「里の秋」 046

声楽的な目線で楽譜をみると歌い辛い曲だなという印象です。理由は音の跳躍が多いことが一点、高い音よりも低音に下がってくるほうが印象的なことがもう一点でしょうか。上昇形というのはある程度勢いやパワーでもっていきやすいのですがそれよりも下降形のほうが体と息と声のバランスが必要になってきます。なによりもこの曲はレガートで歌うと演奏効果が高い曲だと思います。
レガートというのは音楽の表現ではなく声の世界では発声の重要な技術です。声を磨いていく中でレガートをもっと意識してトレーニングしていくと声の伸びがとても変わってくると思います。この曲は2小節ごとにフレーズが作られていますからその2小節が美しく伸びていくことを考えてトレーニングしてみましょう。特に13小節以降は音を伸ばすことが増えてくるので声をしっかりと保って流して練習しましょう。(♭Σ)

この詩に詠われているのは秋深く、家に居ても木の実の落ちる音が聞こえるほど静かな夜。外灯はほとんどなく、窓から見える月や星明かりの中、渡り鳥の鴨の鳴き声が聞こえる、母と二人、囲炉裏で煮ている栗を食べ、しばらく会っていない父親の笑顔を思い起こし、いつしか戦争が終わり、船に乗って無事に帰ってくる日を祈っている情景です。戦時中で町の風景や家庭の雰囲気が現在とは大きく違い、夜は本当に暗く、家も周りもシーンと静かな状況をイメージしながら歌うと曲の趣が感じられると思います。
スラーのついた2つの8分音符、「しずかーなー ~ さとのあーき」等の「ー」の伸ばす箇所、音にとらわれると「しずかアなア ~ さとのあアき」となってしまいがちです。「ー」は前の音よりやや弱く柔らかに歌うと日本語が伝わってきます。「ああ、かあさん(とうさん)」の「ああ」はしばらく会うことが出来ないお父さんへの思いを込めて歌いましょう。「栗の実煮てます」目の前の明るい現実なのでしっかり目に歌い、最後は(でも父はこの場に居ない)というしんみりとした様子で静かに歌います。(♯μ)

終戦の年である1945年(昭和20年)の12月24日に、JOAK(現在のNHK)のラジオ特別番組「外地引揚同胞激励の午后」という番組内で初めて発表されました。なお、この番組内では、「可愛い魚屋さん」、「めえめえ子山羊」なども歌われました。この「里の秋」は、「兵士を迎える歌」として、引揚援護局の挨拶の後、童謡歌手である川田正子の新曲として全国に放送されました。なお、この放送の直後より反響が大きく、翌年放送が開始された「復員だより」の曲として使用されました。詞を見ていくと、1番ではふるさとの秋を、母親と二人だけで過ごす様子、2番では明るい星空のもと、遠くにいる父親を思う様子、3番では父親が無事に帰ってくることを切実に願う様子が書かれています。
音楽的には、「やさしく」という演奏指示が冒頭ありますので、穏やかに歌うと良いでしょう。八分音符で忙しなくならないように、丁寧に歌う事を心がけると良いと思います。この曲は、松葉のような<>が多数用いられています。この指示を意識しながら歌う事で効果的に表現できるようになるでしょう。この曲で唯一出てくるfの前のmfを最も大事に歌うように心がけるといいでしょう。あえてfで書かれずmfになっていることから、心の奥底での気持ちが最も出ている部分のように私には感じます。(♭Я)