パティラベル Patti Labelle 「Over The Rainbow」

 彼女の歌を聴いていると、曲そのものを超えて、背後にある長い歴史の歩み、黒人霊歌やそれ以前の民族がもっている音楽や声が聞こえてくる。莫大な時間の中で積み重ねられた民族の基盤。一人の大歌手の歌の中に、多くの人間の叫びが聞こえてくるような霊的な力、存在を感じる。長い過酷な歴史の中で生まれ歩んできたその力強い豊かな声、その無限の可能性をみせる不屈の歌。根源に流れる叡智を彼らは歌により確かめ合ってきた。その中でラベルは今日、生き残りをかけ、選ばれるべきして、選ばれてきた偉大な歌い手の一人である。彼女が原曲を様々な方向へもっていっても、ブレることもなく筋が通り、つながっている。この曲でもラベルは毎回全く同じように歌うことはなく、録音だけでも何通りも残されている。 そしてつねに、予想がつかないほど超人的な変化をし続け、奇跡をおこしていく。もしかするとその時に見えない大きなエネルギーなのか何かが彼女を動かしているのかもしれない、神かもしれない、それとも彼女がその時に神に、魂に、なにかに語りかけているのかもしれない。その瞬間は、聞いていて目の前が見えなくなるほどの感動と共に、必死に祈らずにはいられなくなるような衝動を与える。 そして歌とは何か、人間とは何なのかを思う。そして彼女の背後だけにでなく、自分の背後にいる民族の存在、血も感じてくる。この曲に歌い手のすぐれた才知が現われている。