ボブ・ディラン

ブルーススプリングスティーンと同じく、「ウィアーザワールド」のプロモーションビデオを観て彼を知りました。すでにベテランの域であった彼のことはまったく知らず(もちろんアメリカでは超有名ですが)、このときが初めてでした。
独特なしわがれ声、表情ひとつ変えないで歌う様は異様に映りましたが、なんだかとても魅力を感じてしまったのです。彼の歩んできた歴史を知りたくなり、本を読んだり、初期の頃からのCDを聞いてみたりと、いろいろな角度からアプローチしていきました。そんな中で出会った「欲望/ボブ・ディラン」というCDをご紹介します。
このアルバムが発表される前の初期の頃は、フォーク色が強くアコースティックなサウンドでしたが、徐々にロック色も出てきます。こうした端境期で、フォークやプロテスタントソングとして聞いていたファンから反発をくらいます。実際にコンサートで、ディランがバンドでロックを歌い出すと、会場のファンからブーイングの嵐が起きるのです。この頃の映像は映画「ノーディレクションホーム」で見ることができます。ディランはただ歌いたいだけなのに、世間はレッテルを貼りたがるとインンタビューで答えています。
このCDはそれから数年後、1975年に発表された20枚目のアルバムです。このCDの1曲目「ハリケーン」を聞いてほしいと思います。単純なメロディの繰り返しなのですが、ストーリーはそのほうがより伝わってくると感じました。内容は、殺人犯にでっちあげられ、10年もの間獄中生活を送ってきた元ボクシングのプロボクサーの話。ディランはボクサー・ハリケーンの著作を読み、さらには獄中の彼と会い、無実であることを確信する。そして彼を救うために、またこうした状況を作り出した社会に抗議を込めて、「正義がゲームでしかない国に生まれたことを恥じる」と歌っています。その後、この曲のおかげで、1976年に再審が認められ、85年にハリケーンは晴れて自由の身になったのである。そんな歌なのである。
1度歌詞も読んでほしい。事件当日のこと、人種差別、警官の権力、なまなましい内容の歌詞が続くが、だからこそ真実味があり、より歌に迫力が出てくるのである。そして実際に一人の人間を救っているのである。現実に社会を変えてしまう、この歌の力を感じてほしいと思います。
現在ディランはまだ現役として活躍しています。最新アルバムでは、さらに声に渋みを増して、また音楽的には古さを感じさせずに、最先端を走り続けています。死ぬまで現役、まだまだ活躍してもらい、ディランファンを楽しませてもらいたいと思います。