「汽車」076

東京芸大声楽科を卒業後、東京府立の女学校で教諭を勤め、戦後は東京芸大をはじめ、いくつかの音楽大学などで教鞭をとり、合唱指導にも貢献した、大和田愛羅(オオワダ アイラ)の作曲した文部省唱歌です。
有節歌曲なので、歌詞の符割りがどうしても問題になってきますが、なかなかうまく処理されています。1番が16小節、1フレーズ4小節で、4つのフレーズで構成される曲ですが、その中の5個の小節の前半にスキップのリズムが使われ、後半は8分音符の連続などでスキップではありません。ピョンコ節にならないように、このリズムの区別をしっかりとつけることが、まず大切です。特に1,2,4フレーズの出だしが、スキップのリズムで始まっているのに、3フレーズ目はスキップでは始まりません。また、1,3番の1,2フレーズ目の出だしと、1,2番の4フレーズ目の出だしは、歌詞は伸ばすだけなのに、わざわざスキップのリズムで書かれています。ここは、スキップのリズムを感じて伸ばすべきかどうか、意見の別れるところかもしれません。ただ、3番の3フレーズ目の出だしは、「み・と・れ・て」と、8分音符の連続で、後に続くスキップのリズムと、しっかり区別するべきでしょう。([E:#x266D]Ξ)

比較的狭い1オクターブの中だけでリズミックに動く曲ですので、難易度的には比較的扱いやすい曲だと思います。また、強弱の指定も、メゾフォルテからメゾピアノ、フォルテと記載されていますが、メゾピアノの部分は全体的な音域も低くなりますので普通に歌っても音量が小さくなる部分ですから、かえって落とし過ぎないことが重要かと思います。しっかりと体を使って声をだすという目的で使用すると効果が高い曲だと思います。
発音という面でこの曲を考えるならば、リズミックな曲なのでどうしても音と一緒に言葉が跳ねすぎてしまって発音が不鮮明になる可能性もあります。発音をトレーニングするためにこの曲を練習するならば、言葉の中の強弱を意識して発音していくとよいトレーニングになるでしょう。([E:#x266D]Σ)

今の時代、鉄道があることは当たり前で、乗ったからといって感動するような場面は皆無に等しいと思います。しかし、この曲が作られたころは、汽車そのものがまだ珍しい時代ですので、汽車というものに乗ったときに感じた思いを純粋に描かれた曲だと思います。その気持ちを素直に表現できると理想だと思います。
自動車に乗る機会もないに等しい時代、汽車に乗ってみるとかつてないほどのスピードで走り、景色が目まぐるしく変化していく様子が歌詞の中に表現されています。今で言えば、時速60キロメートル程度ではないかと予測します。現代においてはごく当たり前の速さ、電車であればむしろ遅く感じるかもしれませんが、それでもこの時代の人たちにとっては、相当早く感じたのでしょう。そんなことも考えながら歌ってみると面白いかもしれませんね。
音楽的な部分としては、音域が比較的低いことと、同じような音の連続の中にわずかな変化があるので、言葉のフレーズ感を大事にしながら、音程をしっかり歌えるように練習するといいと思います。([E:#x266D]Я)