カレン カーペンターズ 「Yesterday Once More」

しっかり深いが、軽やかでやわらかい。もしくは軽やかでやわらかいが、深くしっかりしている。とくに何も考えず、さらりと自然に感じるままに歌っている印象を受ける。あまりに簡単そうにやっているが、声の質だけでなく、バランスが心地よく巧みで、ずっとAメロだけでも満足できてしまいそうなほど、他のアーティストと比べることのできない魅力がある。また、多くのアーティストたちがそうであったように、彼女もまた幼いころから兄と一緒にドラムなど様々な楽器を延々と演奏しながら歌ってきた。よく聴くことができるだけではなく、聴いてそして豊かに演奏する出せる優れた感覚やセンスをもっていることを感じる。
ピアノだけのシンプルな始まりから、静かに語りだすように、カレンのほんとに何気ない美しい出だしに、初めて聴いた当時、一気に惹きつけられたことは今も鮮明に記憶に残っている。英語も、癖がなくきれいな発音で、かつて英語ラジオ講座でもよく流れ、高橋まり子さんなど日本の歌手たちも彼女の歌を参考にカヴァーしていた。
歌詞のラジオから流れる若い頃大好きだった歌を懐かしむ主人公の心を、共にその温かさと切なさを織り交ぜながらハーモニーがより引き出していく。サビに入る前に、Bパート“but they`re back again ~”と歌詞と共にどこかうれし泣きを感じさせるような切ないハーモニーへと展開をし、サビへと期待させ、青空になっていくようにサビへ入っていく。〝Shalalala~”と一拍めにShalaと最高音がくることで、主人公の純粋な喜びがサビに気持ちよく溢れ、Still shines~やSo fine~とその気持ちが消えないような余韻も感じられる。記憶に残る深いところへそっと置くような、聞き手に浅はかにならず、心地よく聴かせるセンスをカレンを聴いていると感じる。  
そして、例えばちょっとした子音の扱いや裏の拍に入る音とそこにぴたっと入る言葉の扱いなどのことや、流れを淀まないようにするとか、無駄に色づけがうっかり入ると下品になりかねないとか、細かいところをみて実践していけば、それなりにたくさん参考にはなる。しかし、ただそんなことよりも、本当にみえてくるのはこの彼女の稀有な魅力である。
レオン・ラッセル作のスタンダードA Song For Youを聴いていても、多くのR&B、ゴスペル出身の歌手たちがもの凄い声と音域を使いながらパワフルにカヴァーするなかで、カレンは彼らとはまた違うアプローチで、他と比べることすら思いつかないほど違う手ごたえやきめ細かさがあり、芯の通った彼女の魅力に、一人の歌い手として圧倒的な存在感を感じる。