ウイリー・ネルソン

今回はカントリーミュージックの巨星、ウイリー・ネルソンです。
日本人はアメリカではやったものは大概日本でも流行らせるんですが、僕の見るところただ二つ、アメリカで超メジャーなのに日本ではイマイチなのがアメリカン・フットボールカントリー・ミュージックだと思います。
まあ、アメフトのほうは体格的な問題があリ、どう考えても日本人には不利なスポーツなんです(と、いいながら僕は学生時代やってました)が、カントリーはもっと日本でも盛り上がっていいと思うんですがねぇ。
さて、カントリーといえばなんといっても本場はテネシー州ナッシュビルです。名前くらい聞いたことあるでしょ?
でも、今回取り上げるウイリー・ネルソンは、ナッシュビルではとかく「異端児」扱いされ続けてきた人物なんですね。
出身地もナッシュビルから遠く離れたテキサス州で、同郷のクリス・クリストファーソンケニー・ロジャースの三人を、まとめて「テキサス一派」なんて呼ばれたりしたことも。
彼ら三人に共通する特徴は、いわゆるポピュラーミュージックとの融合を早くから図り、三人ともカントリー歌手の枠を大きくはみ出した存在になってしまっていることですね。
クリス・クリストファーソンは映画俳優としても有名ですし、ケニー・ロジャースライオネル・リッチーとのコラボでグラミー賞に輝いています。
しかし、その二人にも増して、ポップスとのコラボが多いのがウイリーなのです。
ものすごく強引に例えれば、津軽三味線の本場・青森で、地域に根付いた活動にこだわっている演奏者と、東京在住でジャズやポピュラー音楽とのコラボで人気を集める若手の演奏者の違い・・・とかいうと余計わからなくなるかな・・・?
1933年生まれ、というから日本で言えば「昭和ヒトケタ」、あっぱれ「後期高齢者」ですな。
しかしながら、今なお全米の老若男女・善男善女の音楽ファンから親しまれ、愛される彼の魅力とは何でしょう。
それはカントリーを基調としながらも、あらゆるポピュラー音楽を「自分流」に歌いこなしてしまう、彼の幅広い音楽センス、そして若いころから一貫して「自由」を求めて主張し続ける「反骨精神」にある、と僕は思います。
そしてまさにそのスタイルが、皮肉にも「本場」からは白い眼で見られた、ということなんですね。
1950年代から活動を開始した彼は60年代ナッシュビルに移住。カントリー歌手としてデビューします。しかし、彼の鼻にかかった甘い声は、荒々しい「男歌」全盛のナッシュビルではウケず、やむなく作曲家やDJとして活動していましたが、おりしも1960年代のヒッピー・ムーブメントに影響を受け、「ベトナム戦争反対!」などの歌詞を堂々と歌うという、「保守層の牙城」ともいうべき「カントリーミュージック界」に真っ向から挑むようなスタイルに変わっていったんですね。
そして70年代、数々の賞に輝くカントリー出身のポピュラー歌手として、不動の地位を築いたのです。
このあたり、フォークソング出身のボブ・ディランとよく対比されるようです。実際、よくコラボしてるしね。
いまや、全米のみならず世界の音楽ファン(とくに中年ブルーカラー層)から「神」のように尊敬を集める存在感といい、かつて彼を「アメリカの北島三郎」と表現した人もいましたが、むしろ北島三郎さんを「日本のウイリー・ネルソン」と呼ぶべきかもしれません。
僕は1980年代になってから「USA for AFRICA」などで彼を知ったのですが、さかのぼっていろいろなレコードを聴いてみると、カントリーはもちろん、ジャズ、スタンダード、ロック、フォーク、ゴスペルなど、本当に多彩な顔を見せてくれます。
特に、S&Gの「明日にかける橋」や、プロコル・ハルムの「青い影」、ナッキンコールの「スターダスト」「モナリザ」などは原曲とまったく違う「味」を持っています。
でも僕にとって一番好きなウイリーは、やっぱり「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」ですね。
これ、プレスリーのカバーなんですが、さいしょ僕が元を知らなかったせいか、僕の中では完全に「ウイリー・ネルソンの曲」なんです。
aybe Ⅰ didonnt treat You
Quite as good as I should have
(たぶん僕は自分の想いほど強く君を抱きしめてこなかった・・・)
から始まって、
You were always on my mind
You were always on my mind
(ぼくの心には君がいた いつも心に君がいたんだ)
と結ぶ、典型的なラヴ・バラードです。
何がすごいって、一番のド頭、
aybe Ⅰ didonnt treat You
の「Maybe Ⅰ~」からもう「ウィリー節」炸裂で、いきなり「彼の世界」にもっていかれます。
鼻にかかったややダミ声の、決して美声とはいえない声なんですが、しみじみと味わい深く、かめば噛むほどの「スルメ感」がすごい。
なんというか、「不器用な中年男の哀愁」みたいなものが声自体から押し寄せてくる、といいますか、その「高倉健・度数」の高さが彼の最大の特徴であり、魅力だと僕は思います。
ぜひ、聞いてみてください。