ヴォーカルの耳づくりと歌唱の学び方

ブレスヴォイストレーニング研究所のトレーナーや受講生によるライブラリー

V063「リコルダ」 ミルバ(参考 オルネラ・ヴァノーニ)

1.歌詞と曲と演奏など

(ことば、ストーリー、ドラマ、情景描写、構成、展開、メロディ、リズム、演奏、アレンジなど)

2.歌手のこと

(声、オリジナリティ、感じたこと、伝えたいこと)

3.歌い方、練習へのアドバイス

 

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1.ひとことでいえば失恋の歌ですが、文化の違いなのか、ミルバの歌うアレンジでは、とても大事件のようなオーケストレーションになっています。そういう意味では、参考曲のアレンジの方がしっくりくる感じがします。ミルバの歌唱力に合わせて、つい大げさになってしまったのかもしれません。もちろん当事者にとっては、真剣であればあるほど、世界の終わりのような大事件に違いありません。しかし、日本人の感性からすると、少し違う気がします。

低い第5音から、高い第6音までの1オクターブ余りの音域の曲なので、多くの人にとって歌いやすい音域でしょう。いきなり結論の最後のフレーズから始まります。その後から始まる二つのフレーズは、どちらも短調の主音をメインにしていて、悲しみが強く押し出されています。

3個目のフレーズでは、第3音がメインに上がり、4個目のフレーズでは、高い第6音から順次進行で下りながら、主音だけ抜かして低い第7音から主音のロングトーンに終わります。これを2回繰り返してから、主音の連続のフレーズから第2音の連続フレーズになり、第3音の連続のフレーズの後、高い第6音から長い音符で順次進行で下降し、始めの主音の連続のフレーズに戻ります。うまく考えられたフレーズ構成になっているのも、大ヒットした理由でしょう。

 

2.ミルバは、艶のある、少し暗めの声で、パンチも効かせています。

 

3.とても気持ちの込めやすい曲なので、始めはなるべく感情を込めずに淡々と歌って、音高に合わせた発声をしっかりつかんで、声の実力を充分に発揮できるようにしていきましょう。(♭Ξ)

 

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1.イタリア語で「Ricorda(リコルダ)」は「覚えていて」という意味で、恋人と別れた女性の心情を歌っています。一番最初の歌い出しである”Ricorda amore mio ricorda”(覚えていて私の愛しい人)をどう表現するかがこの曲の要でもあり、聞き手に与える印象を大きく左右する部分です。

 

2.ミルバはsotto voceで語るように歌う部分と、しっかりと声を張って情熱的に歌う部分との歌いわけが、とてもうまく、旋律にメリハリがあってまるで曲全体を立体的に歌い上げているような印象を受けます。その中でも特に、始めの歌い出し“Ricorda,amore mio ricorda”の歌い方は秀逸です。歌声・歌詞の発音にどこも角がなく滑らかな中で、でも歌詞ははっきりと立ち上がってくる感じがあり、こういった表現はやはり歌手のセンスなのだと思います。

 

3.ミルバの歌唱を参考にするのは、言葉の運びや音楽的表現などとても勉強になると思います。たとえば歌い出しの歌詞でricor-da a-moreを見ると、-da a-で単語の繋がりがどちらも母音アです。母音が繋がってricordamoreとひとつの単語のようにならないよう工夫が必要です。ここはぜひミルバを参考にしてください。

一方で、ミルバがポルタメントで歌っている“io ti amo”や“d'argento ma”の部分に関しては、そのまま真似る前にまずはシンプルに音程をとって歌ってみてください。自分の表現が伴う前にポルタメントをしても、形だけの技術を提示するのみでそこだけが浮いてしまいます。(♯α)

 

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1.ざっくりいうと失恋ソングです。「Ricorda」は「あなた」に対して、「覚えておいて」や「思い出して」という意味になります。自分のもとから去って行ってしまう人に対して、自分という存在を意識してほしいという内容が切々と歌われています。

 

2.ミルバの歌い方は、若干、表現に振った分だけ声が揺れ気味に聞こえるところもありますが、声も発音も割合聞き取りやすく、自分の持つ楽器の許容範囲をそれほど大きくは逸脱していない印象を受けます。またドラマチックな内容を語り方で表現している印象を受けます。

 

3.普通に歌ってしまうだけでは非常に味気のない曲になってしまうように思います。歌う人の感性や語り方がこの曲を仕上げるうえでは欠かせない要素になると思います。

別れることとなった「あなた」に対して「思い出して」や「覚えておいて」という内容が歌われている曲ですが、声だけではなく妙なる語り方で色彩豊かに表現することができると、この曲の持つニュアンスが活きてくると思います。歌うという意識よりも、どのように語りたいのかを徹底的に研究してみるとよいでしょう。語り方からくるしぜんな間の緩急などもこの曲を歌う上では重要で必要な要素になると思います。(♭Я)

 

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  1. ボレロのリズムが終始流れている。A A B A 間奏 B Aのダ・カーポの構成。Bはテンポが速くなります。

 

  1. 歌唱力、独特な声の響き、圧倒的な表現力で魅了している歌手です。言葉への思いが強く、他の歌手の比にならないぐらい表現力が素晴らしいです。それを支えている声や息のテクニックも群を抜いていると思います。一つの言葉を発するにも、いろんな思いがこめられており、歌に魂が宿っていると感じます。一つの音に対しても下からアプローチしたり、上からアプローチしてみたり、言葉の中でも音節ごとの伸び縮みがあったり、音節と音節の繋げ方も絶妙です。

 

3.「gente」「mano」「io」などの各音節のどこがどのぐらい引き伸ばされているか、研究してみてください。また「ti amo」も、どの音節からどのように伸ばされているかなど、音節での伸び縮みを参考にしてみてください。小さい音でもしんのある響きのある声で歌っています。たとえ囁くような表現で歌うとしても、ミルバのような歌い方を参考にしてみましょう。(♯β)

 

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1.イントロから歌に入るまでが印象的です。まずはリズムに圧倒されます。このリズムからは何か雄大なことが始まる印象を受けます。全力のオーケストラ伴奏が鳴り響き、Ri と力強く歌い始めたかと思うとすぐに伴奏が途切れ、優しい声でRicorda, amore mio 「覚えていて恋人よ」と静かに歌が始まります。

 

2.声自体もつやのある声で素晴らしいのですが、何よりも表現の種類が豊富です。ほんの短い時間にどれだけの変化があるでしょう。力強さ、優しさ、のびやかに甘く、また雄々しさ。 凛として静かさの中に強い意志が感じられる表現です。

 

3.初めの1フレーズが作れれば上級者です。声のこと、息のこと、表現のことがすべて入っています。また、イントロをリズム練習に使ってください。リズムに乗って歌うどころかむしろリズムを作っていくことがヴォーカリストの役割です。そのためにはリズム練習は実は必須です。冒頭のリズムを口で真似してみましょう。「ルン、トゥルルルンルン、ルンルンバン」勢いよく一息でいえますか。(♭∴)

 

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1.「思い出して」という意味のタイトル。「あなたが辛いときには私の愛を思い出してほしい、そしてあなたが誰かの愛に満たされているときには私のことは忘れてほしい」といった内容で、深い愛情を歌っています。行進曲風のリズムのやや大仰な前奏ののち、まったく別の世界のことかのように甘く歌いかける「リコルダ」という言葉が印象的です。

 

2.ミルバは哀愁を秘めた深みのある美声で切々と歌い上げています。要所要所でビブラートを大きく使い、サラッと流すところでは清潔に音を運んでいます。このビブラート/ノンビブラートの自在な使い分けは、見事という他ありません。

 

3.繰り返し歌われる「リコルダ」というフレーズは完全4度の下降型でできています。この音型は古くはバロック時代にパッサカリアシャコンヌと呼ばれ、憂鬱な気分の表現として大変好まれていました。この音型は極めてレガートに歌うことによってその本質を体現できます。是非、ここはこだわってください。(♯∂)