フィリッパ・ジョルダーノ

自分がやりたいことがはっきりしていれば、まったく前例のないことでも、
何をすべきかがわかり、辛いけれど迷いがないのだろう。
オペラ歌手の両親を持ち、発声の基本も身につけたところで、
そちらの道でも通用したかもしれないが、自分のやりたいことにこだわり、
やり遂げた精神に共感し、勇気づけられた。

「ポピュラー歌手だけによるオペラ上演の実現」という
“野心的な夢”を持っているが、肩に力は入っていなくて、
「大切なのは音楽を聞き手に届けること」
「音楽にはジャンルの垣根はない」
という信念をしぜんと実行している姿が魅力的だ。

声はくせのない、透明感のある声で、
高音ものびやかに、自在に歌う姿は妖精のよう。
声自体が太くて迫力があるわけではないが、
一曲の中でピークに向かって密度が上がる緊迫感は、
胸にせまり、説得力がある。

クラシックの基本があるうえで、響かせるより、
フレーズの流れで聞かせどころを作っていくような
ポピュラー的な歌い方を選択しているので、
声は完全にコントロールされていて、表現に幅がある。

その表現の幅の豊かさを一番感じたのは、カルメンの「ハバネラ」である。
ジプシーの匂いはしないが、可憐な小悪魔という感じで、
ぐいぐい引き込んでいく。
始めのうちは、まるで声で遊んでいるかのような軽やかさ、
自在な変化でカルメンの気ままさを表現し、
しだいに全く違うドスのきいたような声で「決め」のセリフを完全に演じきる。

一曲の中での表現力、バラエティの豊かさに、本当に驚いた。
ヤーヤ・リン指揮のスーパーワールドオーケストラの演奏も、
音が軽やかで、リズムが生き生きしているように聞こえた。
特にホルンとピッコロの音が新鮮に聞こえた。(O)