No.282

<CD>

「L'ABSENT」ジルベール・べコー
この世を去った友人を思って歌われる。ボサノヴァの軽いリズム、しかし内容は「友達がいなくなった空しさを耐えるのはつらい。死とはみじめだ、心を苦しませ少しずつ解体してしまう」。つぶやくように歌うべコーの最後の一音、l'amiのiがはかなげに、でもしっかりと耳に残り胸に届く。どうやったら、こんな音を出せるんだろう、こんな素敵な終わり方ができるんだろう。

 

「You've changed」ジョニ・ミッチェル
ジョニ・ミッチェルの声は私の好みではない。けれど、You've changedとつぶやくように歌う、その声が胸に迫ってきて、残ります。

 

「談志百選」立川談志
弟子の立川談春立川志らくについての項、「芸に完成はない。その芸人のプロセスが芸である。そのプロセスという煩悶が芸なのに、ある程度噺が出来ると、又は笑いがとれると、それでOKがほとんどの咄家であり芸人達の姿だ」。今、声について、歌について、試行錯誤しているこのプロセスが、未来の私の芸?につながっていると思うと、ファイトが湧きます。いつも、だめなことばかりの自分だけど、頑張って続けよう!

 

「吉左右会・大蔵流狂言
初心者への解説を聞いていて、あっと思った。「途中にわからない言葉が出てきたら、無視して先に進んでください。日本の方は真面目なので、一つわからない言葉があると、それがずっと気になって、物語の中に入って来れなくなってしまいます。外国の方は所作や抑揚で物語をそのまま楽しんでいます。わからない言葉は無視して楽しむ、どうしても知りたかったらまた見に来ていただけると良いです」。この真面目さ、わかります。例えばレッスン、以前は言われたことの中で、一つわからないことがあると、そこで頭がひっかかってしまい、その先のトレーナーの言葉が入って来なくなってしまいました。今はレッスンで言われたことをちゃんとわからなくても、とりあえずやる、わかった分だけ抱えて前に進む、という気持ち。これがよいかどうかわからないけれど、とりあえずリアルタイム、目の前のトレーナーと共有する時間を生き切るには、私にできることはこれです。

 

<DVD・CINEMA・TV>

「フューリー」
フューリーは戦車の名前。ブラッド・ピット主演。戦争映画だからドンパチしていました。もうちょっとのところでナチスをやっつけるブラピの英雄物語になりそうなのを抑えつつも、戦争の酷さ、理不尽さ、人を殺せなかった(普通で当たり前なのだが)新入りの青年が立派な殺人者になっていく過程がよく描かれでいた。ブラッド・ピットの声が良かった。ナチスのSS隊員の存在感、描き形が薄過ぎてハリウッド式にブラッド・ピットが格好良すぎたかもしれない。

 

ストックホルムでワルツを 」
スウェーデンジャズ歌手モニカ・ゼタールンドの半生。母国語でジャズを歌うという試みは、訳詩の良さが決め手と感じた。また、英語で歌ったリズムを体に入れてから、母国語の詩を入れるというやり方が良いように思った。私の取り組んでいるシャンソンは、日本語の訳詞が一曲について何種類もあることと、一般の日本人にフランス語はあまりなじみがないこともあり、最初から日本語で勉強したりするが、原曲と日本語でニュアンスが違うことはよくあるし、今日のレッスンのように、アクセントの位置が日本語詞の中途半端なところに出てくるという問題もある。原曲を体に入れ、そこに詩を乗せていくことが必要だなと思った。

 

「ベニシアさんの四季の庭 」
音楽とはまったく関係ありませんが、心の栄養になる映画。

 

BLUE GIANT石塚真一
岳の作者のJAZZをテーマにした漫画
表現することについて、とても勇気をもらえる漫画です。

 

<EVENT>

「15th Anniversary Mai Kuraki Live Project 2014 BEST」倉木麻衣   
単独ライブ300回目のプレミアムライブ。音楽性だけでなく、舞台なども壮大で観ても聴いても楽しめるライブでした。

 

「くるぶし」ライブ@千駄木ペチコートレーン
ゴスペル歌手のかたの迫力ある声量と透明感ある発声はとても勉強になります。

 

バリトン・甲斐栄次郎 」
親子で楽しむバリトンコンサート。昨年まで10年間ウィーン国立歌劇場の専属ソリスト歌手だったという本人は「自分も二人の子供がいて、この子たちに聴かせてみたいと思ったので、このコンサートは夢でした。お子さんの泣き声は全く大丈夫ですし、普段外に出られないお母さんたちも出掛けられる機会をと思って」。ホールには幼児の泣き声叫び声が途切れず響く。その中で午前11時から「アマリッリ麗し」「われを見捨てて」「もう飛ぶまいぞこの蝶々」「わたしに最後の日が来た」など7曲を歌った。フレーズの終止と共に子供の声が入って来たりする中で集中力を持ち続けるのがすごいと思う。アンコールの日本語の歌を聴き、声そのものが深い場所にいる、と感じた。低く響くのではなく、声のいる場所が深い。イタリア語より日本語で聴いた方がそう感じた。ご本人が撮った写真をスクリーンに映しウィーン歌劇場での仕事の説明も興味深かった。実際の舞台に出ながら、他の演目の勉強も4つか5つ平行して抱えているとのこと。心身ともタフでなければ務まらない仕事だ。私も頑張って自主トレしなくちゃ。

 

「ネマニャ・ラドウロヴィッチ 」 
ユーゴスラヴィア出身パリ在住の若手ヴァイオリニスト。ピアノとの共演だったが、立って演奏するだけで視線が離せない。集中して最後まで鑑賞していることができた。舞台装置やトーク等の演出もないのに演奏だけで魅せられるところがすごいと思った。正直言ってヴァイオリンの音等詳しくないのだが、曲のフレーズごとに深い息を吸ってから弾き始めているのがとても印象的だった。音楽的な表現というのはジャンルが違っても共通しているのだなと思った。

<店>

タワーズグリル(グリル料理)」六本木
グリル料理のお店、ということで様々なグリルが堪能できる。メインのグリルとしては鯛と北海道産ホタテ、サーロインに、鶏、ラムといったラインナップ。どれかが格別に美味しいということはないが、どれも一つの料理として高い水準にある。グリルということで素材が味を大きく左右するけれど、それぞれに添えられているソースが丁寧に作りこまれており、皿に広がっているソースをもバケッドで残さず平らげたくなる。スタッフは気配りが細かく、また、一挙一動の全てがさりげない。会話を妨げない、雰囲気を壊さないことを徹底しているようで、客側としても気を使わずに済む。グリル料理というジャンルの割に客の年齢層は高いけれど、それも納得の落ち着いた空間が創り上げられている。

 

「ぐう本店(ホルモン料理)」東京
東京駅から徒歩数分という立地だが、路地を入った飲み屋街のようなところにある、ぐう系列の本店。非常に小さいお店だが、「美味しいホルモンを食べさせる」ためのこだわりは随所に見られる。肉の鮮度がよく、ゆえに提供できるホルモンの種類も多い。レバーは軽くあぶってタタキで頂くことができたが、臭みがあるはずもなく、あっという間に溶けてなくなってしまった。洗練されたサービスを求めるお店ではなく、威勢のいい体育会系の店長の接客は潔い。荒っぽいと言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、その屈託のない笑顔で大部分は許されるという気がする。金額も良心的で、「美味しい」と「安い」が両立されているのが最大の魅力である。