ダニー・ハサウェイ「A Song For You 」

一人の歌い手の人生が重ねられた歌詞と共に、その深い愛情をゆったりとしたバラードが、最初から最後までほとんどのフレーズに1オクターヴが使いながら、大きく豊かなスケールの中で描いている。刻々と流れている時の中で光や影、その想いを感じさせる。とても繊細な作品で印象に残る。
下降の美しい旋律で始まるピアノのイントロを受け、最初のフレーズからダニー・ハサウェイの存在感は圧倒的である。アーティスト自身と曲との結びつき、そしてアーティストと聴き手との結びつきが、その始まりのフレーズから感じる。この美しい下降しながら流れていくメロディに言葉が自然に重なり、楽にひといきで説得力のある豊かな語りは真実味があり、ハサウェイそのものを感じさせる。そしてこのすごく印象に残るAメロをストレートな声で聴き手の心深く届かせながら、徐々にBメロへ向かってちょっとした入りやツメ具合や間の取り方、装飾など、メリハリをよく入れて、より関心を高め、期待を膨らませていく。Bメロ “You taught me precious secret~”からどこかスリルを感じるような、何かが起こりそうな緊迫感を与えるようなハーモニーが入り、それをぬけた先に、“my love is in there hiding”へとどう到達していくか、見事なすばらしいハイライトでハサウェイは展開していく。
そしてより静かに伝えるように“I love you”と繊細なサビへ入っていくが、Aメロ、Bメロで豊かに歌ってきたことがここで深くつながり、このI love youがとても映え、よりぐっと心を掴む瞬間でもある。このloveの入れ方もハサウェイはすばらしく、1度目繰り返し2度目の変化ともっと聞きたいと願わすような仕上がりで、1度聞くといつまでも人の心に語りかけるように深く残り続ける作品である。