるかのようなロングトーンや突然の声の抜き方はあまりいいとは感じません。これだけの声の持ち主ならばもっと音楽によりそっても素敵な歌になると思います。この録音は曲は歌手の声を披露するために使ったように私は感じてしまいます。(♭Σ)

 

1.テンポがゆっくりめだったり、メロディに装飾音がついていたりと歌手の個性が出ている演奏です。世界的に良く知られた曲ですが、同じ「サイレント・ナイト」でもこのような演奏を聴くと、聴き手の受ける印象や思い描く情景がまた違ったものになります。色々な表現の仕方がある、表現には個性がでるもの、ということの勉強として分かりやすい題材だと思いました。

 

2.ものすごくテンポがゆっくりですが、歌手自身が表現する中で一番しっくりくるテンポがこれだったのだと捉えると、この曲と深く向き合われたのだなと感じます。ゆっくりなためか単語のあいだでブレスをしている箇所がありますが、そこも切らずに一息で歌ったらもっと素敵なのでは?と思ってしまいました。(♯α)

 

  1. 曲はアレンジされていますが、もともとほとんどの人が知っている曲だと思いますので、聞きやすいと思う人もいると思いますし、逆に、アレンジの癖が強すぎて、受け付けにくいと感じる人もいるかもしれません。多くの人が知っている曲よりも、テンポも遅く、リズム的な部分でもだいぶ崩しているので、同じようにまねをしようとするよりは、表現方法のひとつとして参考にしてみてはいかがでしょうか。曲調に関しては、誰がどう歌いたいかという部分が見えてこないと、ただまねをするだけでは成立させるのが難しい曲だと思いました。歌詞の内容と音楽的な部分で、どこを丁寧に歌いたいか、どこをどこまで歌いこんでいきたいかは、ある程度センスが必要だと思います。

 

2.この人独自に色々解釈して、音楽的な表現を工夫していると感じます。また、歌い上げるところも、しっかりたっぷり歌っているので、聞きごたえがあるように感じます。テンポやリズムの揺れに関しては、この人独自の解釈の中で成立させているものがあると思うので、この通りにマネをするというよりは、、歌う人それぞれの解釈での間の取り方、テンポの揺らし方で歌っていくことが重要なのではないかと思います。(♭Я)

 

  1. 静かな曲を、特別なアレンジなどをせずに、大変シンプルな伴奏で歌われています。黒人霊歌のスピリットを感じさせる歌唱です。途中、ハミングやメロディのアレンジにR&Bに通じるメリスマチックなこぶしのようなアレンジを加えています。

 

  1. 低音で大変ゆっくりとしたテンポで歌われます。このようなゆっくりしたテンポで歌うのは、確実な技術がないと難しいと思います。息を吸ったら横隔膜が自然に下に下がり、下腹も押し広げられ拡張しますが、この状態を筋肉の力で、極力保持しながら歌うことで、ブレスがキープされこのような歌唱が可能になります。

美空ひばりを歌う方に参考になると思います。とても低い声が充実している歌手です。低音の響かせ方、下の音から入る音の運びかたなどが美空ひばりのゆったりした曲を歌うのに共通しています。(♯β)

 

1.まず誰もが気が付くのは、テンポの遅さでしょう。この曲のようにだれもが知っている曲を、普通と違うテンポで歌うのは余程の理由がないといけません。テンポを遅くすることは一般にはデメリットばかりです。間延びする、フレーズ感がなくなる、ブレスが足らなくなる、粗が目立つ(?)など。実際このマヘリア・ジャクソンの歌唱でも、フレーズや歌詞のと分け目と無関係にブレスをとっている箇所が五か所ほどあり、そこだけを聴くと耳障りですらあります。(しかし逆にこのぎりぎりまで使った深いブレスと体の使い方を聞き取って盗めるように勉強してください。)

 

2.では、なぜこのテンポなのか。私が思うにそれは「大きさ」につきます。ここでいう「大きさ」とはまず彼女の声の深さです。「低い」と聞こえるかもしれませんが、声域はむしろ高めで、その高い音域を軽々と体でコントロールできているから深く聞こえるのです。圧倒的な深さ。そして次にフレーズ感の「大きさ」です。このテンポなのに、フレーズがつながって聞こえます。一曲終わるまで3分ほどかかってますが、その間大きな波のうねりのようにフレーズが途切れず、ずっと進んでいます。(♭∴)