ナット・キング・コール

 バイオグラフィには1919年、アメリカ・アラバマ州生まれ、とありますから、ご存命ならば大正生まれの後期高齢者のおじいちゃんであります。
 そのミュージシャン暦は古く、1930年代にはもうバンド活動を始めていたようです。
 40年代からはソロ活動になり、50年代に全盛期を迎えます。ちょうど、テレビの時代を迎え、彼の知名度はその波に乗って、またたくまにアメリカ中を席巻しました。
 「スター・ダスト」や「スマイル」など、それまでにさまざまなスタイルで演奏されてきた既成曲も、彼によって決定版がレコーディングされ、名実ともに「スタンダード」となったものが多いのです。
 もちろん、オリジナルソングのヒットも数多く、フランク・シナトラと並び称せられるアメリ音楽史上の大ヴォーカリストといえるでしょう。
 とくに、1950年代の、いわゆる公民権運動以前のアメリカにおいて、白人をも魅了したその甘い歌声は、後に続いた多くの黒人ミュージシャン(レイ・チャールズマービン・ゲイスモーキー・ロビンソンら)の大いなる目標となりました。
 「バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)」という映画の中で、主人公がタイムスリップで1955年の街角に放り出されてしまう、というシーンがあるのですが、そのとき街のレコード店のショーウインドウの中にナット・キング・コールの「アンフォゲッタブル(1951)」という曲のポスターがチラリと見えます。
 この曲、実はその40年後、娘のナタリー・コールがリメイクし、何と「51年版」のトラックを最新技術で解析、父親の声をオーバーダビングして亡き父との「親子デュエット」の曲にリニューアルするという離れ業でレコーディングし、グラミー賞を総なめにしました。
 普通、男性と女性ではキーが合わないので転調など複雑な構成になりやすく、デュエットの名曲は生まれにくいといわれているのですが、彼女は見事に父親との「奇跡のデュエット」を成功させました。コールのヴォーカルはいわゆる「低音の魅力」で、そのぶん女性のキーとマッチしやすかったのです。その、エッジの効いた低音は、気品を感じさせる、いわば「深炒りコーヒー」のような苦味を含んだコクのあるテイストで、いまなお多くのファンを魅了しています。
 わが国においては近年、男性の高音ヴォーカルばっかり出てきて、誰が誰だかおじさんにはもう・・・聞き分けられなくなって来てますが・・・日本も1970年代まではむしろ男らしい「低音の魅力」の歌手のほうが主流だったんだけどなー。
 フランク永井水原弘ささきいさおバーブ佐竹・・・ああ・・・ああ!