山口百恵

ひと昔前のアイドルでしょ、と馬鹿にしていましたが、実際に映像を見て、歌を聞いてみると、アイドルというイメージではなく、歌手というイメージに変わっていました。デビュー当時はまだアイドルという感じなのですが、年々歌がうまくなっていき、引退の2、3年前には、ベテラン歌手なみの落ち着きと歌唱力を見せてくれています。これだけ短期間に歌が上達する人も珍しいのではないでしょうか。
多くのCDやDVDが出ていますが、中でもお勧めは「引退コンサート・DVD」です。彼女の魅力は、太い声と表情・態度です。そしてなんとも言えない魅力があります。説明しにくいのですが、オーラというんでしょうか。魅力を放っています。そして派手な動きがあるわけでもなく、お客さんにこびるわけでもなく、しっかりと歌の世界に入り歌っている。その部分が魅力となり醸し出されているのだと思います。
彼女は自叙伝「蒼い時」の中でこう言っています。「私の声は、美しく澄んだ声では決してない。~歌うことの魅力にふれたとき、自分の体の一部を使って何かを表現していけることの素晴らしさを、私は知った。」「詩やメロディは変わらなくても、歌う人間が一年、二年と時を重ねていくにしたがって、歌そのものまでが変わるのだということに気づいた。」「今は、同じ一曲の歌を一日に何度歌おうとも、一年歌い続けようとも、そのたびごとに驚くほど新鮮な気持ちで歌える。」そして歌い続けていくうちに、歌手に対して誇りを持てるようになれたのだと。
またこのような歌に関してのことだけではなく、その他の文章でも、端々にまじめさ、誠実さが現われていて、そうした思いが歌に出ているのだなと思いました。
そして絶頂期にありながらも、結婚・引退をし、愛する人の妻になることを選んだ彼女の一途さこそが、彼女自身であり、彼女の歌もそうした彼女の思いから発されているから、人の心に迫ってくる説得力があるのだと思います。
ぜひ一度、アイドルだと思って馬鹿にしないで、「引退コンサート・DVD」を観てほしい。