12.「地下室のカギの音」

 私は学生時代、金がなく、銀座のビルの宿直のバイトをしていました。夜中に8階から地下室まで看守のように、大きな金属輪のついた10個以上のカギをならしてまわるのです。

 今、思うと、冬はその鉄が冷たく重くさえ感じました。地下の階段からは、カツコツと、銀座八丁目の夜中に急ぐハイヒールの音、トコトコという足音が聞こえました。華やいだ嬌声と銀座のにぎわいが、いつも遠くに聞こえました。