「イパネマの娘 Garota de Ipaema」

1.Joao Gilberto ジョアン・ジルベルト

2.Astrud Gilbertoアストラド・ジルベルト

3.Tom Jobim トム・ジョビン

4.Gal Costa ガル・コスタ

5.Caetano Veloso カエターノ・ベローソ

6.Jarabe de palo アラベ・デ・パロ

7.Sinatra シナトラ

8.Sammy Davis Jr. サミーデイビスJr

9.Lou Rawls ルーロウズ

10.Ella Fitzgerald エラ・フィッツジェラルド

11.Jullie London ジュリー・ロンドン

12.Sarah Vaugan サラ・ヴォーン

13.SharleyMaclean シャーリー・マックレーン

14.Helen Meril ヘレン・メリル

15.Diana Kurall ダイナ・クラール

 

ラテン音楽は、シンコペーションが多く、リズムの種類もとても豊富である。ボサノバは、ルンバなどアフロの音楽に比べ、穏やかでやりやすいとは一般的にいわれているものの、実際には様々なリズムパターンが含まれて演奏されている。歌い手にとっても、リズム感は大変重要であり、その様々なリズムを少しずつでも感じながら、リストのアーティストを聞くと、メロディの処理、抑揚を含めた表現力につながっていることが改めて感じられる。

実際に実践して歌うときは、あまり細かくリズムをとろうとすると、心地が悪くなりやすいと思うので、裏拍でゆったりと体を揺らしたり、足や手でノリながらやってみると、つかみ易いかもしれないと思う。

 

リストのアーティストたちの録音は、様々な編成で演奏をされている。ボサノバの特徴的なリズムのアクセントは、1、4、7、11、14拍目、(1,4,7|36|)にあり、ドラムなど打楽器でそれを聞くことができる。(英語ではこのアクセントをクリックと言ったりもする)

基本形のリズムだけ文字にして書いてみると、

ワンエンツーエンスリーエンフォーエン ワンエンツーエンスリーエンフォーエン ワンエンツーエンスリーエンフォーエン ワンエンツーエンスリエンフォーエン もしくは、音で、カッンカッンッカッンッカッンカッ のような感じになる。

これを実際に聞きながら手拍子や声などで、アクセントをとってみるとボサノバのリズムや構成が理解できる。

 

ギターは基本形もいろいろあるが、ドンパードパッパドパッパドパーなどがあなる。バンドになると、ドラムがハイハットで8ビートを刻んだり、ベースドラムがドッツドッツドッツドッツドと入ることもある。多くの録音には、(1,4,7|36|)のクリック(アクセント)が音として入っていなかったり、より細かく複雑にしている場合も多いが、リスト3の作曲者のトム・ジョビンの録音に入っているドラムや、リスト12のサラ・ヴォーンの録音のオーケストラのものは、そのアクセントがよく聞こえるので、わかりやすい。リスト4のガル・コスタの後ろで流れているギター、リスト6のスペインのフラメンコバンドの裏拍の手拍子、リスト8のサミーデイビスがゴンゴンシュクシュゴーンシュゴーンシュクゴーンとヴォイスパーカッションでとる面白いイントロ、11のジュリ―ロンドンの録音の、イントロのドラム、ドッドッンドンドッドッデュデュ ドッドッンデュンドッドッンデュドッもドのところだけ一緒に合わせてみると、シンコペーションのバリエーションで、練習になる。基本としているリズムがいくつもあり、それらを複合させたり、より発展させたりとパターンがいろいろある中で、すぐれたアーティストたちは、豊富にリズムをもち、瞬時に取り出し、切り替えていく感覚をもっていると思われる。またアーティストに関わらず、現地の人をみていると、言語だけでなく、ちょっとした動作やしぐさの中にも、リズミカルな要素があると感じる。

 

リストのアーティストたちは皆それぞれの持ち味を活かし、自由な歌い回しをしている。ブラジル本国の歌い手たちは、まろやかにボサノバの特徴ともいえる、そよ風のようなやわらかい空気を音にコーティングするような印象を与える。ボサノバの創始者の一人ジョアン・ジルベルトは、お風呂場で鼻歌を歌っているような感じだが、あれだけ自在に様々なパターンをいれたギターを弾きながら、その歌もまた複雑なリズムの取り方をして、不思議な空間をつくっている。同じブラジル人のガル・コスタの歌は、歌唱も含め、歌のボサノバの感覚がわかりやすいと思われる。リストにはないが、他にもナラ・レオンジョイスの録音もボサノバの空気たっぷりに心地よく、そのようなとり方ができるのかと、巧みに自在に曲を操っているので、聞き比べると興味深い。

 

そしてシナトラなどアメリカのジャズ歌手たちは持ち味のジャズテイストで、録音にもよるが、のびやかでありながら、しっかりした立派な歌声で風格と共に濃い仕上がりにしているものが多い。

リストの中では、サミーデイビスJrやルーロウズなどがスイングジャズで、引っ張たり、縮めたり、巧みに、スリリングな仕上げにしている。10のエラの1971年のライブ録音も高速スピードで追いかけっこのような感じで、ボサノバらしくはないが、同じくらい早くやってみるのも練習になるだろう。サラ・ヴォーンも、フレーズが少しだけ前のめりに割り込むようなシンコペーションの感覚を、巧みに、ユーモアに自在にやっていて、天性のすばらしい声だけでなく、こういった部分も突出していることを改めて感じた面白い仕上がりである。

少しけだるいようなハスキーな声が魅力なジュリー・ロンドンは、ボサノバの中に、フレーズによってスイングジャズ感を強く入れている。

 

好みは人それぞれあるものの、この曲のもっているものの感じながら、自分たちのベースとブレンドしているところに、それぞれのアーティストに感じられる血の濃さを思う。

 

また、ボサノバの軽快なリズムも面白いが、それに合わせてとてもラテンな歌詞とそれによく合う曲調も共に興味深い。

 

ポルトガル語と英語詞、内容がかなり違うことと、それぞれの言語や歌手たちの歌唱で、音の感じや受ける印象が違うが、サビに入るまでのAパート、浜辺を歩く綺麗な女の子をずっと見つめながら、胸を弾ませる主人公の気持ちをうまく描写するように、シンコペーションの中、同じ音をなんども行ったり来たりしながら、軽くやさしいタッチのメロディが進行している。これが心の中で、“わっ、彼女だ!!”とときめいているような印象を与える。そして彼女を見つめているところから、サビに入り、“あーなぜ、僕は孤独なんだ、なぜこうも悲しいのだろう、この世の美は、、、”とどんどん主人公の心の内が映され、一瞬憂鬱なためいきをだしながらも、どんどん熱くなっていく歌詞にメロディもともにそれを映すように、3度も転調を繰り返す。

その色彩感覚も面白い。そしてサビの後のBパートも、“彼女は知らないのだろうか、その魅力、周りの世界が愛で一層輝きを増していることを”(ポルトガル詞)というような感じのその熱い気持ちを心の中に、彼女が通り過ぎていくのを黙って見送るような印象を与える。またピアノやギターなどの、ジャズの要素となるハーモニーも美しい。

ボサノバのゆったりとした独特の雰囲気、シンプルで口ずさみやすいが、実はとても豊かなである曲の面白さ、そして、主人公の詩人のような表現をする歌詞の中にラテンアメリカらしい熱さや喜び、

誰もがもつ人間の心の深い部分など、あらためてスタンダートとなったこの曲の魅力を感じる。