「仰げば尊し」059

卒業式のイメージが強すぎて、この曲に素晴らしい発声の技術が必要かは判断が難しいです。発声よりも気持ちや感情が優先されるべき状況で歌うことの方が多く、そのような印象が強いですね。
ただ、単純に音楽として捕らえたときには日本人が苦手な8分の6拍子、アウフタクト、レガートが多様されている曲なので音楽的なトレーニング、発声的なトレーニングとしてはいい課題だなと思います。
発声的にいうと最初の「あ」の母音がいかに美しく発声できるかということがまず重要かと思います。この曲は開口母音の「あ」と「お」が多いのでしっかりと開けて強めに歌うことが重要です。卒業式のイメージが強すぎてどこかしんみりとしたイメージがありますがイメージを取り除き単純に楽譜だけでみると推進力のあるスケールの大きな曲です。豊かな声で大きめの声でよくクレッシェンドを多用して支えを意識しながら歌ってみるとトレーニング効果が高いと思います。([E:#x266D]Σ)

文語体で起承転結的な詩からなり、普段あまり使わない言い回しの言葉が多く出てきますが、以前は卒業式で多く歌われていました。メロディー的にはアーフタクトですが、順次進行(隣り合った音へ進行している)が多く、全体的に4分音符・8分音の<タ・ターン・タ、タ・ターン・タ>のリズムで構成された歌いやすいメロディーの曲です。歌う際のポイントは、言葉がブツブツしないよう、滑らかにつながるように、ろうろうと歌いましょう。「仰げば尊し~はやいくとせ」は、フレーズごとにクレッシェンド・ディクレッシェンドして真ん中を膨らませて歌います。「思えばいととし」は「この年月」に向かってしっかりとした声で歌います。「今こそ」ピアニッシモからゆっくりしながら、「別れめ」に向かってクレッシェンドし、“め”のフェルマータをたっぷり歌い、しっかりブレスをしてから「いざさらーば」はテンポを戻しながら静かに終わります。([E:#x266F]μ)

歌詞が古い言葉なので、誤解されやすい部分を少し整理しましょう。「おもえば いととし」の『いと疾し』は「過ぎ去った日々を回顧して、きわめて早い」の意味で、「いと年」や「いとしい」ではありません。『今こそ別れめ』は「別れることになるだろう」、「別れようとしている」の意味です。「別れめ」は「別れむ」の已然形です。「め」は「こそ」を受けて係り結びになっています。「別れよう」でも。「別れ目」でもありません。『互いにむつみし』は「おたがいに仲よくした」の意味です。「やよ
 はげめよ」の『やよ』は、呼びかける時に用いた言葉で「さあ」の意味です。全体的に穏やかな曲ですので、滑らかに歌うことを心がけましょう。([E:#x266D]Я)

この曲は、年配の世代を中心に卒業式でよく歌われていました。現代ではこの曲を歌うことが少ないと聞いています。個人的には、10年ほど前のとある小学校を舞台にしたテレビドラマで、卒業式で児童たちがこの曲を歌っていたことをきっかけに、この曲を知るようになりました。
1節が8分の6拍子、16小節で構成されていますこの曲は、全部で3節まであります。3節共に詩の構成が前半は、恩師への恩、学び舎の思い出、情景が描かれています。詩の後半始めに主体的な思いが表れ、詩の終わりは「今こそ別れめ いざさらば」で締めています。3節共同じ歌詞で締めていますため、この「今こそ別れめ いざさらば」が一番強調する部分であり、この部分を曲の最高点に表現することが大事です。案の条13小節目と14小節目を跨ぐ「わかれめ(別れめ)」に一番強い強弱記号のフォルテが置かれています。
この最高点を活かすためには、情景を語る1~8小節目までは、強弱記号ピアノからメゾフォルテで歌い、主体的な思いを述べる9~12小節目は、メゾフォルテで歌います。比較的小さめから真ん中の音量です。そして「いまこそ(今こそ)」の13小節目で一旦ピアノまで音量を落とし、クレッシェンドで盛り上げながら14小節目の「わかれめ(別れめ)」で最高点に到達します。最後に15、16小節目の「いざさらば」でピアノに音量を落とします。
ここで気をつけることは、フレーズを4小節毎にレガートで繋げるように大きくとらえること、小さな音量で歌う際に大きい音量で歌うとき以上に体の支えが必要であることです。体の支えが無く小さな音量で歌うと「ただの小さい声」となり、伝わりません。小さく歌おうとするあまりに、体、喉が絞まる可能性があります。
以上のことに気をつけまして、朗々と「別れ」の寂しさ若しくは未来への前向きな気持ちをこの曲で表現できればと思います。([E:#x266D]й)