ちあきなおみ「かもめの街」

「かもめの街」という曲は、演歌ではありますが、彼女が歌うことで、シャンソンにも聞こえ、ストーリーがぐっと前に出てきます。歌手でありながら、女優魂をもつ彼女の歌は、情景がイメージでき、その世界に引き込まれていきます。
 曲の歌い出しのAメロの
「やっと店が終わって ほろ酔いで坂を下りる頃
白茶けたお天道が 浜辺を染め始めるのさ
そんなやりきれなさは 夜眠る人にゃ分からないさ
波止場に出れば かもめがブイに2,3羽」の歌詞は、歌っているというより語っているという歌い方。伴奏もほとんどなく、アカペラ状態。歌の中の主人公の姿がありありとイメージできます。
「やっと店が終わって ほろ酔いで坂を下りる頃」の部分では、まさに、ほろ酔いで歌っているように聞こえます。
セリフのようでありながら歌であり、歌でありながらセリフのように聞こえる、絶妙な歌い方になっています。
「~かもめがブイに2,3羽」の最後の「羽」の繊細さはゾクゾクするほどです。
サビの歌詞「かもめよ かもめよ 淋しかないか」では前半と打って変わって歌い上げています。「かもめよ、かもめよ」の部分も、同じように「かもめ」ということばを繰り返しているのではなく、しっかりと歌い分けている。そしてこの歌い分けが、単に強弱で歌い分けているのではなく、その歌詞への思い入れの違いによって歌い分けられているのです。
全体を通して4分40秒ほどの曲ですが、物語に引き込まれ、あっという間に終わってしまう曲です。
また彼女が歌っている曲では、「それぞれのテーブル」「喝采」「紅とんぼ」「矢切の渡し」等の曲も聞いておいてほしいナンバーです。