「ベサメ・ムーチョ」

メキシコの名曲   ラテンらしい熱い情熱がメラメラと感じられる1940年のスタンダートソング。歌詞の頭から“キスして、たくさんして”と切実な始まりで、ぴったりとその想いと重なるようにメロディラインもマイナー調でドラマを感じさせる作りとなっている。最初のBesame besame muchoと上へと昇り始め、como si fuera esta noche la ultima vezと少し切羽詰まるイメージも感じさせながら、とくにここの惹きつけるような音が入るla ultimaと上に昇ったにもかかわらずすぐvezと降りてしまうところにもなんとなく儚さも感じられて切ない。そしてもう一度besame muchoと今度は下降するラインのメロディで、ここまでだけでも主人公の秘める激しさが感じられてくる。伸ばすところの中で、言葉にならないような想いが音に現れているところ、切実にしゃべるような音をつめてきかせるところ、どこか破滅的な感じや哀愁も漂ってくる。静かに秘めるような熱さで歌うアーティスト、壊れてしまいそうなほど激しく歌うアーティスト、有名無名様々なアーティストをyoutubeで聴いていると興味深い。作者のコンスエラの貴重なピアノ演奏も残されているが、カリブの海面が輝くようなきらびやかさとパーカッションばりに叩くように激しく弾く姿が印象的であった。キューバ出身のピアニスト、ゴンザロ・ルバルカバの演奏も、静かでありながら激しく、美しく詩的で、心を強く揺さぶられた。繊細にその微妙に移り変わっていく温度、色合いを感じられる瞬間でもある。また、この歌を最初に録音したといわれた歌手エミリオ・トゥエロのものも貴重で、日本人にはその情感が少しオーバーにも聞こえてしまうという箇所も時折あるかもしれないが、曲を理解し、曲そのものがもっているイメージをよく出していると感じられた。