V050「限りなき世界(イル・モンド)」 ジミー・フォンタナ

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

--------------------------------------------------

 

1.第3音から、半音高いキーの高い第5音までの、やや広めの音域で、サビは、高い主音を中心に歌われます。初期の録音では、キーが半音高く、低い主音から始まり、低い第5音も使って、後半には半音上のキーに転調して、高い第3音まで使うので、2オクターブに近い音域をそれなりに使わなければなりません。

ただ、始まりは低い主音なので、落ち着いてしっとりとした始まりで、次第に盛り上がっていきます。しかし、この録音では、始まりが高い主音なので、無理に張っているわけではありませんが、声のよさが目立ち、余裕も感じられます。

 

2.ジミー・フォンタナは、ハイバリトンか、低めのテノールのようで、無理のない発声で、初期の録音では、無難に歌いあげています。この録音では、キーを半音下げているため、使う音域も少し狭く(最高音は全音高いですが)、余裕があるためか、気持ちもかなり込めて、少しだけ声に無理をしているようです。

 

3.高音域が比較的苦手ではない男性は、これに近いキーで、練習してもよいでしょう。

女性は、地声高音域を少しがんばれば、ジミー・フォンタナと同じ音域で歌うことができます。ただ、低音域は、無理があるかもしれません。キーを少し変えて、楽な地声から、少し高めのミックスヴォイスを使えば、よい練習になるでしょう。(♭Ξ)

 

--------------------------------------------------

 

1.イタリアンポップスというか、カンツォーネというか、失恋をここまで明るく、素敵なメロディで仕上げてしまうところがいかにもイタリアの歌という印象です。しゃべるAメロと歌い上げるサビ。この二つの対比がとても印象的です。サビの部分には声の力がとても必要という印象です。発声の基礎力がないと面白味にかける曲になってしまうかもしれません。その意味では歌手の力量が試される曲という印象です。

 

2.甘い声で明るい発音がとても印象的な歌手です。そして言葉を「しゃべるように歌う」というイタリアの昔からの歌唱法をそのままやっているような歌手という印象です。歌っているよりしゃべっているという印象の方が強い。日本人にはなかなかここまでの明るさのaの母音は難しい。最終的にAの母音が一番難しくなっていくのは明るさと浅さがリンクしやすいからなのですが、ジミー・フォンタナのAの母音は学ぶべきところが多いと感じました。またRの子音の巻き舌がとても聞こえる。Rが2~3個あるくらいの巻き方なので、この辺りも歌うよりしゃべっているように聞こえる要因かもしれません。

 

3.言葉をよく読むということでしょうか。しかし読むというレベルをこだわってみるとよいかもしれません。普通の倍くらいの音量と距離感をもって、お腹をつかって読んでください。難しい場合は、胸を鳴らすことを意識して読んでみるとよいでしょう。(♭Σ)

 

--------------------------------------------------

 

1.曲の展開としては穏やかな語りのフレーズから始まり、少しずつ気持ちが高鳴り、サビで盛り上がるという流れで、盛り上がったまま終曲します。ただ一辺倒に歌うのではなく、歌い出しからサビのmondoに向かっていく様を、声・表現ともにメリハリを持って演奏したいです。

 

2.ジミー・フォンタナの声は癖もなく一般的には聞き心地のよい声だと思います。歌い出しのまるでしゃべっているかのような歌詞の運びや、mondoに向かっていくクレッシェンド、サビに入ってからの声の伸びなどからとてもうまく息のコントロールをしていることがわかります。

 

3.歌い始めの部分は、歌詞は正確に発音しながらもできるだけ滑らかに声を進めて語っているように歌いたいです。音程をつけずに、リズムに合わせて歌詞の発音をする「リズム読み」の練習がおすすめです。予め発音を口に馴染ませておくと、音程をつけた際にもスムーズに発音が進みます。

この曲のキーワードであるmondoは伸ばす音符の上で歌うのですが、子音Nの発音が落ちやすい(聞こえにくい)です。子音Nが欠けると違う意味になるので、moと同じ音程のまま子音Nも有声子音として発音してください。またverràの発音も、berràと聞こえやすいのでしっかりと子音Vを意識したいです。(♯α)

 

--------------------------------------------------

 

1.失恋ソングですが、決してジメっとなんかせずに、高らかに歌い上げることが特徴の曲だと思います。この辺りは日本人的感覚と対照的な部分ですね。

 

2.ジミー・フォンタナの歌い方から感じるのは、表現にこだわってせりふのように語る印象を受けます。歌い手的というよりも、俳優的に聞こえるのは、彼がもともと俳優であるからかもしれません。

「Il mondo」のイの発音がやや詰めて押したような発音になっているように聞こえます。表現に寄せているのかもしれません。この辺りが歌手的ではなく聞こえる原因かもしれません。

 

3.語るように歌うということは、本来であれば演奏効果が高くなる方法なのですが、表現によりすぎてしまうと、声を犠牲にする部分が出てきてしまうと思います。曲として歌う以上は、歌手として、歌手の仕事の範囲で聴衆を魅了する方がよいでしょう。語り方と歌い方のバランスをどう取るか、よく研究が必要です。語る上で、声を犠牲にするところまでは必要ではないでしょう。(♭Я)

 

--------------------------------------------------

 

1.イントロ部分はC majorで「ラララー」というボカリーゼ、そして語りのような部分を経て、サビ×2コーラス、C♯ majorに転調し、サビがインストゥルメンタルで演奏され、サビ、コーダで再びイントロと同様の「ラララー」で歌いあげるという構成で成り立っています。

 

2.明るい声質で、基本的にはクラシックな発声をベースに、伸びのよい声で歌っています。いかにもイタリア人が歌う英語という感じで、母音がとても明瞭で聞きやすく、英語で声がなりにくい人は彼の英語の母音歌唱を参考にすると声が伸びやすくなると思います。

最初のラララーで少し鼻にかかった発声が見られますが、鼻にかけることでピッチの正確さを狙っているようです。こぶしを入れたり、泣きを入れたような声を用いて表現しています。低い声より高い声に輝きがある音域をもっています。最後のロングトーンでは、6秒後ぐらいに声の支えが抜けてしまったのが残念です。

 

3.西城秀樹が「ローラ」と歌いだすときのような、泣きの声を語頭に入れることで、切なさ、切実さなどの感情表出を効果的に出せています。

この歌手の声の伸びを是非真似てみてください。イールモーンドの「ド」でフレーズが終わることなく、次のフレーズ、次のフレーズと、どんどん繋がっています。

低音の語り、高音の声の張り、そして泣きを入れることで歌唱にメリハリを与えていますので、この歌い分けも参考になるでしょう。

泣きの声に関しては、How I loveの「H」、 your love soの「s」、 Let tender kissの「L」 、そしてとうとうIl mondo「I」(冠詞)、Happyの「H」 、promiseの「p」、you stay の「s」など感情的なワードに主についています。Il mondo のIlは冠詞なのにもかかわらず泣きがついているのが感情の高ぶりを感じさせます。(♯β)

 

--------------------------------------------------

 

1.「限りなき世界」を雄大に表現しています。つまり、月並みな言葉で言うと、「長い」、と感じます。1つのフレーズも、サビまでの距離も長い。音域も広いです。それだけに処理も難しいです。

 

2.長さを感じさせず、フレーズは徐々に盛り上がっていき、サビの「イルモンド」にスムーズに繋がります。このフレーズの持続力が素晴らしいです。そもそもはじめのナンバーから、尋常ではありません。深い息と声。語るように魅力的な歌い出し。また音域の広さを感じさせない統一感での「イルモンド」のシャウトの見事なこと。

 

3.歌い出しのナンバーをフレーズコピーしてみましょう。いかに深い息と声が必要かがわかると思います。余裕があれば、全曲を歌ってみてください。「息とフレーズがもたない!」と感じるはずです。そこからトレーニングに落としていきましょう。(♭∴)

 

--------------------------------------------------

 

1.きっといろいろな些末事に悩まされているにもかかわらず、廻る世界を大きな視点で眺めるという内容。スケール感が大きく、青空のように壮大で爽快なナンバーです。歌唱部冒頭の楽譜にはStrofa(Liberamente)つまり「語り(自由に)」との記載あり。次第に語りは歌へと移行していき、順次進行で上昇。そして浮遊感のあるサビへと到達します。

 

2.音域が広く、どんどん高くなっていく曲ではありますが、ジミー・フォンタナは同じギアのまま気楽に歌い続けているように聞こえます。実際にはいろいろ工夫があるのでしょうが、それがまったく見えない(見せない)歌手です。気負いのない伸びやかな歌唱が魅力です。

 

3.冒頭は何度も朗読して韻律や語感を掴みましょう。それができてはじめて音に乗せて歌えるようになるのです。サビ前はどんどん上行していきますが、まだがんばるところではありません。ペース配分を考えましょう。サビは大きなメロディラインを意識してレガートを心掛けましょう。(♯∂)