V013「バナナボート」 ハリー・ベラフォンテ/浜村美智子

1.歌詞と曲と演奏など(歌手以外のこと)
ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど
2.歌手のこと
声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと
3.歌い方

 

 

1.ジャマイカの港湾荷役夫の労働歌が発祥で、バナナの積み降ろしで歌われる曲なので単調な重労働に耐えられるように、カリプソに似た、しかし、ゆったりとしたリズムで歌われています。構成としては、冒頭の「Day,O」で始まる部分に続き、「work all」で始まる短いフレーズに、「Daylight come」の合いの手が調子よく入る繰り返しが主です。

 

2.ハリー・ベラフォンテは、ややハスキーな声だが、ジャマイカ人の血のせいもあるのか、とてもごきげんな仕上がりになっていて、世界的に大ヒットしたのもうなづけます。

浜村美智子は、張りのある声で、なかなかうまく原曲に迫っていると思います。ただ、ビート感がやや違うのは、どうしようもないところでしょうか。また、歌詞の内容がかなり変えられていて、日本で売るためには、仕方がないのかと残念です。

 

3.われわれ日本人が、このビート感を出すのは、かなり難しいと思います。特に、声の輝きや美しさを、第一に考えてしまうと、浜村美智子が限界かもしれません。声を多少犠牲にしても、ビート感をしっかり追い求めるのか、声を第一にするのか、難しいところです。もちろん、ビート感をしっかり体得してから、声を練り上げていくという王道もありますが、かなり時間がかかる作業になるでしょう。(♭Ξ)

 

 

  1. 民族音楽のような音楽と独特のリズムとメロディがとても耳に心地よい曲です。生真面目に歌うのではなくどこか力の抜けた全体の印象がおもしろいです

突然、はじまりますが、違和感なく入ってきます。

 

  1. 浜村の声を初めて聴きました。第一印象は日本人に聞こえないということですね。

この曲に関しては、日本語の違和感のなさが素晴らしいと思います。これは歌手の力によるところが大きいです。

日本語と外国語を同じような響きと鳴りをもって歌えるというのはできそうで難しいことです。それを力が抜けた感じで歌えるというのは素晴らしいです。

歌っているというよりもセリフに近い状態なので、このような印象を受けるのかもしれません。しかし、その歌い方と、どこか民族音楽のように感じるこの曲がうまくかみあっているのでしょう。

ベラフォンテの方が浜村より、より歌っているという印象でしょうか。しっかりと声にしています。そして声に濃淡をつけてより音楽をしているという印象です。

ただ、ベラフォンテ、浜村ともにさほど遠くない声のアプローチをしていて、それがかえって日本人でありながら遠くない位置で歌っている浜村のすごさを感じさせてくれます。

 

3.喉の位置としては二人とも喉は高めですが、しっかりと声門閉鎖が行われていることで、声のクリアさを担保しています。とくに浜村は母音の鳴り方が素晴らしく均等に鳴るので、一瞬日本語にきこえないほどです。ベラフォンテは少し泣くような声の色を使うことで、甲状軟骨の傾きが加わり高音域へのアプローチがスムーズにいっています。このような技術面でも学ぶべきところが多いと思いました。しかし、日本人に一番難しいのは、この民族音楽的な部分かもしれません。(♭Σ)

 

 

1.ジャマイカの民謡なので、民謡ならではの独特なリズムが色濃く出ている曲です。

収穫した大量のバナナを夜通しボートに積む人たちの心情を描写した労働歌です。歌詞の内容はラム酒を飲んで徹夜で作業とか、日が昇ったら家に帰りたいといった過酷な労働が垣間見られる一方で、陽気な雰囲気や眩しい太陽を連想させるようなメロディで歌われています。ただ明るい曲ではなく、人間味のある味わい深さが醸し出される曲ではないかと思います。

 

  1. ハリー・ベラフォンテは自然体の声で、自由な中で歌っているという印象を受けます。自由に歌えていると感じさせるのは、それ相応のコントロールをされているということです。声は力強さや陽気さがあり、そこに力み感が全くなくてつい聞きいってしまう歌唱です。

力み感がないという部分で比較すると、浜村美智子はパンチを効かせたいといった印象です。やや力みが感じられる部分があります。ですが、力強い歌声や大胆な歌い方は、この曲の雰囲気によく合っており、雰囲気に寄り添えていると思います。

 

3.掛け声の部分は、単に音をなぞって歌うだけでは、ソルフェージュのような歌になりかねません。強拍を明確に感じながら、マルカート気味に歌ってみることで、この曲の雰囲気や特徴が表現しやすくなると思います。

民謡は文化なので、ジャマイカの血が入っているハリー・ベラフォンテの歌い方を模倣してみて、リズムの感じ方や歌い方のヒントを得てください。(♯α)

 

 

1.民謡で労働歌ですから、言葉や曲調は違いますが、民謡がたくさんある日本人にとってはイメージしやすいのではないでしょうか。

 

  1. 浜村美智子は、近年の日本人女性歌手とは異なり、小手先の歌いまわしではなく、楽器そのものとして有効活用しているような歌い方に聞こえます。コンパクトにまとめようとしていない部分は、少々日本人離れしているようにすら感じます。よい意味です。自分の楽器と歌い方が乖離してしまっている人にとって、学ぶことは多いのではないでしょうか。

ハリー・ベラフォンテは、決して美声というイメージは沸きませんが、この曲に対する声や歌い方としてはイメージがあっているように感じます。かといって、この人の声の出し方や歌い方を日本人がマネして成立するものではないと思います。

 

3.肉体労働をしながら掛け声のような感じで歌っているというイメージを大事にするとよいと思います。音程とか声質とか、そのあたりをきれいに歌おうということは必要ないでしょう。これをきれいに歌おうとしたら、違和感しか残らないと思います。労働歌の雰囲気にあった歌い方を大事にしましょう。(♭Я)

 

 

  1. ソロとコーラスの掛け合いが特徴的な曲です。 とても民族的な風合の濃い作品です。 単純なメロディの繰り返しですが、アルペッジョに変化したり三連符になったりバリエーションの変化があります。

 

  1. 浜村美智子は、最高音は、♯ソで中低音中心の曲なので地声で歌っています。ポルタメントを要所要所に用いています。日本語になったとたんに音と音の間が平板な移動になり、かつ重く聞こえがちなところがありますが、英語で歌唱した時は音のシェイプ、抜きなどが多いです。歌詞も日本語版ではかなり変えて、ストーリーを変化させています。

ハリー・ベラフォンテは、浜村美智子より一音低い音域で歌っています。浜村の歌唱が少し重くなりがちなのに比べて、こぶしの入れかたなどもとても軽やかに聞こえます。言語からくることが大きいのだと思いますが、日本語歌唱と違って、リズムのずらしが多いです。

 

3.リズムのとらえ方、強弱のつけ方が邦楽とかなり異なりますので、注意深く音源をよく聞いて真似していくことをおすすめします。

強いところと、抜くところ、3連符はどこが強いか、など。平板なリズムにならない、音と音の移動やポルタメントのかけ方をよく聞いてまねしてみるといいでしょう。(♯β)

 

 

1.はじめがほぼアカペラで、インパクトがあります。真ん中はスローなテンポに乗ってけだるく歌います。最後に冒頭のテーマ。コーラスがゆっくりになって終わります。

 

2.浜村は、初めの「day o」を、低めからとり、グリッサンドで降ります。全体的にけだるく歌っています。語尾が意外に優しいが、かなり激しくt音をぶつけています。現代では考えられない低い声を使い地声で歌っています。ワイルドな声です。

べラフォンテは、初めの「day o」は、ストレートに行き、初めもずり上げず、降りるときもすっと降りています。全体的に軽めにすっきりまとめています。声の勢いがすごいです。中間部のテンポが浜村よりやや速く、フレーズの最後を投げつけるように歌っています。リズム感が鋭いです。最後のアカペラの声の上ずりが高揚感を伝えています。

 

3.初めのアカペラをコピーしてください。言葉の勢いとリズム感です。速くしていく感覚、抜く感覚、どちらの歌手で学んでもよいです。特に初めの一言目「day o 」は、二人の歌い方がかなり違うので、どちらもコピーしておくとよいでしょう。(♭∴)

 

 

  1. ジャマイカ民謡・メントの曲で、バナナを運ぶ人夫の労働歌が元となっているため、重いものを担いで歩く緩やかなテンポです。「DayO」から朗々と始まる冒頭はフリーリズムで、奄美地方の民謡にも通じる南国の大らかさを感じます。

 

  1. 浜村美智子はエキゾチックで陽性の声を気だるく使って、南国のフルーツのような甘く蕩ける雰囲気たっぷりです。前半が英語、後半が日本語の歌唱ですが、日本語部分の表現に注目してみましょう。はじめ日本語に聞こえてこないのです。声をまるで遠い国の楽器のように扱っていて、たまたまモチーフとして日本語が乗っているように聞こえてきて、非凡な魅力を感じさせてくれます。

ハリー・ベラフォンテは冒頭に瞠目させられます。なにか根源的で呪術的なパワーを湛えた歌は、どうやっても真似できる気がしません。

 

3.冒頭は、太い筆にたっぷりと墨を含ませ、空中に大きな書をしたためるようなつもりで歌ってみましょう。そのためには息を流し続けることです。グレゴリオ聖歌を練習すると参考になるでしょう。リズムが入る部分以降は、歩きながら歌うと労働歌の感覚が掴めます。(♯∂)

 

 

1.この曲は、カリブ海の島国、ジャマイカで下級労働者が夜通し大量のバナナを積荷するという厳しい労働環境の中で歌い継がれた労働歌です。

歌詞の内容は、「朝日だ!日が昇る。夜が明けたら家に帰りたい!一晩中ラム酒でも飲んで今夜も徹夜仕事だ。朝が来るまでバナナ積みさ。記録係の兄ちゃん、バナナを数えておくれよ。一房、6本、7本、8本のバナナ・・・」と、その様子がすぐに想像がつくような端的な詩です。苦しい環境の中で労働者に歌われた民謡のようなものだったでしょうが、皆さんがご承知の楽曲は素晴らしいものとなりました。お国柄が表れていてとても陽気な曲想、メロディもキャッチー。一度聞けば、すぐ覚えてしまうようなメロディーラインです。名曲といわれる曲は、ほとんどの作品が記憶に残るメロディにゆだねられているので、歌い継がれるほどのこの労働歌はヒット曲に間違いありません。カリブ海のリズムをうまく取り込み、お国柄の暖かい島国の気候も感じられるアレンジも世界中の人々が好きになったポイントでしょう。

曲の冒頭に掛け声のような言葉を使われている点も素晴らしい!「DayーO、Day-O!」という言葉、最高です!日本語の民謡で、「えーんやこら!」のようで、労働歌って、世界共通な形があるのだと感じます。ちょっとなまっている英語も、労働階級の人々をリアルに感じられます。

 

2.浜村の歌ったこの曲は、私はとても素敵だなぁ。と思います。日本人でありながら、この曲の本質をストレートに歌の中で表現されています。

曲の中に日本語の訳詞も取り入れて、崩しすぎず歌い、バックの男性コーラスが軽さを表現し、英語の歌詞の母音をうまく日本語訳詞の中に寄せているところが、ナチュラルで好感が持てるオリジナリティに繋がっています。

ベラフォンテは、ジャマイカ系の歌手ということもあり、母国特有のリズム、歌の抑揚、軽くてあっけらかんとした声と歌いまわしで、とても心地よい楽曲に感じます。労働歌ではあるけれど、重たさや苦しみよりも、楽しさを感じさせるところも、この曲を誰もが好きになった根源と思われます。

 

3.浜村は、ハスキーで力強い声質と、ほとんどビブラートを使わないロングトーン、女性の声ですが力強い胸声を使い、肉体労働者や庶民の姿を想像させます。それなのに、とてもシンプルに、さらっと歌っているところにセンスを感じます。男性の歌を女性が表現するわけですから、男っぽさを粋に表現していると思いました。

べラフォンテは、彼の中に流れている血が全面に表れていて、彼の歌い方そのものがこの曲のよさを引き出していると思います。とにかく明るさを感じさせる歌声、聴衆が楽しくなる曲に作り上げていることが素晴らしいです。

二人に共通することは、シンプルに歌っていること、決してテンポを動かさないところです。(♯Δ)