「あの町 この町」 063

日本の童謡界ではとても有名な、野口雨情(作詞)中山晋平(作曲)コンビの作品です。8分音符の羅列で書かれていますが、曲頭に「はずみをつけて」と指示(当時の業界用語)があるので、ピョンコ節と呼ばれるスキップのリズムで歌う曲のようです。
かなり前から、楽譜どおりの8分音符の羅列で演奏する場合もありますが、ほとんど同じころに発表されている「あめふり」では、同様のスキップのリズムにもかかわらず、こちらは8分音符の羅列ではなく、しっかり付点8分音符と16分音符で書かれているので、その違いを汲み取って、アバウトな緩やかなスキップのリズム(例えば3連音符で構成された)で演奏されることが、多くなっています。
民謡調のメロディですが、前半は上行音型、後半は下降音型で、どちらも比較的なだらかな進行なので、レガートを基本とした落ち着いたスキップのリズムで歌いましょう。4小節のフレーズとその後半2小節を反復した計6小節の前半と、同じ構成の後半6小節でできているので、反復部分をいかに歌うかで、個性が発揮できるでしょう。([E:#x266D]Ξ)

単純なようで案外発声的にみると難しい部分が多い曲です。低音からスタートして上のミまで一気にいくので声のチェンジに迷う人も多いのではないでしょうか。特にミの音というのはどんな声の人でも、一番嫌がる音なのですが、その音に日本人が苦手な人が多いエの母音が多く使われているのも難しくしている要因です。
また、フレーズの終わり、ロングトーンの部分でもエや、浅くなりやすいウの母音が頻発しているので単純な曲にみえて注意するポイントが多いです。女性の人には声のチェンジの音域がたくさんあるのでその練習としてはとても適していると思います。男性にも高いミを突っ張らずに深くだす訓練としても使えると思います。
男女ともいきなり歌詞を歌おうとせず得意な母音でこのメロディを歌ってチェンジがうまくいくようになったら歌詞をはめていくのも一つの方法だと思います。([E:#x266D]Σ)

音域はそれほど幅広くはありません。そのため、初心者の人など、音域の幅が広くない人の練習曲として用いるのもよいでしょう。ところどころ、音程がとりにくく感じるような音の進行があるので、その部分に注意して、正確な音程で歌えるよう、繰り返し練習して慣れましょう。八分音符で刻まれた曲調から、比較的わくわくしたような気持ちを歌われた曲ではないかと推測します。
冒頭に「はずみをつけて」という指示がありますが、くれぐれも跳ね過ぎないように注意しましょう。あくまでも自然に歌詞になっている内容を気持ちで表せる程度が重要だと思います。そのときヒントになるのは、ピアノの右手の伴奏部分に書かれているスラーだと思います。このスラーを目印に、フレーズ感を大事にしながら、その上にわくわくした少し跳ねたような表現で歌うようにしていくと効果的だと思います。内容としては子供のころ、遠くまで来たような状態をイメージしながら歌うとよいでしょう。([E:#x266D]Я)