水木一郎 アニソンの帝王

僕が以前所属していたレコード会社には、アニメ・特撮ヒーローなどのテーマソングや劇伴(ドラマの挿入音楽)などのCDを専門に制作・販売する「学芸部」というセクションがありました。
そこは、基本的に我々ポップス部門や、演歌部門とは交流がなく、結局在籍中一度もお会いすることがなかったのですが、僕が子どもの頃からテレビで耳にしていた「有名歌手」の方々が多数いらっしゃいました。
その中でも筆頭に上げられるのが水木一郎氏ですね。
僕が氏の「声」に触れたのは、おそらく「マジンガーZ」(1972)が最初だったと思います。
オープニングのアニメーションタイトルに乗って登場する巨大ロボット、マジンガーZと、それを操る主人公の熱い正義の戦いを、迫力満点で歌い上げた傑作でした。
当時小学生だった僕にとって、ヒーローの人格の一部と化したかのような「カッコいい声」の人、としてインプットされたのでした。
その後、「超人バロム・1」「変身忍者 嵐」(72)「ロボット刑事」「バビル2世」「侍ジャイアンツ」(73)「がんばれ!!ロボコン」(74)・・・などなど、僕の年代の男性なら、懐かしくて涙ちょちょ切れモンの作品のテーマを歌い続け、現在に至るも「ヒーローもの」の第一人者であり続けています。
実は、僕も以前少しアニメの歌を入れてみたことがあるのですが、本人が自分のイメージで歌う場合とはまったく違う、一種独特な難しさ、というかやりにくさがあることを感じました。
歌うとき、自分の中のヒーローならヒーロー、悪役なら悪役の部分をグワッと拡大して、つまりややデフォルメされた人格になって歌わないと、迫力が出ないのです。
やはり、この分野にはこの分野の「プロフェッショナル」がいるのだ、とそのとき感じました。
とくに水木氏は、これ以上ないくらいの「正義の味方」声、というか、けっしてマジメ一方ではなく、やや暴走気味の正義感、といった主人公のテーマ曲にはうってつけの歌のキャラクターだ、と思っています。
東京出身で、若い頃には、何と落語家を目指していたとか。その後歌手志望と変わり、ジャズ喫茶のコンテストで優勝をきっかけに本格的に歌手を目指すようになったそうです。
1968年に「君にささげる僕の歌」という曲でデビューするものの、ふるわず一時歌手を退いたのですが、情熱は止みがたく、クラブやキャバレーで歌い続けた後、1971年、コロムビアレコードのディレクターに見出され、石森章太郎のアニメ「原始少年リュウ」のテーマ曲でアニメソング・デビューとなりました。
以後、4年間で、約150曲の子供向け番組のテーマ曲を発表し、そ
のレコード売上は平均約10万枚、累計約600万枚に達したといわれ、堂々たる「ヒット歌手」となったのでした。
とくに前述の「マジンガーZ」のテーマは70万枚を超える大ヒットとなったそうです。
また1980年代以降、日本アニメが海外でも大ブームを巻き起こした結果、この水木氏、なんと2011年10月26日現在、ウィキペディアに項目の立てられた日本人の中で言語間リンクの数が最も多い(92言語)人物である(2位は黒澤明、3位は昭和天皇)そうで、いまや海外においても絶大な知名度を誇る存在なのです。
アニメは日本が誇るサブカルチャーだと僕も思っていますが、日本の歌手が、海外で活躍する例は極めて少ない中、「アニメソング」というカテゴリーの中とはいえ、世界的な有名人にまでなってしまっている水木氏。まさに「アニソンの帝王」と呼ぶべき存在となった感があります。
この人もまた、「日本の歌」を語る上で見落としてはならないと思います。