ブルース・スプリングスティーン  1984「Born in the USA」

祖国への歌。 長く活躍し続ける世界的なアーティストたちをみているとよくそれを感じる。
Bornと上にあるみえない壁を打ち壊そうとするように、突き上げるようなスプリングスティーンの迫力あるシャウトが印象的だ。そのひと声の中に聞き手は真に存在するなにかを無意識に感じる。ただ声が大きいのではない、ただ歌っているのではない、ただ叫んでいるわけでもない、一瞬でその声に信頼できるものを聞き手は確かに感じられる。
-帰らぬ友人たち、煮えくりかえる思いと労働の日々、行くところもなく、そう、おれはアメリカで生まれた。-
日本もかつて憧れていた自由なアメリカのイメージが重なってくるような、前向きな明るいロック.。2コードで、シンプルなメロディ。そのメロディの明るさとは間逆に歌詞は暗く、複雑で、70年代半ばまで泥沼化したベトナム戦争アメリカの影が、不条理の下で生きる人々の苦悩が描かれている。スプリングスティーンが全身全霊で歌うことで、歌詞とメロディが融合し、化学反応のように大きなエネルギーがその光と影が大きく映し出し、アメリカ社会の現状や人々の姿、叫びが感じられる。明るいメロディに始めはノリや高揚感を求めて集まってきた人々に、不条理に、祖国に、明日へと、くたくたのTシャツとジーンズ、色の褪せたバンダナを頭に巻き、汗だくになりながら、強いガラガラ声で感じるままに歌う姿は、その歌は、人々に期待をはるかに超えた感動と一体感をリアルに与えただろう。
ライブ映像の中には、パワー全開なあまりに、相当荒削りになっているところもあるが、どんな状態でも肝心なところはぶれず、力づよくエネルギーにあふれ、伝えている。ちょっとしたタイミングやニュアンスにも苦しくて悔しくてしょうがないと労働者の思いを感じさせる。
現在もこの曲を歌っているが、より強く存在感、オーラのようなものを増しているように感じる。
この曲をのちに、アコースティックギターで異なるメロディをつけてブルースバージョンで歌っているのもあるが、そちらもまた哀愁があり、ちょっとしたニュアンスが巧みでそのセンスも印象的である。同じ歌詞をロック、ブルースと異なるメロディであるが、どちらも真実味があり、アーティストの志がいつまでもはっきりと感じられる。