Manh・ de Carnaval  カーニヴァルの朝

熱くにぎやかなカーニヴァルが始る前の夜明け。まだ薄暗い静かな中、愛しい人への思いをいっぱいに夢見心地で朝をむかえる主人公の姿がある。
一度聞くと、忘れられないほどの美しいメロディ。映画のサウンドトラックとして作られたが、スタンダートとなり、今も歌い手だけでなく、ギターやピアニストなど様々な演奏家に親しまれている。
曲はやはりいちばんエネルギーがあるところに聴き手の意識は集中し、記憶に残る。叙情詩のような印象深いメロディの作りで、A,Bメロ、サビという形はなく、この曲のテーマとなる大きな跳躍の入る壮大なフレーズで歌は始まる。
この最初の”Manh・, t・o bonita manh・” (朝、こんなにも美しい朝)、高いところへと6度の跳躍がすぐに入るが、マイナー調の中、高音に居続けることなく、フレーズの終わりにもとの音へと下降し、どこか儚さを感じる。この跳躍が入ったフレーズのもつエネルギーや美しさ、のびやかさ、そして底にはゆったりとした流れがある。
歌い手や映画のシーンによって歌詞が幾つかあるが、それらは愛の喜びを歌っている。メロディとハーモニーがそこに融合されることによって、薄暗い夜明けから、やがて太陽が昇ろうとする頃の景色の色合い、そして儚さ、主人公の切なさ、不安や願いなど様々なものが、瑞々しくより聴き手の心に感じられてくる。そして哀愁が漂っている。ラストフレーズのあたりは、細かい動き、流れに変化が入り、いつまでも消えないでほしいと願う主人公の切実な想いとだんだんと日が昇り海面が輝き明るくなっていくような幻想的な余韻を残していく。演奏家によって、最後のハーモニーをメジャーで終えて静かに明るみを入れる人と、マイナーで終えている人がいるので、比べるとまた印象が違うので興味深い。余韻がとても大事で印象を残している。
ブラジルを代表するディーヴァ、エリゼッチ・カルドーソの説得力のある魅力的な声がこの曲を濃く、深く、そして軽やかに仕上げている。1コーラス目をハミングとラリリ~で歌い、2コーラス目を歌詞で歌っている。1977年の日本公演での録音も、最初のフレーズに、燃える太陽のような強さを感じさせ、胸に迫り、圧倒的であった。
底抜けに明るくエネルギッシュなラテンアメリカカーニヴァル。それと対比し、静かな夜明けに主人公の愛の喜びが幻想的に描かれたこの曲。生から死、過去から永遠が重ねられていることも感じられてくる。そして、ブラジルの光と影を、祖国へ、人々への深い愛情がそこに流れている。